第七話 旅の準備|(魔術編)
今回も宏美視点です。
書きやすいですよね。
ーーーーーーーーーーー宏美視点ーーーーーーーーー
行動を共にすることにした私と恭子さんは、まず魔術の習得をすることにしました。
だって旅をするったって、か弱い女の子ですもん。私... いえ。私達は。失礼なことなんて考えてませんよ。だから、そんな目で見ないで下さい。恭子さん。仲間じゃないですか。
アリアさんに尋ねたところ、
「裕樹さん達はクロードさんを訪ねたそうですよ。有名な人なので、町の西側に行けばすぐに見つかります。ただ、気難しいことでも有名ですので、あの二人はどうやってお話を聞くことが出来たのか...。」
と言っていました。少し嫌な予感がしますが、クロードさんを訪ねてみることにしました。途中私達は他愛もない話をしていました。
「旅をすることになりましたけど、上手くいきますかね?」
「それを考えても仕方ないわよ。やらなければ帰れないんだから。」
「良いことも有れば良いんですが。」
「素敵な出会いも有るかもよ。誕生日を素敵な男性と過ごすなんてイベントも有るかも。」
「あははっ! そうですね。でも、そうなると一年近く帰れないことになっちゃいますよ。」
「そうなの? 私は二か月ほどで誕生日よ。それまでに出会いがあるかしら。」
「そうなんですか? お幾つにになるんです?」
「二十代よ。」
「いや、あの...お幾つに...。」
「二十代よ。」
満面の笑顔なのに目が笑ってないです。どうやら禁句のようですね。これから気を付けましょう。
ちょっと気まずい雰囲気になりましたがクロードさん宅に着きました。
「ごめん下さい。クロードさんはいらっしゃいますか。」
「何だね。私は研究で忙しいだよ。」
出て来たのは金髪のナイスミドルなおじ様でした。でも、気難しいというのは本当のようです。明らかに嫌そうな顔です。ここは大人な恭子さんにお任せしましょう。
「お忙しいところを申し訳有りません。実は私達は旅のものでして。町でご高名なクロードさんがこの町にいらっしゃると伺ったのもですので、ぜひ、ご指南を頂きたく思いお伺い致しました。」
誰ですか? この人?
「そっそうかね? わざわざ私を訪ねて来るとはなかなか見所の有る娘達だな。」
一瞬で籠絡するおじ様。いえ、おっさん! 男ってのは...。
「こんなところで立ち話もなんだからね。お入りなさい。」
舐め回すような嫌らしい視線。寒気がします。恭子さんよく大丈夫ですね?
「なんだ聞いていたより紳士ですね。これで裕樹さんや和雄さんに追いつけますね。」
「か・ず・お?」
恭子さんの小声を聞き逃さなかったクロードさん。そして、豹変します。
「あんたら、あいつの仲間か?」
「えっとぉ... 仲間と言うか知り合いと言うか...。」
「帰れ! 貴様らに教えることは無い!」
勢い良くドアを閉め、クロードさんは家の中に消えました。呆気に取られる私達。和雄さん、あなたは何をしたんですか?
クロードさんからの指導を諦めた私たちは、多忙と知りながらアリアさんに指導をお願いしました。快く承諾してくれたアリアさん。お世話になりっぱなしです。
「近代魔術は火・水・風・土の属性が有ります。統計的なものですので確証は有りませんが、適性というものが考えられています。魔術はイメージ、精神的なものに大きく影響されますので、適性は本人に性格で判断されます。」
「と言いますと?」
「火は攻撃的な性格、水は思い切りの良い楽観的な性格、風は温厚な性格、土は慎重な頭脳派な性格と言った感じです。勿論あくまでも統計的なものなので絶対では有りません。」
「すると、私達はどれを目指した方が良いと思いますか?」
「まずは一番適性の有りそうな属性を、宏美さんは風、恭子さんは水を練習してはどうでしょう? 両方共私が使えますので、お手伝い出来ますよ。」
アリアさんが楽観的と言うのは違う気もしますが、気にしないことにしました。絶対では無いと言うことですし。
「まずは、お手本をお見せしましょう。『命の息吹たる風よ、舞い踊れ。ウィンドブレス!』。」
ビュオオー。アリアさんの差し出した手の先で、風が木の葉を巻き上げました。アリアさん恰好ぃ! 私もやりたい!
「よぉし! 私も! 『命の息吹たる風よ、舞い踊れ。ウィンドブレス!』。」
シィーン。何も起こりません。恥ずかしぃ! 穴が有ったら入りたい|(涙)。
「最初は誰でも、出来ないものですよ。気を落とさないで。」
「そうよ。まだ、始めたばかりじゃない。ククッ!」
優しく慰めてくれるアリアさん。笑いを堪える恭子さん。ちくしょー! もう絶対詠唱なんかしない! 詠唱無しで使えるようになってやるぅー!
軽いトラウマと引き換えに、一週間かけて風属性の習得をした私。勿論詠唱無しです。頑張りました。恭子さんはというと。水属性の習得に成功、ちゃっかり治癒魔術まで習得してました。世の中不公平です。
魔術の習得を終えた私達は、アリアさんにお礼を言い冒険者ギルドに向かいました。アリアさんの勧めに従い、ベテラン受付嬢のミーアさんに話を聞く予定です。
冒険者ギルドに入った私たちはすぐに章吾君を見つけたので、恭子さんが話かけました。
「章吾君。久しぶり。私達は初めてなんだけど、良かったら一緒にチームを組まない?」
「あんた達か。いいよ。足手まといがいても面倒だし。」
「そう言わずに。あれっ。その腕どうしたの?」
「ああ。これ? 昨日少しヘマしてね。大したことないさ。」
章吾君は腕を怪我したようでした。
「ちゃんと治療しなきゃ駄目よ! 場合によっては命に係わるんだから。見せて。」
「いいって! すぐに治せるわけでもないのに。」
「任せて! 『ヒール!』。」
恭子さんのかざした手から出る淡い光が章吾君の腕を包むと、ゆっくりと傷が癒えていく。
「治癒魔術! しかも無詠唱! あんた習得したのか! すげぇな!」
驚く章吾君に自慢げに答える恭子さん。
「白衣は無いけど、天使と思ってくれて良いわよ。」
「天使というか...サキュバス?」
「どう言う意味かしら?」
そういう意味です。私も章吾君に同意します。
恭子さんの治癒魔術は周囲の注目を集めました。習得出来る人が少ないというのは本当のようですね。
「おいっ! 治癒魔術だぜ!」
「しかも、ほとんど詠唱してないぞ!」
「仲間に引き入れられねかな。」
「でも、年増はなぁ。」
最後の言葉を聞き逃さなかった恭子さん。ゆっくりと見回すと、厳つい男達が俯いて黙ってしまいました。見えませんでしたがどんな顔をしていたのでしょうか。正面に居た章吾君はというと、青白い顔で震えていました。
「さて、お話を聴きに行きましょうか。章吾君。宏美さん。」
「...はいっ。」
蚊の鳴くような声で返事をする章吾君。章吾君が仲間になりました|(強制)。
開き直ってもう一分割!
とっとと旅立たせたいんですが...御免なさい。
今回は恭子さんの活躍?暴走?が目立ちました。こんなキャラでいきたいと思います。
そして、地味に登場したクロードさん。和雄の被害者です。次回にも被害者が...。