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サルノテ  作者: アリアリア
第一冊 『朝陽ちゃんの物語』
11/95

39度目の終わり

 遅い遅い遅い私、間に合わない逃げられない、時は止まらず流れるばかり、時間は永遠にありはしない。こぼれ落ちるは雫のようで、私は壊れた鍋の底、中身は漏れだし空っぽで、最後には何も残らない。

 遅い遅い遅い私、迫る揺りかご潰れる私、初めて轢かれた妹もグチャッと潰れて大惨事、まさか私が体験するとは思わなかった、。


 ああ、大変大変だ。このままじゃ私は死んでしまう、遅い遅い遅い私、避けるなんてできるほど私は速く走れない、それでも私が助かったのは私を置き去りにしてしまう、誰かが私を助けたからだ。


 何で何でどうして嫌だ、私の目の前には真っ赤っな揺りかご、刹那に見たのは叫ぶ妹。ドンと私を追う手のひらは今まで感じた何よりも力強く強引で、私と妹は入れ替わる、速い速い妹と、遅い遅い私では決して私は敵わない、でもでもこの一瞬だけは私は確かに早かった。


 夕陽に押され、遅い私に妹の速さが確かに加わって、そして私の遅さは妹へ、ぐちゃぐちゃパキン、お肉が潰れ辺りは真っ赤水風船、鉄とガラスの揺り籠は破片を撒き散らし、ついでとばかりに傷つける。


 大部分は妹へ、ほんの僅かに私へと、妹の可愛いお顔はフライ返しで押さえつけられたパンケーキ、可愛い二つのお目目ちゃん綺麗な二つの目玉焼き、あれだけ早かった体はそう、骨ごといわしのハンバーグ、真っ赤なソースに彩られ、夕食の完成だ。


 どれもこれも鉄の味が強すぎて食べられたものじゃないだろう、はははは、やったやったうまくいった! 38度目で見た大ニュース、奇跡的に怪我人0人の大ニュース、メンテ不足? 老朽化? それともボルトの締め忘れ? 原因なんてどうでもいいけど、少なくとも犠牲者0ではなくなった。スイッチを使って殺せないのならそれ以外で終わらせる。


 ははは、ははは、ははははは、ああッッ、ふざけるなふざけるなふざけるなッッ!!! 何で何で何なのよ!! これじゃ、私がバカみたいじゃない!! 何よ、最後のあの顔は、何で私に向かって笑うのよ!! やめてよやめてよ、お願いよ、やっと一人になれたのにやっと一人になれたのに、どうして一人にしてくれないの、いやよいやよ、こんなの嫌だッッ!


 泣きわめく私の集まるたくさんの人達、わいわいがやがや、心配そうに大丈夫かと私を見つめる好青年、隣りにいるのは彼女さんかな、貴方いい人見つけたね。


 園内の陽気な陽気な音楽も、緊急放送に切り替わる、駆けつけるのはヘルメットを被った救急隊員、メルヘンな空間にどこまでも似合わない現実だ。


 たくさんたくさん質問された、痛いところはないかとか、貴方の名前はなんですかとか、いっぱいいっぱい聞かれたけれど、なんて返したかなんて覚えていない、頭のなかはリフレイン、妹の最後の笑顔がリフレイン、心はどんどんぐつぐつと赤い赤いイチゴジャム、水気は飛んで粘り付き、それでもぐるぐるぐつぐつと真っ赤な真っ赤なイチゴジャム。


 運ばれた病院で簡単な検査と手当で四苦八苦、いくつかガラス片が刺さってた以外、私の体に異常なし。しばらくすると慌ててやってきたお母さんとお父さん、私の姿を見つけるなり、強く強く抱きしめてくれてほんのちょっぴり嬉しかった。次の言葉はわかってる、夕陽は一体どうなった?


 わかってる分かってるわかってる、いつもどおりの非日常、何も答えない私の代わりに周りにいた誰かが代わりに答えてくれる。ああ助かった助かった、今の私はそれどころじゃない。


 お母さんの悲鳴、お父さんの嗚咽、あっという間に大合唱、でもでもそんな光景本当は、心の底からどうでもよくて、私はずっと『次』があるかを考えていた。


 早く家に帰りましょう、そして温かいお布団へ、ぐっすりぐっすり眠りましょう、そして素敵な明日を迎えよう。


 私にとっては悪夢のような始まりの始まりの始まりの朝を。


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