朝陽ちゃんの物語
「『私の物語は終わりました』っと♪ やったやった書き終わった♪」
「良かったですね。何を書いていたんですか?」
「う~ん、観察日記……? いや、物語かなぁ、うん、これは物語だよ、物語だ!」
トラルが急に大きな声を出して喜んでいます。急な行動はいつものことです、しかし、本を書く趣味があったとはそれなりに人となり走っているつもりでしたが、まだまだ知らないことも多いようです。
「どんなお話何ですか?」
「う~ん、ヒミツ♪ 僕好みではあるんだけどね」
「そうですか、ならいいです、ろくなものではなさそうですし」
「ホント真冬ちゃんはひどいよね、そういうところも僕は好きだよ♪」
「……貴方は本当に嘘ばかりつきますね、そういうところが嫌いです」
「うん、だから僕は真冬のことが大好きなんだよ♪」
そう言ってカラカラカラカラ、トラルは笑い、自身が描き上げた93枚の紙を手に取り、暖炉の中に放り込んだ。一際大きく燃え盛り、書かれた文字は変わらず読み取れず、謎の物語はトラル以外の誰にも読まれること無く燃え尽きて、どうでもいいことのはずなのに、なんだかとても気になって。
「トラル今燃やしたお話は題名はあるんですか?」
「ん、気になるの真冬ちゃん♪」
嬉しそうに詰め寄るトラルに、聞いたことを後悔しつつ返答を待つ、貯めに貯め焦らしに焦らし、「気になる気になる?」とうるさいトラルに気まぐれなんておこすものじゃなかったなと、暖炉の火を眺めながら思っているとやっとトラルは答えてくれた。知った所でもう燃えてしまった題名を。
「あれのタイトルはそうだね、『朝陽ちゃんの物語』だよ♪」
ほら、聞いた所で意味不明、何故人名なのかすらわからない、ほんとうに本当にトラルに付き合わされた分だけ時間の無駄でした。夜も深いですし、もう寝ましょう。人が来れば分かりますし。
ギーコギーコ、椅子を前後に動かしてゆらゆらゆらゆら楽しんで、一日誰も来なかったことを再度神様に感謝しつつ
「そうですか、そろそろ眠くなってきたので私は寝ますね。何かあれば呼ばないでください。それではおやすみなさい、トラル」
「うん、お休み! 何か無くても呼びまくるね!」
最後の言葉を聞き流しつつ、トラルの部屋を後にして、昨日の感謝から今日の祈りへ、どうかどうか神様お願いします、今日も誰も訪れませんように。その方がきっときっと幸せな人が増えるでしょうから。
寝間着に着替えてベットの中に、ほんのりと冷えたベットが温まった私の体に心地よくてゆっくりゆっくり意識は闇へ、完全なくなるその一瞬、かすかに聞こえた泣き声は一体誰のものでしょう、きっと気のせいなんでしょうね。ここ最近誰もここには来ていませんから。
今日も明日も明後日もずっとずっとずぅぅっと、誰もここに来ませんように。それが私の願いです、トラルに絶対願わない、私だけの願いです。




