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R+H  作者: あんみ
3/8

3 スパイクと蝶

ずっとずっと昔、ヒナとこんな会話をした覚えがある。


『…ヒナってさぁ、色で言ったら黄色って感じがするね』

『え?何、いきなり』

『だってさ、ヒナがいると周りがぱぁーって明るくなるじゃん、そういう雰囲気うらやましい』

『えー?そんなことないよぉ。そういうんだったら、リナは白だね』

『白!?あたしが?』

『うん。白って、どんな色にも似合うじゃん。誰とでも仲良くなれるリナにぴったり』

『えー?えへへ、そうかなぁ』

『うん、そーだよぉ』



このときから、それまでは味気ないとしか思っていなかった『白』が、大好きになった。

だって、絵の天才のヒナから言われたんだから。



ヒナは、ちっちゃいころから絵を習ってて、いろんな賞をもらったりもしてた。

引っ越してもヒナは絵を続けていて、部活もやっぱり美術部だった。

「絵、好きだね」って、言ったら、

「うん。…あたし、話すのも苦手だし、絵でしかいろいろ伝えられないんだ」って、言ってた。


きれい、とかじゃない。

ヒナの絵は、…美しい。

美術のコトなんかぜんぜんわかんないあたしでも、ヒナの絵を見ると、

胸がぎゅうってなったり、全身が絵の中に吸い込まれたみたいになったり、する。


それに対してあたしは、何でもやりたがるくせに、すぐ飽きる。

熱しやすく冷めやすいっていうのは、あたしのことだ。

だから、ヒナみたいに打ち込めるものがあることに、あたしは憧れてた。




今日は金曜日。

ヒナが着くのは明日なのに、あたしは学校からとんで帰ってきて、片付けた部屋の最終チェックなんかをしていた。


「リナ、見て見て!ヒナちゃんの絵が絵ハガキになってるよ」

部活から帰ってくるなりそう言いながら、弟の信治が一枚の絵ハガキをあたしに持ってきた。

「まじで!?超すごいじゃん!見せて見せて」

「えー…ただじゃ見せらんねー」

信治…シンって呼んでるんだけど、シンは手を出したあたしの目の前でさっと絵ハガキを隠した。

中1のくせして美術部に彼女がいるシンは、なんかのコンクールとかで賞をとり、

さらに絵ハガキにまでなったヒナの絵を、その子に頼み込んでもらってきたらしい。

「1000円で見せてやるよ」

「ちょっと、バカじゃないの!?そんなコト言ってないで早く見せなさいよっ」

意味もなくもったいぶるシンからハガキを奪い取り、目を通した瞬間、


あたしは言葉を失った。


小さな絵ハガキになっても、すぐわかってしまう細やかなタッチ。

ヒナの性格がよく現れているタッチで、描かれていたものは。





きれいな夕焼けの下に、色とりどりの花畑。

その中に無造作に置かれた、ボロボロの陸上用スパイク。

その周りを飛び交う、二匹の蝶。

一匹は黄色、そしてもう一匹は白。




あたしにはこの絵が何を表しているか、すぐわかった。



3年生が部活を引退したとき、水島のスパイクは誰のものよりもボロボロだった。

あんなボロボロのでよく走れたねって言ったら、なんだか照れくさそうに笑ってた。



ずっと前電話でヒナと話したときに、何とはなしに水島のその話をしたら、

『へぇー。そうそう、水島って、意外とまじめなところもあるんだよね』

って言ってた。


あのときのヒナは、きっと、すごく穏やかに微笑んでいたんだろう。って、思う。



…ヒナ、気づいてたんだ。

あたしがヒナの気持ちに気づいてたように、ヒナもあたしの気持ちに。





…明日は土曜日。ヒナが家にやってくる。



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