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R+H  作者: あんみ
4/8

4 リナとヒナ

「こんにちはーっ」

5時45分。ヒナは電話と変わらない明るい声で、うちのチャイムを鳴らした。

「ヒナーっ!遅いじゃん!」

「きゃあっ、リナ!!久しぶりー!!」

ドアを開けるなり、あたしはヒナが荷物を持って身動きがとれないにもかかわらず、全力で飛びついた。

細っこいヒナの体は大きくバランスを失い、だけどぎりぎりのトコで持ちこたえる。

「ヒナちょっとやせた?なんかかわいくなってんじゃん!」

「えっ、ほんとに?嬉しい!」

玄関先で話に花を咲かせようとしたあたしたちに、お母さんが苦笑しながら中に入るように促した。

家の中ではいつもよりニコニコしたお父さんと、照れくさそうなシンが待っていた。



お母さんが超頑張って作ったご飯を食べて、

お父さんが超頑張ってニコニコしながらしゃべってて、

シンはずっと照れくさそうに笑ってた。


久しぶりだった。こんな楽しい、家族での食事。


やっぱりヒナはすごい。

どんな場所に行っても、周りをぱぁーって明るくする。




ヒナは、たくさんのお土産を持ってきてくれた。

それから、変わらない満面の笑みをもってきてくれた。

だけど、なんだか、なぜか、寂しそうだった。







「…リナぁ、起きてる?」

お風呂に入って、パジャマに着替えて、それぞれ布団をかぶって話をしてて。

結構遅くなっちゃったからもう寝よっかってなって、静かにして。

しばらくたった時だった。

「…ん、起きてるよ?」

あたしは実は結構寝そうだったんだけど、ヒナの声に返事をした。

「あ、ごめんね。あのね、ずっと言えなかったことがあって」

「んー?」

やっぱりあたしが実は寝そうだったことに気づいてたみたいだったヒナは軽く謝って、言葉を続けた。

「あのね…あたしさ、また引っ越すんだ」

「えっ、マジで?どこに?」

「フランス」

「ん?」

「フランス」

「は?」

「フランス」

「…え?」

…この子は、実は寝てるんじゃないかしら。寝言で会話する子って、たまにいるもんね。

寝言にしちゃあ、いやにしっかり言ってるけど。

いや、でも、だけどさぁ。

フランスって、そんな。外国じゃん。

「…お父さんの仕事の都合で、行かなきゃいけなくなったみたくて、家族で………」

だけど、ヒナの声が次第に震えていくのをあたしは感じ取ったのと同時に、

ああ。ヒナが言ってることは寝言なんかじゃないんだ。

なーんて、わかりきったことを考えた。




不思議と、涙は出なかった。



「…いつ、行くの?」

「…来月。だから、リナたちと会えるのも難しくなるだろうから、だから…」

ああ、そうか。

だから、ヒナは急にうちに泊まりに来る、って。



…バカだなぁ。


最後に会っとくんだったら、あたしじゃないでしょーが。



「ヒナ、明日さ」

「うん?」

「水島も来んの」

「…あ、そうなんだ」

「あ、そうなんだじゃないよ。…言いなよ?」

「え?…何を?」

「バカ、とぼけたって無駄なんだから」

「………」

ヒナは、あたしが何を言いたいのかわかったみたいだ。

そして、次にヒナが何を言い出すか、あたしにはわかっていた。

「…知ってたんだ?」

「当たり前じゃん」

「だけど、あたしだって知ってたよ?」

「…うん」


胸のあたりが、ぎゅうって、なる。


うん。

それも、知ってる。

あたしたちは、こういうことではほんっとにイヤになるくらいよく似てる。


あいつが好きで、

好きで好きで仕方なくて、

だけど、

大好きな親友も、

あいつを好きなことを、

気づいてたから、

だから、

自分の気持ちに無理やりフタをすることで、笑ってたんだ。


あたしも、ヒナも。


…バカだなぁ。



「けどね、ヒナ」

「うん?」

「水島が待ってるのは、ヒナなんだよ」

「………」

「あたしじゃなくて、ヒナを待ってるんだよ」



そう。

気持ちにフタをするのは、あんたじゃなくていい。

ううん。

あんたは、気持ちにフタをしちゃいけない。



痛みを感じるのは、あたしだけでいい。



「…リナ」

「んー?」

「…大好き」

「知ってる」



さ、そろそろ寝なくちゃほんとにやばい。

目の下に真っ黒なクマ作ってあいつに会うわけにいかないよね。




…何だか、泣きたかったけど、泣くのは、違う気がする。



あたしは、少し冴えてしまった目を。

涙がこぼれる前に、閉じた。





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