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R+H  作者: あんみ
5/8

5 おっきい左手

結構前から決めてた、お気に入りのあの服に着替えて。

こないだ一目ぼれして買った、このリングをつけていこう。

休みの日だし、ちょこっとぐらい念入りにメイクしたっていいよね。

朝ごはんは少し無理してでも、しっかり食べて。

今日は特別な日!






少し遠出して、おっきい遊園地へ。

メンバーは、菅谷、斐川、水島、のんちゃん、ヒナ、あたし。

思いもよらず男3人、女3人だけど。

あたしはいろいろと頑張って小細工して、

いろんなところで斐川とのんちゃんを二人っきりにさせたり、水島とヒナを二人っきりにさせたりしてた。

だから、菅谷とあたしが二人っきりになる時間も結構あったけど、

菅谷はいろいろあたしのやりたいことをわかってくれて、何にも言わないで協力してくれた。

菅谷ってば超いいやつ!誘っといてよかったぁ。

ま、高所恐怖症で情けない顔してるけどね。



水島がヒナに向かって笑いかけて、ヒナがそれに応えるとき、

やっぱりあたしの心はずきんと音をたてたけど。

絶対誰にも気づかれるもんかって思って、

いつもよりあたしは大声で笑った。笑うために顔中の筋肉を動かした。






ジェットコースター。お化け屋敷。ゴーカート。

遊園地の中にいる間って、時間が超特急で過ぎてく気がする。

すっごい早起きして、開園時間ぎりぎりからいたのに、

今はもう空に見えるのはきれいな夕焼け。もうすぐ閉園。


「アヤセ、ちょっと」

「ん?」

水島に呼ばれて、あたしはおみやげ屋さんから出た。

ヒナたちはそれぞれで、いろんなものを見てる。

斐川とのんちゃんの並んだ笑顔が見えて、あたしはうれしくなった。


「なに?」

「あのさぁ…今さら言うのも何なんだけど」

「うん?」

「……今日のお前さぁ…なんか変じゃね?」

「っ、なにが?別に変じゃないよ」

「うーん…」

ちょっとヒヤッとしながら、それでも平静を装う。

水島はそれでも納得しないらしく、眉間にしわを寄せてあたしを見た。

「うーんじゃないわよ、なんでそんなこと言うのよ?」

「うーん…。変だ、なんか。熱でもあんじゃねーの?」

眉間にしわを寄せたまま、水島はあたしのおでこに手を伸ばす。

えっ?……と思う間に、水島の、ちょっとかさかさで冷たい、大きな左手があたしのおでこを包んだ。


……………。



「うーん…熱じゃねーなぁ……あっ、腹か?腹でもいてーのか?」

妙に間延びした声を出しながら、自分のおでこにも右手を当ててあたしに聞く。

あたしはその声を聞いたとたん、体中の血が顔に集まった気がした。


「ばっ、ばか!!…そういうことはね、ヒナにやってあげなさいよ!」

「はぁ?神矢??」

大げさに飛びのいたあたしを、水島はわけわかんねー、と言いたげな顔で見つめる。

ちらっとお店の中を見ると、ヒナはのんちゃんと笑ってた。

…見られたかな?

「ちょっと来なさいよ!」

「わ、ちょ、イテッ、なんだよ!?」

あたしは、水島の長い腕をつかんで強引にその場から離れた。



「アヤセ、おい!なんだっつーんだよ」

「…………」

水島の腕を放して、大きく息を吸って、吐いて、見上げる。

「あのね、水島。…ヒナね、フランスに引っ越すんだって」

「…フランス?」

「うん。もう、会えない。…会えなくないけど、難しい」

「……」

「だから、今日は、ほとんどヒナと水島のための遊びみたいなもんなの」

「神矢と俺のため?はぁ?」

「だから!言ってね、ヒナに」

「なにを」

「告れっつってんの!」

「はぁ!?」

…さっきからコイツ、「はぁ?」しか言ってないな。

余計なこと考えると涙が出そうで、実際なんだか目の辺りが熱くなってきた気がしたから。

あたしは一気にまくし立てた。

「あたし知ってるから。

 あんたが小学校の卒業式ん時、ヒナに何言おうとしたのかとか、

 今までどういう気持ちでいたのかとか、

 今日があんたにとってどんだけ大事なのかとか、そういうこと全部知ってるから、だから…」

「待て待て、ちょっと待て」

息もつかずにしゃべりまくるあたしの肩に手を置いてあたしを黙らせて、水島は大きく息をついた。

…おこってる?

「…お前に、関係なくね?」

…おこってる。

「…ある」

「ねーだろ、完璧」

「あるもん」

「は?」

水島の冷たい声を聞いて、いてもたってもいられなくなって。

うつむくと、水島の足とあたしの足。

きっと水島は冷たい目であたしを見てるんだろう。

伝えなきゃ。

震える手でバッグから携帯を出して、開いて、水島に突きつけた。

「…これ!ヒナが描いた絵」



きれいな夕焼けの下に、色とりどりの花畑。

その中に無造作に置かれた、ボロボロの陸上用スパイク。

その周りを飛び交う、二匹の蝶。

一匹は黄色、そしてもう一匹は白。



この絵を見るにはあたしには痛みが伴うけど、だけどヒナの絵は美しくて、切なくて。

気がつくとあたしはこの絵をカメラで撮って、待ち受けにしていた。


バカな水島にはこの絵がなにを表してるかわかんないだろう。

「あんたと、あの子と、あたしが描いてある」

「……??」

あたしの携帯を持ったまま、よくわからずに突っ立ってる水島。

…もー、バカ!!ほんっとに、ほんっっっとにバカ!!


「ヒナも、あんたのこと待ってる」

「…へ?」


地面がぼやける。


だめ。絶対だめ。

こんなところで泣いてたまるか。

泣くのは、違う。



「あたし、知ってるから。

 ヒナの気持ちも、あんたの気持ちも。

 ……あんたは気づいてなかったと思うけど、…あたし、ずっと、あんたのこと見てたから」

「…アヤセ」

かすれた声で水島があたしの名前を呼ぶ。

そしたら、不思議と地面がだんだんはっきり見えるようになってきた。

大きく息をして、顔を上げる。

水島の目を見て、笑う。

「このまんま悶々としてたって仕方ないでしょ!

 好き同士なんだからさっさと付き合っちゃえってことよ!さ、戻るよっ」

「…アヤセ!」

みんなのとこに戻ろうとして横切ったあたしの手首を、水島がつかんだ。

…すごい力。

あたしは一瞬で動けなくなる。

「…ごめん」

「うん」

「さんきゅ」

「…うん」



おみやげ屋さんの近くに来るまで、水島はあたしの手を離さなかった。

…ちょっとかさかさで冷たい、大きな左手。


この手をあっためてあげるのは、あたしじゃない。


……絶対泣くもんか。




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