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R+H  作者: あんみ
1/8

1 あたしたち

「先生と僕」と、登場人物がリンクしています。もしよろしければ、そちらも読んでいただけると嬉しいです(^^)

午後の、いちばん眠たいこの時間。

あたしの、いちばん嫌いなこの先生。

国語自体は嫌いじゃないけど、先生が、もう最悪で。

頑張ろうとしたって意識は違うところに飛んでっちゃう。




”水島理奈”

……ミズシマ、リナ……うーん、しっくりくるようなこないような、何かちょこっと違和感がある気がする。

”水島日向子”

……ミズシマ、ヒナコ……うん。これはかわいい名前。あたしは好きだな。


「はぁ…」

思わずため息をつく。…と、そこでやっと隣からあせった声がするのに気づいた。

「アヤセっ、おいアヤセ!」

「なによぅ」

「なによぅじゃねーよ!前、前!」

なによぅ。

きっとこのときのあたしはワケがわかんなくて、変な顔をしてたと思う。

…だけど、前にいる谷中先生は怒りのあまり、きっと今のあたしより変な顔をしていた。

「…綾瀬さん、この時期にそんなにボケッとしてて、あなた高校にいく気あるの?……」

「…あ…」

やばっ…。

国語の谷中先生は今年赴任してきて、すでにこの学校一のお局様。

ほんっっっっとに、ねちねちうるさい。だいっ嫌い。


始まった。

ねちねちねちねち。

あー……



「はぁ…マジ、疲れるわ……」

「ね…つぐちゃん帰ってこないかなぁ…

「…」

あたしが怒られてるのを横で聞いてて、自分まで疲れちゃったらしい。

こないだまで実習に来てたつぐちゃんの名前を出すと、

隣の席の、菅谷遼太は珍しく答えなかった。

いつもだったら、相槌ぐらいは打ってくれるのに。

教育実習生のつぐちゃん(まぁ、秋名先生って呼ばなきゃいけないんだろうけど)は、国語の担当で、

すっごい明るくて、いっつも笑ってた。

秋名つぐみっていう珍しくて、かわいい名前だったから、つぐちゃん。

授業も谷中先生なんかよりわかりやすかったし、そこらの先生よりよっぽどよかった。

…あたしもそうだけど、つぐちゃんが大学に帰っちゃってからは、みんなちょっとさみしそう。

菅谷なんかは特に。こいつは男子の中でいちばんってぐらい、つぐちゃんと仲良かったしね。

あたしは、いっつもつぐちゃんのそばで笑ってた。つぐちゃんが大好きだった。

…ヒナにちょっと似てるからなのかもしれない。




綾瀬理奈。これがあたし。

神矢日向子。あたしの大親友。

家は隣同士。

誕生日、同じ。

生まれた病院、同じ。

血液型、同じ。

…名前も、ちょっと似てる。

だけど、顔も、性格も、ぜんぜん違う。だけど誰よりも仲良し。

それがあたし達。リナと、ヒナ。

あたし達は、生まれたときからいっつも一緒にいた。

…だから好きになったやつまで、同じだったのかもね。





「お前ばっかじゃねーの!?怒られてやんの」

菅谷にじゃれつきながら、あたしをバカにして笑うバカ。

水島拓己。

「うっさいな、あんただってどうせ寝てたんでしょっ」

「当たり前だろーが、あんな授業寝ねーほうがおかしい」

「…そんじゃぁ拓はアヤセのコト、バカにできねーよ」

「そーよっ!菅谷、もっと言って!」

「そーよじゃねーよ、お前がぼけっとしてっから俺だって睨まれただろーが」

「う、ごめん…」

「そーだぞ、アヤセのアホ!」

「水島は関係ないでしょっ!」


水島からつっかかってきたり、あたしからつっかかってったり。

あたし達は、いつもこんなケンカみたいな会話しかしない。


…ほんと、こんなやつのどこがいいんだろう。

自分でも、そう思う。




だけど、あたしは、小6から中3の今まで、ずっと。

バカみたいにこいつばっかり、目で追ってる。


飽きっぽいあたしなのに、3年以上も。


だからさっきも、バカみたいに、

水島の名字と自分の名前をくっつけてみたりなんか、してたのだ。


あと、あたしと同じように水島を好きだった、ヒナの名前も。









ヒナは、色が白くて、髪の毛がほんのり茶色でふわふわしてて、ほっぺがふっくらピンク色の、

ほんっとにかわいい女の子だった。

あたしは、日焼けして真っ黒で、髪の毛も真っ黒な直毛で、ほっぺもやっぱり小麦色の、

ぜんっぜんかわいくない女の子。…男みたいな女っていうのは、あたしのこと。


すぐ怒ったり、ガサツに笑ったりするあたしの横で、ヒナはいつもふんわり微笑んでた。


だけど、小学校卒業と同時に、ヒナは遠くへ引っ越してしまった。

ヒナと別れた卒業式は、今でも鮮明に思い出す。




「うぅ〜…リナぁ………」

「泣くなっ、バカヒナ!ずっと会えなくなるわけじゃないんだから!」

「リナだって泣いてんじゃん……」

「そりゃ泣くよ、バカーっ!さみしいよぉ……」

「リナぁー……」

ふたりで手を握り合って、周りなんかぜんぜん気にせず泣きじゃくるヒナとあたし。

ずっと一緒だったのに、これからもずっと一緒だと思ってたのに。

あたしは自分の半身がもぎとられるぐらい苦しかった。きっとヒナもそう。


「………つかれた……」

「…うん…つかれた……」


「神矢っ!」


ずーっと泣いて泣いて、二人でぐったりしかけた頃、水島がヒナのところに走ってきた。



「……神矢、あのさ……」

「?…うん……」

水島は、息を切らしながら、それでも、ヒナに何かを伝えようとしていた。

きっと、すごく、すごく大切な何かを。

ヒナは、赤くなってしまった目を見開いて、吸い込まれるように水島の目を見ていた。


水島の、ヒナを見る目を見たとき。

ヒナの、水島を見る目を見たとき。


ああ、あたしは、ここから離れなきゃって、…思った。


できるだけ静かに、ゆっくり背を向ける。

泣きたかった。


だけど、そんなあたしの背中の向こうで聞こえてきたのは。


「………やっぱ何でもねぇや。…元気でな」

「……うん。…ばいばい」







ヒナと、ヒナのお母さんを乗せた車が走り去ったあと。

「……水島の…バカーーーーーーーーーーっ!!!!」

「あ!?いてっ、何だよ!」


涙がぼろぼろ出てきて、何にも見えなくなって、ワケわかんなくなって。

ただ、横にいる水島のことがめちゃくちゃむかついて。

ほんっとに、すっごい、むかついて。

がむしゃらに、水島のことを殴りまくった。

だけど、水島より何よりいちばんむかついたのは。

ほっとした、自分だった。









中学に入ってもやっぱり、水島はバカだった。

いっつもふざけてて、みんなを盛り上げて。

あたしもバカだから、水島と一緒にみんなを盛り上げて。

騒いで、笑って。


だけどあいつは、走るときだけはすごく真剣だった。

朝は誰よりも早く来て、部活の後は誰よりも遅くまで残って。

あたしも水島と同じ陸上部で、ずっとがむしゃらに走りまくってたから、知ってる。


…誰よりも、あいつは努力してて。

なのに、それをあいつは周りに伝えない。


クラスのみんなは、きっとバカな水島しか知らない。

…だけど、あたしは。



怖いぐらいに真剣なあいつの目を、知ってる。



ときどき、すごく遠くの空を見つめていることを…知ってる。




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