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サルノテ  作者: アリアリア
第一冊 『朝陽ちゃんの物語』
13/95

嫌い嫌い大好き


「知っらないわよ、そんなことッッ!!!」

「は……、はぁぁぁぁあああああああ!?!?!?」


 はッ、ばっか見たい、こっちが折れて慰めるとでも思ったの? そういうところが大っ嫌いよ、頑張ったとか頑張ってないとかそんなの私の知ったことじゃないわ!


「頑張ったとか期待に押しつぶされそうとか、そんなの私には関係ないもの、勝手に頑張ったのは夕陽じゃない。そんなこと私は知らないもの、こっちからして見たらせっかく自分だけのものが出来たと思ったら、横から全部かっさらわれて不愉快でしかなかったわ。 別のことすればいいじゃない、何考えてんのよ、バカ夕陽!!」


「だ、だってちゃんと話してくれないし、なら同じ部活に入れば少しは話せるかなって……」


「完っ全に逆効果なんですけど。何、後から入ってきたくせにマッハで私を追い抜いてさあ、仲良くしましょうっていうの? 喧嘩打ってるとしか取られないっつーの! ! バーカバーカバカ夕陽!!! 頭のなか何詰まってんのよ!!」


 馬鹿じゃないの馬鹿じゃないの馬鹿じゃないの、何考えてんのこの馬鹿妹、嫌になったから離れて自分の居場所を作ったのに、そこを荒らして仲良くできるわけないじゃない、頭いいくせに馬鹿じゃないの!!


「な、何よ、そこまで言うことないじゃない!! 大体ちょっと私が頑張ったからって追い抜かされるお姉ちゃんの努力不足なんじゃないの!?」

「はぁぁぁあああああ!? 私頑張ってたの知ってるよね、特に陸上すっごく頑張ってたの知ってるよね? 見てたの知ってるわよ、気づいてないとか思ってるんじゃな いわよね!? あれだけ頑張って努力不足だってあんた言うの!?」

「あぅ、ご、ごめん……」

「謝らないでよ、負けた私が惨めでしょうがッッ!!!」


 何よ何よ何なのよ、最後まで強気で来なさいよ、そこで謝られたら私がばっかみたいじゃないッッ! バカバカバカバカバカ夕陽!!!


「もう嫌、夕陽なんて大嫌い。何で私に構うのよ、放っておいてくれればよかった、遠くに行ってくれるだけでよかった、なのに何で近づいてくるのよ……」


 悲しいの辛いの苦しいの、頑張っても遠いの届かないの、同じに育ったはずなのに、同じに産まれたはずなのに、好きで好きで好きだったのに、嫌いで嫌いで嫌いになった。


 八つ当たりだってわかってる、逆恨みだってわかってる、何で貴方はいい子なのよ、どうして私は悪い子なのよ。近づかないで近付かないで、そばにいればいるだけ貴方のことが嫌いになるの。

 同じな貴方、違う貴方、大好きな妹、大嫌いな妹、嫌いよ好きよ、大好きよ大嫌い。


 ぐるぐるぐるぐる回る頭はカランカラン、滑車はひたすら空回り。一歩足りとも前に進まず、ただただ、ただただ空回り、速さだけは増していき、頭はグラグラぐるんぐるん、ガシャンと壊れる音と共に、私の心は決壊した。


「ああああぁぁぁぁぁあああああああ────────」


 声が響き、心が響き、夕焼け色があふれだす。年甲斐もなく泣き叫び外聞なんてそっちのけ、ほらほら夕陽ちゃんだってびっくりしちゃって無表情だ。でも悲しいの悲しいの、ただひたすらに悲しいの。痛くて痛くて痛すぎて、何が何だか分からないの。


 夕陽ちゃんがいなくなれば全部うまくいくと思ったのに、最初の一回目は嬉しかった、38度目までは希望が持てた。でももうダメだ、あれはダメだ、どうして私を助けたの、どうして私に笑いかけたの。やめてよやめてよ夕陽ちゃん、私は貴方を嫌いでいたいのに。


「お姉ちゃん……」


 何よ何よ、近付かないでよ。手を伸ばさないで、抱きしめないで、私の頭を撫でないで。優しくしないで、ぎゅっとしないで、触れないで触れないで触れないで、私は貴方が嫌いなんだから、貴方が大嫌いなんだから。


「お姉ちゃんが私のことを嫌いでも、私はお姉ちゃんが大好きだよ」


 嫌い嫌いキライキライ、そんなわけ無いそんなわけ無い、なのに何でそんな笑顔を私に向けるの? こんな私を好きなわけがない、だって私は貴方を殺したんだ、何度も何度も殺したんだ、楽しかった楽しかったの、だから私を嫌いになって、嫌いと言って嫌いと言って。


「お姉ちゃんと同じ部活に入ったのはね、お姉ちゃんの側に居たかったの、一緒の部活で一緒に頑張って一緒にたくさんたくさん思い出を積み上げて行きたかったの、だってたった一人のお姉ちゃんだもん、大好きなお姉ちゃんだもん」


 やめてやめてよ、何で笑うの、何で泣くの、なんでそんな顔で私を見るの、やめてやめてよ近づかないで、私に触れないで。


「でもそれがお姉ちゃんを傷つけちゃってたんだね、ごめんねごめんね、私って馬鹿だったね……」

「………………」

「でもこれだけは言わせてほしいの、これだけは信じてほしいの、『朝陽ちゃん』。私は────」


 ヒックヒックと止まらぬ私の両肩に手をおいてホンの少し引き剥がし、真っ直ぐ私を見つめる夕陽ちゃん、涙が一筋、朝焼けに照らされ輝いて、その笑顔はどこまでも愛らしく、そこまでも美しく、だからこそ心のなかは激情へ。


 どうして貴方はそんなに綺麗なの、私はこんなに醜いのに、ああ、わかってるこれは嫉妬だ、理不尽だ、それでも思わずにいられない、私は夕陽ちゃんが大嫌いだ。なのになのに……。


「私はずっとずっと朝陽ちゃんが大好きだよ♪」


 夕陽ちゃんが大好きだった夕陽ちゃんが大好きだった。夕陽ちゃんに嫉妬する自分が誰より嫌いだった。好きなのに好きなのに、大好きなのに嫉妬に狂う自分が何より嫌いだった。だから一人で居たかった、そばにいるのが苦痛だった、近くにさえいなければ醜い私を見なくて済むのだから。


 嫌い嫌い私が嫌い、好きよ好きよ夕陽ちゃん、可愛いかわいい私の妹、大好きな大好きな私の妹。醜い姿を見られるのが嫌だった、醜い心を知られるのが恐ろしかった。でもでも夕陽ちゃんはそれでも私が好きだと言ってくれた。大嫌いだといった私を、妬ましくて仕方ない醜い私を、大好きだとお姉ちゃんだからじゃなくて『朝陽』が好きだと言ってくれた。


 私は何も変わらない、醜い私は変わらない、それでも夕陽ちゃんは好きだと言ってくれた、醜い醜い私も含めて好きだと言ってくれたんだ。


 夕陽ちゃんに憧れた、夕陽ちゃんになりたかった、夕陽ちゃんに負けたくなかった、夕陽ちゃんに勝ちたかった、夕陽ちゃんに見下されるのが怖かった、夕陽ちゃんに見捨てられるのが怖かった。


 けれど私の妹は私が思っているよりずっとずっと暖かくて、それにきっと私は救われて、だから私も大好きで大好きで大嫌いな妹をまっすぐまっすぐ見つめ返して……。


「夕陽ちゃん、私は貴方が妬ましくて大嫌い。でもでもね、それ以上に────」


 夕陽ちゃんが大好きだとその一言を伝えよう、そして全てを謝ろう、39度の私の罪は決して許されるものじゃない、だから全部夕陽ちゃんに話して謝ろう、信じてくれなくても構わない、許してくれなくても構わない、おかしいと思われても構わない。

 どう思われても構わないと思えるほどに私は彼女に『大好き』に救われた。だから思いを伝えよう、私のありのままの気持ちを伝えよう。


 夕陽ちゃん貴方のことが大好きだよって。


















































「うん感動的だね、それじゃあ願いを叶えようか♪」


 私がすべてを伝えるその刹那、楽しそうな楽しそうな、心の底から楽しそうな男の声が響き渡った。


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