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第16話 迷宮崩壊






勇者が到着し、敵軍が動く。


「来たか……!」


地上に放った魔物を介して敵の行動を察知したハルキは、即座に警戒を強め、<魔王の間>で迎撃準備を始めた。

対プレイヤー戦であれば褒められない手だが、各階の入り口にモンスターを密集させ、戦力を削る布陣を敷き、設置した罠を起動させる。

魔物に期待は持てないが、快勝した油断で罠にかかれば儲けもの、程度の認識だ。


蒼穹鋼(スカイメタル)の鎧だのなんだの、結構な装備をしやがって)


遠隔で見た一団の装備は、想定の中では良い物だった。ハルキからして悪い方に。

装飾品など細かな把握はできないが、武具の材質、形状から瞬時に分析を巡らす。


(どいつもこいつも、最低レベル60以上の上位4次職(グランドマスター)。装備の質にバラつきはあるけど、勇者に重戦士、暗殺者と弓使い、僧侶、魔法使いってとこか)


この世界に《召喚》されてからというもの、ゲームであれば普遍的な対象(キャラ)の名前、レベル、装備品などの表示機能は失われている。

直接目にして《看破》などの情報スキルを通さなければ、わずかに自身や眷属のものが、脳裏に感覚されるのみ。

従って知識と経験による当て推量だが、遠くない予想に戦慄する。

最低60レベルの<魔王>を屠った相手。

弱くはないと思っていたが、稼動を始めて10日そこらの弱小迷宮、かつての居城より遥かに劣るダンジョンで、どれだけ消耗させられるか。


(『勇者』がただの通り名(フカシ)でなければ上位転職の<地上の星(ラストホープ)>辺りが1人。多分、残りが<巨石の戦士(ドレッドノート)>に<千夜の凶刃(アサシンマスター)>、<妖精の鏃(エルヴンシューター)>、<選択者(カーディナル)>に<大魔導師(ハイウィザード)>か。特殊系や優遇職はほぼいないが……)


不安と緊張と、それを捩じ伏せる決意が渦巻く。

迷宮を置いた森の広場に、高速で移動してくる集団。

万全の態勢で迎え撃つには準備の時間が足りないが、ここに至っては仕方がない。

感情とは別に走る思考でコマンドを飛ばし、己が魔軍を整えていく。


(チクショウめ。兵士に比べて、レベルアップし過ぎだろうが!)


心中でいくら毒づいても、相手は【猛毒】にならないのだから。


(おまけに……!)


《感覚共有》で繋げる視界が揺れた。と。知覚した時には接続が途切れる(・・・・・・・)

鳥型の魔物が隠れるものなき上空で見つかり、圧倒的なレベル差のため回避も防御も、生存すらも許さぬ《投擲》で即死した。

力を失って落下し、森の緑に抱かれつつ消えて行く翼を、切り替えた視点から俯瞰する。

王国兵とは異なる思考で気付かれたか、単に技量で見破られたか。

ともあれ監視に気付かれた。

地上の戦力で対処しようとは思わなかったが、それにしても続々と断たれる警戒網は、精神に悪い。

<迷宮の魔王>を予め知るプレイヤーでもなければと、無意識に侮った結果である。


「早いな。もう着きやがったか」


ギリギリで活きている視覚。

目的地に着いて見逃された魔物の視界、森の広場に展開が始まる。

敵の集団は大きく2つに分かれており、一方は当然勇者側だが、残るはローブと杖による、魔法使いのチームだった。

後者は途中、監視に気付いた勇者たちが背や脇にして運んで来た、王国軍の魔法兵だ。

《召喚》初日の戦闘でも見た、十把一絡げの雑兵。


30(あの)レベルなら苦もなく捻り潰せるな。けど、だったら何でわざわざ……?)


勇者や重戦士が数を稼ぎ、平均で1人2人ずつ、計12人の魔法職。

<大魔導師>のエルフが出ると、間に入って中央に陣取り、何かを命じて準備をさせる。


(詠唱?)


指示した兵士を円状に配し、その外側でパーティーの仲間が警戒を務め、手出しできない形を作った。

次いで自らの杖を掲げると、遠過ぎてあまり聞こえないが、歌うように口を動かす。

魔法兵も同様の作業を始めると、地上に魔力の光が満ち、巨大な魔法の円陣(マジックサークル)が生まれた。


(まさか)


日の光を侵し、地表から噴く赤い光。

外円の輝きは内外を隔てて上下に波打ち、衣のように内側を飾る。

照らし上げる放射光は密度を高めて集束され、描く線形の指向する機能へ、次第に圧縮されていった。

やがて中心のエルフが、身振り手振りで用意を終えたことを告げる。

補佐や警戒のためにいた全員が、迷宮と逆側に退避した。


(まさか。いくらなんでもそれは)


補助の人員。エルフの職業(クラス)で習得できるスキルの一つ。味方の後退。

その光景は、ハルキにとある記憶を思わせ、心底からの戦慄を生む。


「おいちょっと待────────」


言いかけた時。

口の動きで捉えた言葉は、最も恐れたものであり。

耳を尖らせた魔法使いが、笑みと共に杖を振ると。


「“燃えて落ち(バーニング・)よ綺羅星よ(メテオストライク)”」


遥か(そら)より飛来した破滅が、迷宮そのもの(・・・・・・)を直撃した(・・・・・)











「きゃあ!?」

「うおおおおおっ!?」


星の煌きが閃光となって地を貫き、天井と床の縦構造を、破断させて抉り抜く。


「ギ、攻城(ギルド)戦用の儀式魔法だと……!?」


最悪の予想を当てられたハルキが、あらん限りの声を絞った。

要集団、対集団で放たれる、一撃必殺の殲滅技能。

多量の魔力と隙だらけの時間を引換えに、直撃すればボスモンスターすら追い詰める、超高威力の極大魔法。

その切り札の用途には、敵拠点の破壊も含む。

迷宮全てを襲う震動、急激な揺れに姿勢を蹂躙されながら、魔王が怒りをぶちまけた。


「やりやがった!」


《儀式魔法》。

激怒する魔王は知る由もないが、勇者に借りを作るのを渋り、その調整で打診された、王国の採った苦肉の策。

《魔眼》を参考に数を捨てた支援の中、数で質を補えるとして用意された、唯一といえる攻撃手段。

雑兵を投じて勇者の邪魔になることもなく、迷宮そのものに打撃を与えて戦力を削り、対応の隙に侵攻を早める方法だった。

犇く魔物や罠をまとめて潰して道を作る、効率的な手法といえる。


「ア、イ、ツ、らぁ……!」


防ごうと思えば迷宮周囲に絶対の防御網を敷くか、それ系の施設と多大な魔力で《結界》を張るか。

《召喚》から10日の魔王には、いずれにせよ不可避の先制だった。

その性質上、可能であってもしてはいけない、ネチケットやマナーという概念に縛られた、プレイヤー故の落とし穴。

少数の例外にも過去の迷宮では万全に備え、故に長らく経験することのなかった、意識の欠落。

それでも目にする被害の大きさは、魔人という異物の世話に明け暮れ、リソースを割いた結果である。


「<迷宮>をなめくさりやがってぇぇぇぇええええええええええ!!!」


絶叫する魔王。

意識がモニターする迷宮の被害は迎撃部分を四階まで穿つ縦穴と、数割がロストした魔物群に、吹き飛び誘爆した罠など。

あまりのことに青褪めた後、再び、その表情が憤怒に変わる。

迷宮が大地に根を張る限り、発動すれば避けられない、宇宙からの隕石攻撃。


「入りもせずに攻略(アタック)するとか、ふざけるにも程があるだろうが……!」


<迷宮の魔王>に対しては、最大の侮辱と挑戦だった。

対等なギルド同士ならともかく、<ファンタジー・クロニクル・VR>において迷宮への使用は、白眼視も必須の外道行為。

他のプレイヤーも存在し、また攻略を目指すダンジョン。

内部の魔物による経験値と、置かれた宝による収入。

己の都合でその全てを破壊するプレイは、全方位からの敵視を買う。

故に禁忌。

仮想における外法であり、この異世界での必然だった。


「たとえ罠や魔物が嫌でも、ダンジョンには正面から入るのが礼儀だろう!? 攻略が楽になるからって、宝箱ごと壊してどうするアホどもがっ!」


発する声の激しさは、血涙を流す勢いである。

<迷宮の魔王>ゆえ《召喚》され、その拘りで魔人を助け、今日まで過ごしてきたハルキ。

過去の習慣に引き摺られ、王国の兵では弱過ぎて変えることなかった、プレイヤー意識にヒビが入る。

魔人の嘆願を受けた日に続く、状況に適する発想の変化。

あの日の生活面に続く、戦闘にして戦争面の。

後に大陸の歴史(・・・・・)に動乱を起こす(・・・・・・・)その変革(・・・・)は、ここから始まったのかもしれない。


「絶対に無事(タダ)では帰さん!」


宣言した口舌は詠唱を奏で、迎撃の準備を整える。


「“眷属召喚(サモン・ファミリア)”!」


眷属に再召喚がかけられ、虚空に集結する光の下、従者が揃って馳せ参じた。


「まおーさまっ!?」

「ご無事で!?」


黄金の鎧と魔法球が現れ、先の震動を感じたか、瞬時に警戒を展開する。

コレルが大盾を手に魔王を守る立ち位置を見せ、デカラビアは高く舞い、牽制射撃の姿勢を取った。

安全を確認して安堵し、仕える主人へと駆け寄る。


「勇者が来ましたか!」

「ああ」

「すっごいゆれだったね!? 何があったの?」

「そうだな…………いや、いい。説明は全部終わってからだ。すぐに来るぞ」


映像の投影を再開した視界は、現場の惨状を映していた。

地上部分に過ぎない門は無事である。

だがその後ろ、迷宮上部は広大な土壌が深く抉られ、大穴が暗く覗いている。

一帯の木々は着弾の衝撃で軒並み圧し折れ、薙ぎ倒され、その残骸さえ吹き飛んでおり、森の一部が消失していた。

周辺にあるのは炸裂した炎。

大気までが灼熱に悶えて陽炎となり、撒かれた火精や縦穴の闇と相まって、さながら奈落と煉獄を合わせた苦界である。


「くっそ」


そんな光景の最中(さなか)

集中した魔王の意識には、崩れ落ちた瓦礫を押し退け、またはぶち抜き、降りてくる影が投射された。

間違いなく勇者の一団であり、迷宮内に入ったことで、位置情報が知覚される。

着地と跳躍で素早く下降する者たちは、あっという間に地下四階まで辿り着き、進撃を開始。

歓喜と気迫が通路を渡り、疾走の途端、生き残っていた魔物のマークが、位置を重ねて弾け飛ぶ。


「~~~~っ!?」


ハルキが目を剥く。

レベル50台のミノタウロスが、手にした戦斧ごと断たれた。

初期にわずかに作って終わり、深層に置いた魔物たち。

グリーンドラゴンが視認と同時に目を射抜かれ、上げた顔で顎から続く矢を生やし、縫われた口がブレスを封じる。

前衛後衛を組ませた混成部隊が、出会い頭に魔法を《瞬間起動》され、陣形を丸ごと爆破された。

王国兵なら壊滅必至の戦力が、時間稼ぎにすらならない。


移動し続ける敵の位置は、驚異的な身体能力と反応速度、危機回避力の高さを示す。

モンスターの撃破に終わらず、罠も寸前で解除され、条件のあるものは素通りされ、あるいは念入りに破壊。

地上で目にした《投擲》の主、黒いローブの<ダークエルフ>が先行し、それなりに技能を割り振ってあるのか、次々に悪意を無効化していく。

勇者パーティーの中で、早くも八面六臂の活躍だった。

このままでは遠からず、本当にすぐにでも来かねない。

そこで。


「ティア」

「はい、まお……ハルキ様」


ハルキは初めて、自身の召喚者を向いた。

今日も玉座の側にいた少女。

先程まで平和に言葉を交わしていた相手は、真剣な瞳で頷いた。


「悪いけどもうすぐ敵が来る。案内をするから居住区か、安全な場所に避難してくれ」


迷宮地下六階で<魔王の間>だけは()のいずれとも独立しており、全ての階を突破した先、一つの扉を入口とする。

ハルキが転移を用いなければ執事や魔人も援軍に来れず、外部に連れ出すこともできない。

置かれた玉座には逃亡を防ぐ転移阻害の機能もあり、開戦の後は勝って出るか、負けて死ぬかの二択のみ。

迷宮の変化や増築などは<魔王の間>でしか行えず、玉座は端末であり増幅器。

魔王が陣取るからには相応の設定があり、だからこそ初日に迷宮を創造して以降、最初の居住区を作る間、ハルキとティアはここにいた。


「あの、ハルキ様っ、私もここにいてはダメでしょうか!」

「分かったグランのとこだな…………は?」


それは数分前も変わらず。

事情の説明もしているため、あとは魔王が姫の手を引き、連れ去るのみのはずだったが。

切り出した話が、初手から躓く。


「私は……ここに残りたいです。ハルキ様の戦いを、見届けるために」

「いやいやいや」


驚いて左右に手を振る魔王。


「アリス? 早くもどらなきゃダメだよ?」

「娘よ死にたいのか。お前は魔王様の契約者ゆえに尊重される身。魔王様のお気遣いを無碍にするなら、どうなっても知らんぞ」


眷属2人に迫られ、それでもティアが首を振るのは横だった。


「いいえ。正直に言って迷いましたが、今は幸い、爺もここには来れません。だからお願いしますハルキ様。勇者とあなたの戦いを、どうか見届けさせてください」

「何で今になってそんな……」


ハルキには彼女の性格と合わせ、急に言い出す意図が不明だ。

それも今のこの状況で。

勇者たちは既に地下五階まで着き、50レベルのモンスターを、当たる端から引き裂いている。


(いや)


もしかしたら。

そう、魔王の思考が巡る。

ティアリス=ミューリフォーゼ。

ハルキを実在の<魔王>として召喚した少女。

ハルキとは異なる魔王の、娘にして姫君。

一族と未来を背負ってハルキに接してきた彼女は、それでもやはり子供である。

ハルキ以上の。幼く、小さい。

勇者は彼女にとって仇だ。

先日の執事への反応から、並々ならぬ想いは確実。

まさか復讐かと思うが。


「電撃の魔法で【麻痺】させましょうか?」

「止めろ」


眷属の耳打ちを却下する。

“迷宮転移”は転移魔法の基本として、対象の静止が必要だ。

羽交い絞めでも抵抗されては無意味だし、かといって、魔法で黙らせるなど論外。

迂闊にやるとレベル差で殺しかねないし、何よりハルキの気が進まない。

己の迷宮に暮らす者を自ら害する発想は、<迷宮の魔王>たる彼になかった。


「────────ティア」

「…………」


魔王が歩む。

近づいて見下ろした真紅の瞳に、彼の望んだ揺らぎはない。

元より、魔王を前に怯えもしない少女となると、何処かがひどく抜けているか、かなり度胸が据わっている。

なのに。

彼女の装いは淡雪の、奇しくもあの日と同じドレス。

裾をきゅっと掴まれたそれは、シワを寄せて主を覆う。

そこに彼女の瞳と同じく、わずかな震えもなかったら、あるいは答えも変わっていたが。


「はあ。分かった」

「まおーさま!?」

「よ、よろしいのですか……!?」


先に視線を逸らす魔王。

眷属2人が驚くが、彼からすれば仕方がない。

共に過ごした10日間で、その性格は知っている。

彼女が秘めた覚悟までは関知の外だが、様子だけで十二分。

復讐にしては焦りがなく、恐怖の類も見られない。

勇者と魔王、この一戦に意味があると推測するが、確認するにも時間は不足。

仮に抵抗されるなら、“転移”をするにも手遅れだった。

上階を突破した敵は、もう、この場に繋がる通路まで来ている。


「玉座の後ろが安全だからそこにいてくれ。隕石の直撃でも食らわなきゃ大丈夫だ。悪いけど、それ以外なら許可できない。頼むから絶対、何があっても出ないように」

「はい!」


言う自分は目立つため玉座の前に立ち、アイテムボックスに手を入れ、足りない装備を整えていく。

途中、手を止めると抜き出し、ティアに何かを放った。


「姿と気配を隠してくれる指輪だ。動かなければ発動するし、連中の感知も掻い潜れる。外さないよう気を付けて」

「分かりました。…………ハルキ様、ありがとうございます」

「うー。アリス、ちゃんとかくれてなきゃダメだよ? ボク、アリスがケガしちゃイヤだからね?」


受け取った装具を指にはめ、死角に去るティアと見送るコレル。

2人の少女の声が合わさり、<魔王の間>へと響き渡った。


「さてと」


残響を耳に、迷宮の主が仁王立ちする。

石の床と柱で作られ、篝火の炎を、一定に配した大広間。

豪奢な飾りをつけた玉座。

以前の迷宮より劣化したそれらを、不思議なことに、彼はかえって頼もしくも感じた。


(何でだろうな)


それはもしや。

過ごした日々と団欒のうち。

<魔王>としてのその背中に、迷宮に加え、守る『者』を負ったからか。


「はは」


その想像の感触に、彼は小さく笑いを零す。


「まおーさま?」

「どうかされましたか?」

「いや、何でもない」


心配してくれる配下。

彼の脇に揃って立ち、この異世界で意識を備え、なお側に在る眷属(なかま)たち。

コレルの語った忠誠も、迫る勇者を前にして、魔王にとっては心強い。


「オレとオレの迷宮をコケにしてくれたんだ。最低倍返しでボコらなきゃ、気がすまないと思ってな」

 

口にする魔王が、初めてその武装を握る。

反らせた柄を床に突き、なおも刃が頭に届く、黄金の巨大な大鎌(デスサイズ)

生命を刈り取る刀身が、篝火を冷たく映していた。

命と平和に敵する魔王の武威を手に、戦意をたたえてハルキが立つ。

そして彼を召喚したティアが、目にする威容に熱いものを感じた時────────ついに、彼方の扉が開け放たれた。


「ここにいたか! 思ったよりも浅かったな!」


気勢と共に雪崩れ込む者たち。

<魔王の間>へと突入したのは、赤髪を覇気で燃やした勇者、メルリーウィ=テスラ・アナスタシアと、以下の五名。

人間の重戦士クドラク、獣人の弓兵アッシェ、エルフの魔法使いローエイン、ダークエルフの暗殺者タントラ。

そして僧服の神官セラフィが魔王の牙城、迷宮の底に辿り着き、玉座の前の大敵を睨む。


「来たか、勇者」

「着いたぞ、魔王」


<魔王>が過去(ロール)を思い出す、張り詰めた緊張。

ぶつかり弾け、渦を巻く闘気。

引き切られた弓がキリキリと弦の音を立て、互いの胸に矢を向ける。


「それじゃあ」

「それでは」


四対六。

実際はティアとデカラビアを除いた、4対12の瞳たち。

各自の意志を宿した視線は鋭く交わり、衝突を経て燃え上がる。

その中で、口火を切ったのは2人。

進み出る青と黒の鎧。

勇者と魔王。光と魔。人間と人外。

異質にして対なる者達が、戦いの火蓋を切り落とした。


「勇者よ!」

「魔王よ!」


セリフは同時、踏み込みは同調、目指すは同じく。

感情を熱く。殺意を高く。心を震わせ、声は激しく。

魔王と勇者は、100年の(てき)を見つけたように。


「「死ねぇぇぇええええ!」」


気合と言葉を叩きつけ、異世界における、最高の激突が始まった。





次回「第17話 魔王と勇者」は12月22日(日)18時更新予定。




戦術や戦略眼の天才ではないので、ストーリー上、今回の話は魔王様がトチる回です。

後は挽回、撃退、■■あるのみ。

設定などは後でまとめて出すべきか出さないでおくべきか迷いますが、一先ず残りの完結まで、どうかよろしくお願い申し上げます。


※儀式魔法に関して一部、過去の迷宮やゲーム内でも例外的には行われており、初の経験ではないものの長らくなかったため忘れていた、という部分を加筆しました。

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