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第4話 ダンジョン、対話




薄暗い迷宮に、小さな明かりが(とも)る。

先の見えない通路を照らす、一筋の光。

そのランタンの取っ手を握った軽装の兵士は、渇きに貼りついた舌でいった。


「な、なあ。そろそろ戻ってもいいんじゃないか?」

「はあ? 潜り始めてまだちょっとだぜ? バカいうなよ」


血か汗の染みで変色した革鎧。毛羽(けば)の立った薄汚れたブーツ。

厚手の上着に肩がけのポーチを吊り下げた腰は、言いながらなかなか前に及ばず、相手から荒れた返答をもらう。


「で、でもよ。オレたちはこのダンジョンの難易度も知らないんだぜ。だから『生きて情報を持ち帰るのが第一』っていわれてるんだしさぁ。魔族だって入ってすぐの場所にはいねえよ。そ、それに、報告は小まめな方がいいんじゃないか?」


戦士よりも斥候(レンジャー)といった風体の彼は、戦闘を意識したものではなく、敵に出会わないこと、そして迅速な離脱を第一にしていた。


「アホいえ。魔族がいないから可能な限り中を調べられるんだろが。お前も見ただろ? 新造の……目の前で作られたばかりのダンジョンなら、まだ住み着いた魔物はいねえ。魔族ったって極端に強いやつは少ないんだ。2倍4倍の人数でかかれば何とかなる。あの魔王って名乗ったヤツと手下の2人、執事あたりにさえ会わなきゃな。分かったらそうならないよう警戒を続けろ。戻りを考えて、安心したとこに出くわした時が一番ヤベぇぞ」

「ぐ。わ、わかった」


対照的に鎧で身を固めた兵士に言われ、声を詰めると歩き出す。

彼以外は同じ格好をした、四人からなる即席パーティー。

彼らはまだ迷宮に入ったばかりだ。

前魔王ソーロンに続いて現れた、正体不明の<魔王>を前に、手痛い出血を強いられた王国軍。

その総体は未集結だった部隊を糾合しつつあり、後続の戦力に対して最低限の役目を果たすべく、魔王と交戦経験のある一団が、情報の収集に出されたのだった。

実際の被害と地下への巨大な門を前に、敗北の責ごと押し付けられた、ともいう。


「ほら。早く地図(マップ)に起こせよ」

「あ、ああ」


前衛が3人に後衛が1人。

通常の魔族相手なら撤退を可能にする布陣で組まれた一団は、他の組がそうであるように、内部の探索と地形の把握にいそしんでいる。

怯える斥候の役目は索敵と警戒であり、ある意味で似合いの性格だ。

臆病な言動も生還優先なら正解ではあったし、むしろ仲間の発言こそ危うい。


発言者の頭からは、ただ奥にこもるだけなら森に逃げるのと変わらないのに、どうして魔王がわざわざこの施設を作ったか、という点が抜け落ちている。

国家の軍人、中でも下士官ですらない前線兵の意識は、野外や遺跡の探索もする冒険者とは、決定的にズレていた。


「ひっ」


新たに進んだ分を地図に描き始めた時、秀でた斥候の聴覚が、背後で何かの息遣いを聞く。

微かに紛れたのは四足の獣が走って立てる、小さく軽い跳ね足の音。

振り向いて注視し、祈る思いで高く光源を掲げるが、広がった光は届かない。


「……なんだ。どうした?」


縦横(ななめ)、そして曲線まで入れて複雑に組まれたダンジョンの通路は、横道も繋げて死角を作り、大部分は闇によって見通せない。

距離か角度の問題で、見えないポイントが絶対に生じる。

そう作られた結果として。

延々と暗闇の中を這いずり、血を流しながら長い通路を進む時、ダンジョンでは製作者の悪意を感じる瞬間があると、誰かはいう。


「何かいた」

「本当か」


前衛の三人は、茶化すことなく確認した。

探索の方針こそ合わないが、班の生存を握るのは彼だ。

その警戒は無視できない。


「魔人か? さっきの連中でなきゃいいが」

「いや違う、人の足音じゃない。獣だ。四つ足か、でなきゃもっと多い(・・・・・)


専門の分野であるため、斥候の言い方も強気だ。

あるいは警戒に割く注意で、口調に気遣う余裕もないのか。


「出来たての場所だ。魔物はいないはずだろう」


疑い、というより用心のために仲間がいう。

たとえ確証がなくとも、否定的な言葉を受けて相手が意見を変えないなら、相応の確信と、根拠になる何かがある場合が多い。

普段は弱気な者が、頑なになるならなおのこと。


「いや、いる。何かが。確実だ」

「わかった。後ろへ」


果たして(さい)の目は凶へと転がった。

背後からの攻撃(バックアタック)を警戒するために殿(しんがり)を務めた彼を下げ、進行方向を逆にすると戦闘職を前に2人、後ろに1人で振り分けて挟む。

鎧の3人が握った剣を震えぬように構え、じりじりと距離を詰めていく。

少し前に抜けた地点には、左右を合わせて一本になっている横道があり、何かが寄ってきたならそこだ。


「気を付けろ。何が出るか、情報がないから分からない」

「わかってるよ」

「ああ」


敵の行動を察知すべく、斥候は耳に集中した。

一瞬の判断が生死を分ける戦場や死地では、指揮官や軍師、補給線など、剣を持たない存在の判断ほど、一つのミスで戦局を変える。

幸い、周囲の全員が同じ部隊の出身だ。

背中も安心して任せられる。


「…………」


一つ、二つ、三つ。鉄の軍靴と革のブーツで可能な限り、音を殺して床を()る。

迷宮でずっとそばにある闇は、変わらず静寂をたたえていた。

一度、二度、三度と、細く浅い呼吸を繰り返す。

やがて四方に通路の伸びた四辻が、払った闇に現れた。

前衛の2人が、完全に意識を前方へ集中。

反対に斥候は意識を広げ、同時に深く張り巡らせる。


(……?)


ふと、彼の意識に違和感が浮いた。

敵がいるなら一秒の後にもぶつかりかねない緊張の中、短い思考の脇道が起こる。

時に直進より近くなるそれが、彼を本道へ導いた。


(これ……もしかして誘われてないか?)


モンスターや獣を含め、人間より鋭い感覚を持つことが多いモノは、こちらが気付いた時、気付かれたことまで察知している場合が多い。

まして今の状況は、背後にいた何かが先にこちらを捕捉していた。

とすると、気付かれたことに気付いている敵は、どうしてその場から動かないのか。

奇襲をするなら既に失敗している上、撤退もせず、仲間を呼び集める気配もない。

正面から襲って問題ない数の雰囲気もなく、そもこちらより多数なら、存在を看破された時点で仕掛ける。


(だとすると)


閃きの光る長い一瞬、思考の辿った道筋は2つ。

待ち伏せに意味のある罠か。それとも、最初から『奇襲が成功している』かだ。


「~~~っ!」


巡る思考が、回想の形に(さかのぼ)る。

相手の存在に気付いてからの互いのやり取り、方向を変えての意識の穴。

斥候である当人を含め、彼らは四人パーティーだ。

四人で四つ。数えて気付く。

会話の声と足音の数が────────1つ、足りない。

斥候が蒼白になる。

その事実により示されることは。

敵の狩りは既に始まり、むしろ終わろうとしていたのだった。


「後ろだぁあああ!」


全力で振り向く。

壁を切った視線の先には、手足をぶら下げて生気を失い、空中に浮かぶ仲間の姿。

その首に奇妙な丸さの指を深く絡め、透明な、淡い輪郭と禍々しい赤眼しか見えないモンスターが踊った。


「ケケケケケケケ!」

「うわああああ!?」


不可視の口が哄笑に裂ける。

影なし幽霊(クリアゴースト)。空中を浮遊し透明な上、短時間なら壁抜けまでする厄介な魔物。

魔法的な存在のために物理手段では探せず、殺せず。

魔法や魔法付与(エンチャント)した武器でいざ倒そうと意気込んだ時には、壁を抜けて遠くに逃げ去る、極めて性質の悪い敵だ。


「ご、ぁ」


生命を欠いた怪物は、他者を襲って活力を補充する。

生気の収奪(エナジードレイン)》を終えたクリアゴーストが、用済みになった兵を落とし、次の獲物に首を曲げた。

瞳と輪郭しか見えない外見は存在が薄く、表情や動きを想像が補完し、より一層の恐怖を煽る。


「何してるっ、下が」

「グルォォオオオオッッッ!」

「!?」


残る2人が位置を代わろうとして、叩きつけられた咆哮に止まった。

転じた視界に飛び出してくるモンスター。

もはや隠さず足音を立て、暗闇を走る双頭の巨犬(オルトロス)

2つ首の犬は吼えた方がヨダレを撒き、牙を噛み鳴らして食欲を見せると、貪る肉の準備をすべく、残る頭が火炎(ブレス)を放った。

燃え広がる火球は瞬く間に距離ごと通路をなめ、前衛の2人に膝をつかせる。


「あ。あ、ああぁ」


片方を囮にして注意を偏らせ、無防備になった背中を襲い、奇襲に気付いた瞬間に、更に背後から食らいつく。

極限の緊張に驚愕を加えて硬直で固めた、理想の挟撃が完成した。


『新しいダンジョンだからモンスターはいない』


落とし穴があったとすれば、それは、彼らがそう思った時点で口を開いていたのである。

迷宮の主の手によって。

どんな罠があり、モンスターがおり、何が起こるか分からないからこそ迷宮で、攻略の甲斐があるのだと。

そう、このダンジョンのマスターたる魔王は、考えていたのに。


「くっ、くるな……!」


1人は戦闘不能、2人は満身創痍。残るは戦闘を本職としない斥候だけ。

どちらを向けばいいのか分からず、壁に背中を貼り付けた彼に、右からは亡霊、左からは魔犬が迫る。


「くるなあああぁぁぁぁーーーーっ!」


既に抗う術はなく。

新たな魔王の迷宮に、また一つ、犠牲者の悲鳴が響き渡った。











「はい、経験値ゲットっと」


脳裏に投射された映像の中、動けなくなった王国兵が身に着けた装備や道具を剥かれ、迷宮の入口へ引きずられていく。

<ファンタジー・クロニクル・VR>のシステムに従えば各自が持つ保管庫、アイテムボックスは主の死亡によって制御を解かれ、消失に伴う反動で中身の幾らかを落とすが、殺せば追加のドロップも望める相手をあえて見逃し、補給を受けての再挑戦や追加の人員を見込んだ魔王は、あっけなく放置を選択した。

迷宮の経済サイクルとしても無論のこと、本物の異世界で易々と殺害することはできない。

最低でも情報や感情をそれなりに溜め、蓄積と整理が終わるまで、一定の期間は様子見だった。


「どうかされたのですか? 魔王様」


魔王ハルキの《召喚》からしばらく。

以前より狭く小さくなった<魔王の間>、玉座の彼がふと呟き、その前で座っていたティアことティアリス=ミューリフォーゼが、魔王を見上げて疑問を捧げた。

彼女の方はピンクのクッションを敷いているが、イスの有無だけ高低差が大きい。

遠い篝火に照る横顔、瞳は炎の色でなお紅く、頬は朱を帯びて薄く染まる。


「いや。何でもないよ」


魔王の内にある精神が、色香とも違う美しさに見蕩(みと)れ、慌てて口を開いた。

軽く頭を振る。

炎色に揺れてクセっ毛を見せる黒髪は、もう随分と晒されっ放しだ。

兜はアイテムボックスに投げ入れられ、手元から姿を消していた。

収納方式に関しては、既に画面への表示ではなく、ボックスを意識して出し入れする思考入力に変わっていたが、幸い内容に変化はない。

召喚の後の動作確認。結果次第では彼の生存戦略が、根本から変わる可能性もあった。


迷宮を造り、本来なら居城から動けない<迷宮の魔王>が、閉所のストレスで狂うのを防ぐオプション施設。

生活部分に直結するそれら。

その一覧から居住区画を増設し、最低限の魔物を、地上に近い迎撃部に放つ。

ファンタジーお馴染みの魔力をごっそりと失った────ゲームと違い体力のように減る実感がある────彼は、休息を兼ねてティアと情報交換をしていた。

精神的疲労が強かったので、こちらの世界でも経験値が得られたのが救いだ。


(直接殺るより微妙とはいえ、あるとないとじゃ話が別だ。資源はコツコツ溜めないと、緊急時に枯渇して困る。ただでさえフィールドで戦うタイプじゃないし、組織戦で数をこなしていかなきゃな)


<迷宮の魔王>は侵入者の殺害以外、撃退などでも経験値を得られる。

設定上、作られたダンジョンは主となるプレイヤーのテリトリーにして一部であり、その内部で行われた魔力、生命力の消耗と飛散は、ダンジョンを通じて主の力となるのだった。

直接に比べれば一戦での量は微々たるものだが、自動で入る分に加えて一部だがプールしておき、有力またはお気に入りの配下の成長など、好きに割り振ることもできる。

単なる数値でなくなった現在、それは自らの内に宿った、ある種の『力』として感覚された。


「それにしてもこの森には驚いたな。こんなに魔力の溢れた拠点は珍しいよ」

「喜んでいただけたなら幸いです。<魔王の森>は、魔力が豊富ですから」

「一応、支配した土地の魔力を吸い上げて使うって設定になってるからな。不安はあるけど、守るだけならなんとかなりそうだ」

「そうですか。……よかった」

「問題は、たかが一階層(ブロック)地下五(フロア)に+αで、初期にどれだけ凌げるか……」


現在、ハルキとティアがいるのは迷宮の地下六階、通常構造の最深部にあたる。

その名称を<魔王の間>。

プレイヤーが訪れ、ハルキと死闘を行うのがここだ。

迷宮の構造は《転移》の使用も前提とするため、実際の縦横が当てはまらない部分も多いが、居住区や娯楽、生産系の施設は、この階に足して建造される。

一つ下の階には心臓部というべき機能があり、迷宮の拡張はこの2フロアの上に、新設部分を挟み込んでの増設が基本だ。

当然大量の魔力が必要であり、迷宮の奥に座する魔王は拠点を定め、土地を支配して吸い上げた魔力と様々な物品を蓄え、いつか来る勇者を待ち受けるのだった。


「<魔王の森>、か」


<ファンタジー・クロニクル・VR>では、個として強力な魔王の方が多数派だった。

対してハルキのような特殊型は力ある土地を占拠し、施設と自身のレベルを上げてから更に強力な土地を占領、または争奪戦を繰り広げて段階を上げるのが主流となる。

管理さえ追いつくのなら複数ダンジョンの運営もできたし、実際、最大手のプレイヤーに至っては、3つも同時に大ダンジョンを支配していた。


「かつて大魔王様が誕生され、全ての魔王が始まった場所だといわれています」

「納得だ」


その歴史も、彼が知るものではないが。

王国軍がわざわざここまで攻め寄せたのも、領土として以上にこの場を欲したからかもしれない。

霊地、霊泉、霊脈、霊道。

ハルキを含めて魔力を使う生産職、クリエイタータイプのプレイヤーには、極めて有用な土地といえた。

魔人にとってもある種の聖地であり、だからこそ必死に守るのと同時に、秘匿してきた地形のおかげで、王国に時間を稼げたのだとか。


「でも、私の方こそ魔王様には驚かされました」

「?」


地上と変わらぬ笑顔。

いや、2人きりとなってより和らいだ微笑のティアに、ハルキが首をひねる。


「だって、《契約》や《召喚》で従えるのではなく、魔物を造ってしまうだなんて。それもあんなに強力な」

「なるほどね」


今し方、王国の兵士を撃退してのけたモンスターの起源。

感嘆する少女に大した風でもなく頷く魔王、彼にとって、それは当然の機能に属する。

なにせダンジョンにおいて徘徊する魔物、ワンダリングモンスターなしでは冒険にならない。

そのためダンジョンを運営するプレイヤー、魔を冠する者の王たる<迷宮の魔王>には、眷属と別に雑多な配下を作成する能力、もっといえばそのための機能が迷宮と合わせて持たされていた。


「モノは後で見せるから、楽しみにしてくれ」

「はい!」


(うなず)くティアも、直接現場を目にしたわけではない。

ただ、眷属の時のように“魔物召喚(サモン・モンスター)”で召喚された魔物を造ったものだと言われ、続く光景を見せられたのだった。

ハルキの言葉でいうならレベル30のクリアゴーストに、40台のオルトロス。

見せられた2体は召喚者に対してとても従順、というよりもただ命令を聞くだけの、自我の希薄な存在だった。


()力が指向性を持って()質化した存在、文字通りの魔物。

魔力の淀みや凝縮から生まれ、人類や魔族のように教育を受けて育つことなく、本能に支配された個体。

単一で生きるか同種の個体で集団を作り、ただひたすらに暴れ回り、死ねば拡散する魔力の中、象徴部位が結晶化して素材として残る。

ただ本来、特殊な技術なくして従えられない、出来たとしても完全な掌握が難しいからこその『モンスター』だ。


クリアゴーストは、間違っても生気も吸い取らずに相手の体を透過して出入りしないし、オルトロスは芸など決してしない。

その点に関しては魔王その人も驚いていたが、懐いているという表現も違い、2体の動作には冷たさがあった。

まるで機械染みた、ただそれだけのシステムのような。


「さて。それじゃあ、そろそろ行こう」

「わかりました」


見せた側としては単体で王国兵に匹敵する上、条件次第で一方的に殺せる魔物を恐れないティアこそ不思議に映るが、一先ず置いて立ち上がる。

もしも同じ力が、自身や魔人に向けられたら。

考えない理由は疑える余裕の有無なのか、彼女の資質や信頼なのか。

いずれ分かると内心で思い、予定していた己が居城の紹介にかかる。


「上の守護は眷属と魔物で十分だし、いざとなれば感知できる。迷宮の運営としては生産施設から稼動させていきたいし、そっちからでいいかな?」

「えっと、私にはよくわからないので、魔王様のお好きな順番でお願いします」

「了解」


ティアが腰を上げようとすると、寄ったハルキが手を差し出した。

彼女がそっと握ると加減に苦慮した様子で引き上げ、魔王の顔を姫君が仰ぐ。

契約された安住の地、これから暮らすことになる迷宮の案内を頼んでいたティアは、一礼してから笑みを浮かべた。

周囲の呼ぶ『姫』が愛称に過ぎないのは、既にハルキにも語った。

それでもティアリス=ミューリフォーゼという少女は、契約者と魔人の代表として魔王と話し、情報を交換し、いち早く迷宮の全体を把握するべく、こうして案内を願い出ている。

残りの者たちは、与えられた居住スペースへの適応と整理、まだ<魔王の森>の奥にいる魔人を迎える準備を、それぞれ進めていた。


ティアが爺と呼ぶ老執事は、魔王が設置した迷宮の裏門となるゲート────最低一つは解放した正門を置かなくてはならないらしい────から生き残りの下へ走っている。

渋る従者に、主である彼女が頼んだ結果だ。

今、魔王を討つ勇者以外には閉ざされているはずのこの密室で、両者の声を妨げる者は誰もいない。

まるで物語のように。悪しき魔王と、囚われの姫とで2人きり。


「それじゃあ…………“迷宮転移(ダンジョンテレポート)”!」


この状況が純粋に立場によるものか、亡き父と同じ魔王であり、自らと大切な仲間を救ってくれた異性への、本人さえ知らぬ感情のためか。

答えとなる少女の表情は、やがてハルキが紡いだ光に薄れていった。




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