第五話 魔術
宏美視点です。
今回は裕樹の大暴走?
ーーーーーーーーー宏美視点ーーーーーーーーーー
礼拝堂に集められた私達、集めたのは裕樹さんです。和雄さんも話の内容は知らない様です。突然集められたことに苛立っている人もいるようです。
「全員集まっているな。」
入り口からアリアさんを連れだって現れた裕樹さんはみんなの間を通り、檀上に上がりました。本来は神父様が立つ場所です。説法でもする気でしょうか?
「今日は俺達の今後について話をするために集まって貰った。」
「なんでお前が仕切ってるんだよ。」
茶髪のいかにも不良といった感じの少年が口を挟みます。
「別にこの場の全員を仕切ろうって訳じゃ無い。今回はただ仕入れた情報の公開と、俺の今後の方針を話し賛同者を募るのが目的だ。確か章吾だったかな。聞きたくないというなら、出て行ってくれて構わないよ?」
「呼び捨てにするんじゃねぇ!」
安い挑発に乗る章吾だが、裕樹の次の言葉で固まる。
「俺の最終目標が元の世界に帰ることだとしても聞く気は無いか?」
「...。帰れるのか?」
全員が息を呑む。
「俺は可能性は有ると考えている。あくまでも俺個人の考えだが、それを聞いた上で各自、自己責任で判断して欲しい。」
何やら難しい話になりそうです。私はついていけるのでしょうか?
「まず最初に話さなければいけないのは、俺達がこの世界に転移してしまった現象についてだ。」
「あれの原理が解ったのかい?」
質問したのは和雄さんでした。
「解った訳じゃない。推測しただけですよ。」
「そうか、続きをお願いするよ。」
「あれは異世界間における。テレポーテーションだと考えます。」
いきなり突飛な話が出てきました。この人本気で言ってるんでしょうか。
「俺達の知る常識では有り得ないと思うでしょう。」
「確かにに有り得ないと思うよ。」
「だが、思い出して欲しい。あの後暫らくの間は携帯電話で通話出来たことを。それは、少なくとも電波は異世界間を行き来していたことを意味している。つまりは情報は行き来させることが、出来たということだ。」
「しかし、情報だけ行き来してもね。肝心の身体が...。」
既に二人の世界です。置いていかれてるのは私だけじゃ無いですよね?
「生物は全て設計図にあたる情報を持っていますよね。先生?」
「遺伝子情報のことを言っているのかい?」
「和雄さんも言ってましたし、この中にも気付いている人もいるでしょう? 後天的な怪我や病気が治っていることに。それが治ったのではないとしたら? どうでしょう?」
「今の身体は、遺伝子情報だけでこちらに来て、新しく作り直された身体だということか。しかし、記憶はどうなる?」
「記憶も情報の一種でしょう。」
「なるほど、方法は兎も角として原理は正しいんじゃないかな。」
知恵熱が出そうです。
「ただ、治療済みの先天性の病気が再発する危険も有るででしょうね。」
「たとえば?」
「包○とか?」
あれ? 病気じゃないですよねそれ? なんでしょう? 数人の男性が俯いてしまいました。触れないでおくのが優しさですよね。
「ウウン。まあ、その話は置いといて。元の世界に帰れる可能性についてはどう考えているんだい。」
「その話に移るには、この世界について少し話さなければいけません。」
一呼吸間を空ける裕樹さん。嫌な予感がします。
「まず、この世界は異世界と言っても、平行世界の類いだと考えます。」
「異なる歴史を辿ったことで、分岐した元は同じ世界のことだね。存在を予測されているが、仮説の段階だったはずだが...。」
「当然ですね。世界をその外側から観測出来なければ立証出来ませんからね。俺達の様な例外を除けばですが。」
「するとこの惑星が、異なる歴史を辿った地球だと考えるんだね。そう考える根拠は?」
「星座と月です。昨晩天体観測をしました。すると、白鳥座に蠍座、ペガスス座と俺達の良く知る星座が観えました。星座というのはあくまでも地球から観える星の配置が、何かの形に見えるだけです。」
「つまり、此処が地球で無いならば、星座の形も違って観えるということか。」
「そうです。同じ星座に含まれる星も地球からの距離は様々ですからね。例えて言うなら、観測者から其々違う距離で離れた位置にいるAとBという人物。観測者から観てAは左側、Bは右側にいるとします。この場合、観測者が移動すれば見かけ上はAとBの左右が反転することも有れば、両方を同時に視界に捉えることが出来なくなる場合も有ります。」
「観測者は私達、AとBは星座を形作る星々。生物が生存可能な他の惑星よりも、同じ地球にいると考えた方が自然ということだね。」
「そして、俺達の世界とこの世界が枝分かれした原因はジャイアントインパクトだと考えています。」
なんか何処かで聞いたような、変なワードが出てきました。
「何人から可哀想な人を見るような視線を感じるから、一応付け加えておくけど、学術用語であって中二ワードじゃないからな。」
「生物が誕生する以前の原始の地球で起こったとされる、月が形成された要因の有力説だね。」
和雄さんナイスなフォローです。何人か勘違いしていたようですね。
「巨大隕石の激突で巻き上げられた物質が、地球の周りで集まり月になったという説ですね。この世界は俺達の世界よりも多くの物質が巻き上げられ、二つに月が形成されたのだと思います。」
「となると、自然環境にも多くの差異が生まれたことになるね。」
「そうですね。月が二つも有れば重力の干渉も複雑になるでしょう。それが獣人族や亜人族、魔族や魔物といった。俺達の世界との違いを生んだのだと思います。」
あれっ! 魔族? なんか恐ろしげな言葉が...。みんな気になりますよね?
「あの... 裕樹さん? 魔族って?」
「ああ...。魔族ね。次の話にも関わってくるから、ちゃんと話すよ。」
アッサリしてますね。この後の話が怖いです。
「この世界には、ヴァンパイアやサキュバスといった魔族や、ゴブリンやオークといった魔物が存在している。俺達の世界には伝説や物語の中にしか存在しないものがね。かたや、こちらの世界には煙を吐きながら大地を駆ける巨大な蛇や、神々の住まう天空まで昇る鋼鉄の身体を持つ巨大な鳥といった実在しない怪物を描いた物語が有るらしい。」
「どういうことですか?」
「汽車や飛行機のことを言ってるというのかな。」
「そういうことだと俺は考えています。其々の世界で存在していないが、一方の世界では存在している物を描く物語が有る。それはつまり...。」
「私達よりも以前に情報か或いは人の行き来が有った可能性が有る。」
沈黙が訪れる。全員が今までの話を思い返していた。しかし、否定の言葉は挙がらない。
「これからが、本題だ。俺達の世界が科学文明が発達したのに対して、こちらの世界で発達したのは魔術文明だ。昔、神魔大戦と呼ばれる人間と獣人対魔族の戦争が有ったらしい。当時、人間側を勝利に導いた七人の英雄がいた。その英雄の内の一人が魔術の天才だったんだ。」
「その話がどう関わってくるんですか?」
「焦るなって。その天才は魔術に関して革命を起こしたらしい。当時までは魔術は一般的なものでは無かったんだ。極一部の者しか扱うことが出来ない難しいもので、空を飛んだり遠くの場所まで瞬間移動したりと俺達には理解不能な現象を起こしたらしい。」
「その革命ってのは?」
「その天才がもたらしたのは、力は劣るものの魔術を属性で分類し理論化することで広く普及させたんだ。その結果として勝利に大きく貢献したらしい。それ以来、理論化された魔術は近代魔術、それ以前のものを古代魔術と呼ぶことになった。そして、魔術は俺達も習得出来る!」
裕樹さんが手を差し出すと、その手から火が挙がったのです。
旅立ちまで描きたかったのですが、申し訳御座いません。
一話で納められませんでした。
ここで区切って良かったのでしょうか?
疑問が残りますが投稿致します。