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サルノテ  作者: アリアリア
第二冊 『晴明くんの物語』 一節
20/95

間違った恋心



「でも、もっと早く言って欲しかったな、事後報告なんかじゃなくてさ、相談もしてくれなかったのは寂しいよ」

「ご、ごめんよ、でも……」


 言いよどむ海斗、ああ、何で何で何でなんだ、もっと早く言ってくれればよかったのに、もっと早く相談してくれればよかったのに、そうすれば絶対にこんな展開にはならなかった、海斗のことなら俺はなんでもわかってる、いくらでも誘導できたんだ、好きだっていうのは勘違いだ、近くで妥協してるだけじゃないか、いくらでもいくらでも、もっと言えば榛名よりも、ずっとずっと可愛い女の子を紹介することだってできたんだ。


 海斗の好みは知ってるんだ、それにあった可愛い女の子を海斗にあてがってやればいい、単純なやつだ、一途なやつだ、ちょっと気がある反応をされればころっといってあっという間に好きになるだろう、今までの恋愛相談は全部俺が受けてきたんだ。こいつの傾向なんて知り尽くしてる、なんていったって親友だ、俺の大切な親友だ!


なのに何故よりにもよって榛名なんだ、今までただの友人で恋愛感情なんてなかっただろう、あったら俺が気づいてる、俺の目を欺けるほど海斗が利口だなんてありえない。


「もう、謝る必要ないでしょ? えっとね、晴明はるあき、私が海斗に告白したの」

「ええ!? そ、そうなのか……?」


 俺が問うと海斗は動揺しながら首を縦に振る。ああ、なんて緩慢な動作だろう、見ていて腹が立って仕方ない、おずおずおどおど、まったくもって見苦しい、どうしてどうしてどうしてなんだ、こんな奴のどこがいい? ここにいるだろう、完璧が! 君が愛するべき男が!! だって俺が君を愛したんだ、なら君が俺の物にならないなんてありえない。君が好きだ、愛しているよ、蒲公英のような君こそを。


 白百合はいらない、俺に並び立つものなんて女であっても煩わしい、向日葵もいらない、輝くような日輪は俺の輝きを損ねてしまう、俺にふさわしいのは君なんだ、蒲公英のような君なんだ、キミが好きだ、愛してる、いつもそばに居てほしい。そして俺を引き立てて欲しいんだ。


 そのためにずっと計画を練ってきたんだ、君から告白してくるように、俺はその告白に驚いて一日じっくり考えて考えて考えて、そしてその告白を受けるんだ、海斗はそれを祝福して、俺達の幸福な日常の始まりになるんだ。


三人でずっとずっと続く、俺の幸福の日々が……。なのに、二人が付き合うなんて一体どうしてくれるんだ、俺の幸せが崩れてしまう、俺の幸せが壊れてしまう、こんなのおかしいあり得ない、俺はこんなに優れているのにっ!!


 ……ああ、らしくないな、俺らしくない、心の中だけとはいえ、ここで取り乱すのは俺らしくない、優雅に優雅に、心の底から親友を気遣うように、心の底から喜ばしい驚きに包まれているように、表面上だけでもそうしておかないと、どうせ何かの間違いだ、すぐ別れるに決まってる。


「でも、驚いたな。君が海斗のことが好きだったとは、全然気づかなかったよ」

「うん、私も気づいたのは最近だったの」



 そう言って彼女は語り始める、聞きたくもないどうでもいい恋話を、なんだなんだ、惚気かこれは、そんなことは認めない、君は俺を愛するべきなのに。そして彼女の話を聞いて確信した、君は俺といたほうが幸せになれると、だってそうだろう、好きになった理由がなんだ、泥水のように先行きもなく、真水のように味気ない。「海斗を見てると放っておけないなぁと思っちゃって……」だって? 


何を言っているんだこの女は、放っておけばいいだろう、その男は俺の大事な親友で、ただのグズでのろまだぞ。俺のようにどこまでも優秀で、ただいるだけで人を引き付ける魅力なんて欠片もありはしない。なのになのに何でどうしてッ!


「それに……、晴明も知ってるよね。海斗の優しいところたくさん、そばにいると落ち着くっていうのかな。うん、側にいたいと思えるの」


 そう言って彼女は海斗の手を握った、互いに互いを見つめ合って本当の本当に幸せそうに夕焼け色の空の下、まるで一枚の青春画、くだらないくだらない青春画

 ああ、そうだね、よく分かるよ、頭の回りの悪い、俺の大親友を見ていると本当に落ちつくよ、横にいるだけで自分の優位を自覚できる、俺はすごい、俺はすごい、皆に好かれる人気者だ。


 ああ、素晴らしいよ世界、ああ、最高だ世界、そう思っていたのにそう思っていたのに。

 己の身に起きた理不尽を呪いながら、俺を好きになるべきだった少女の幸せそうな笑顔を、怨嗟と共に見つめ続けた。



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