仲良し三人組
子供の頃からずっとずっと三人だった、小学校も中学も高校だって三人だった、海斗お前は俺に言ったよな、「このままずっと仲良く三人やって行きたい」と……。
ああ、俺もそう思うよ晴明、俺もお前のことを親友だって思ってる、まだ言葉すら話せなかった頃からの親友だ、大事に思わないわけがない、お前は親友で対等だ。
たとえお前の学力が俺より遥かに劣っていたとしても、たとえお前の容姿が俺とは比べようもないものだとしても、俺の何もかもがお前と比べようのないほど完璧だったとしてもだ。俺とお前は対等だ、ああそうだ、ああそうだ、俺はお前が好きだよ海斗。お前は親友で幼なじみだ、お前のことは大好きだよ、決して見下してたりなんてしていないさ。
バスケ部のキャプテンなんてたまたま偶然さ、ちょっと頑張って努力すれば誰でもなれるよ。推薦で生徒会長? おいおい、厄介事を押し付けられただけだよ、海斗だってやろうと思えば簡単にできるさ。模試で三位? たまたま偶然だって、学校の授業をちゃんと聞いてただけさ。女の子にモテて羨ましい? おいおい、やめてくれよ海斗、ちょっと目立つから寄ってくるだけさ。
そんな奴らより、昔から本当の俺を知ってる、お前たちがいるほうがずっとずっと大切だよ……。
はっは!! なんでどうして本当に? どこまでも世界は素晴らしいッ!! ちょっと頑張れば皆にほめられた、ちょっと頑張れば皆に好かれた、ちょっと頑張れば皆を置き去りに出来た、ああ、なんて素晴らしいんだろう、この世界は大好きだ、父さん母さんありがとう、俺をこの容姿で産んでくれて、俺にこれだけの才能を与えてくれてッ!!
それと同じくらいに海斗、俺は君に感謝するよ、俺の幼なじみに生まれてくれて、俺より不出来に生まれてくれて、何もかも勝ってる俺の親友でいてくれて、比較されて比べられて貶められて、それでも俺をすごいって俺の親友で誇らしいってそう言ってくれるお前を、俺は誰より親友だと思っているよ。
でも、正直言ってそんなことはどうでもいいんだ、完璧な俺も恋をしたんだ、ずっとずっと三人で、ずっとずっと一緒にいる、幼なじみの君のことを、榛名俺は君が好きだ、小学校の頃から、中学校の頃から、高校の今に至るまで、ずっとずっと君が好きだ。正直に言えば君よりずっと可愛い女の子、ずっと美しい女の子に告白されたことなんていくらでもある、そのすべてをことごとく俺はふってきた、その理由が君には分かるかい?
君は決して白百合のような嫋やかな美しさは持ち合わせていない、君は決して月下美人のような一瞬のきらめきも、夜の帳のような神秘性もありはしない、でも、でもだ、君は蒲公英のような女の子だよ、夏の日差しを一身に浴びる向日葵のような輝く光はないけれど、暖かくゆるやかに日差しを貯めこんで、周囲の心に日輪のようなひだまりを与えてくれるそんな女性だ。振り開けると在りし日の思い出に、強く強く残るようなそんな女の子だ。
だからそれだけは許せなかった、何故だ何故だ、俺のほうが優れてるだろう、俺のほうがかっこいいだろう、俺の方が将来性があるだろう、なのになのに何故なんだ?
「えっと、晴明……。僕、優奈ちゃんと付き合うことになったんだ」
「えっとね、晴明……。私、海斗くんと付き合うことになったの」
ありえない、ありえていいはずがない、ずっと君に見せていたよね、俺のほうが優れてるって、海斗なんか足元にも及ばないって、何もかもが俺のほうが上なのにそどうして君はそいつを選ぶんだ? あり得ないありえない、俺以外を選ぶなんてありえない。気持ちは通じあってたはずだ、言葉になんて交わさなくても。
いつも俺に笑顔を向けてくれただろう、俺たちは両思いのはずだ、だって俺は優れてる、人格だって完璧だ、誰からも愛されてる、両親にも先生にも先輩にも同級生にも、下級生にも、皆に皆、愛されているッ! なのになのにどうしたことだ、こんなことがあっていいのか、いい訳がないッ!!
「そうか、うん、良かったじゃないか、海斗。前からずっと思ってたんだよ、海斗と榛名はお似合いだって! 本当に嬉しいよ!!」
そう言って海斗と榛名の手を握り、夕焼け空の沈みゆく、赤焼け色の校舎裏で、心の底から祝福しているように振る舞った。




