7.ダイダス
『戦場こそ我が人生』
7.ダイダス・シャクソン Lv.95
特徴:大将軍 戦場の人 ガキ大将
剣一本で身を立てた根っからの武人。若い頃は色々やんちゃをやらかしていた。バルデロ国第一軍大将軍という立派な肩書は、ギルベルトが即位時にサクッと昇進させた為。一応貴族ではあるが末席過ぎて庶民同然で育った為あまり自覚はない。にも関わらず大出世してしまった所為で野心家には妬まれるし、貴族にはやっかまれるし、苦手な机仕事はさせられるし、得したことなんてサボっても誰にも罰せられないことだけ。あーやだやだ。副官に任せちゃえ。
当時黎明の軍師と名を馳せた、ジャスパー祭司長から目を付けられ、何度も最前線に送り込まれ、とっても逞しく育ちました。
今はちょっと丸くなってたまにレイディアとお茶を飲む仲に。ギルベルトとレイディアのあれこれを最も間近で目の当たりにしている内の一人。
由緒ある貴族の出である第二将軍セルリオとは腐れ縁。先輩と後輩、上司と部下、サボり魔と真面目と、色々正反対な彼とはしかし昔から何かとつるんでいる。
シルビアに惚れられていることは勿論知らない。
~お悩み相談~
バルデロ国第一軍大将軍ダイダス・シャクソン。バルデロ一の勇士と謳われている男。バルデロが小国であった時代より仕え、駆け抜けた戦場は数知れず、無数の騎兵の中を駆け抜け千騎を打ち取り生還した、などなど数えきれない武勇伝を持つ男である。数々の戦功を労い、ギルベルト王が即位すると同時に大将軍に大抜擢された彼は、前線から退いた今も、戦士に憧れ剣一本で身を立てることを夢見る少年達の尊敬の的である。
そんな彼は今、その伝説に似合わぬ溜息を吐いていた。
「どうなさいました?」
お茶を注ぎながら問うレイディアに、ダイダスはのっそりと顔を上げる。
「…なあ、レイディア殿」
「はい」
「最近、何だか、誰かに見られている気がするんだが」
「………」
「たまに差し入れらしき、手拭や飲み物が置かれてたりするし…」
「………」
レイディアは彼の言葉を反芻し、納得した。珍しく、彼からお茶に誘われたのはこの為か。
「お心当たりはありませんか?」
「将軍という職柄、狙われる理由はいくらでもあるんだが…どうも“そっち系”ではなさそうなんだ」
向けられる視線は、ちょっと勘の強い者ならすぐ気付けるほど強烈だ。視線が向けられる場所は鍛錬所か王城が主だ。だから視線の主は王城に出入りする者。最初は自分を大将軍の地位から引きずり降ろそうとする政敵かと思ったが、そうではないのはすぐ分かった。殺気も、敵意も含まれていないからだ。
…いないが、痛い。
隠す気はさらさらないようだ。そのくせ、姿を現さない。向けられる視線の意図が分からず、ダイダスは居心地の悪い日々を送っていた。
「…どなたか、ダイダス様に懸想なさっているのでないでしょうか?」
レイディアは言いながら、しっかり心当たりがあった。“彼女”がレイディア達に協力して後宮入りする際に、彼との仲を応援すると約束した。彼女は一応妃の地位にある為、あからさまな手助けは出来ないが、ダイダスを想っている相手がいる、という事実を彼に伝えるくらい、訳ないことだ。
「俺に? ないない、生まれてこの方、モテたことなんてないんだぞ」
「しかし、ダイダス様の武勇を尊び、ダイダス様を慕う者は大勢おられます」
「憧れだろう? それは嬉しいが恋なんかじゃない。そういった類は…妻だけだな」
しかし、レイディアのほのめかしを、ダイダスは一笑に伏した。ダイダスの青春は戦場に費やされ、一応結婚して息子を儲けたが、恋愛らしい恋愛を経験したことは皆無に等しい。
「今も、愛しておられるのですか?」
「どうだかな…あれは、俺の背を蹴飛ばすような女だったからな…色恋沙汰とは遠かったな…」
ダイダスは苦笑してはぐらかした。照れくさいからではなく、微かに疼いた罪悪感の為だ。
その結婚だって、妻が押し掛け女房同然に彼の隣に収まったからであった。
「…気丈な女性だったのですね」
「レイディア殿にかかると、どんな人間も素晴らしい人間のように聞こえるな」
ダイダスはおかしそうに笑ったが、実際、出来た女ではあった。戦で家を空けてばかりの自分に変わり、シャクソン家を盛りたて、後継ぎも与えてくれた妻には感謝しているが、最後まで彼女に恋心を抱くことはなかった己の心。決して苦手な性格ではなかった。寧ろその男勝りともいえる程の快活さは好ましい。けれど、何故か愛することは出来なかった。妻として大事に思っていたが、甘い時間を過ごしたことは終になかった。ダイダスが、彼女に対して思う後悔は、それだけだ。それだけであることに、少なからず申し訳なく思うのだ。
初めて聞くダイダスと奥方のなれそめ話に、レイディアは小さく呻った。
「…つまり、ダイダス様の初恋はないも同然ということなのですね。そして活発な女性が好みであると…」
「…ん、何か言ったかい?」
しみじみと昔の思い出に浸っていたダイダスに、レイディアの呟きは聞こえなかった。
「非情に都合の良いことをお聞きし…いいえ、何でも。大したことではありません。視線に負の感情がないのですから、その方はダイダス様をお慕いしているのは間違いありません。今はきっと声をおかけする勇気がないだけでしょう。心配することはないかと思います」
レイディアが、やけに断言する違和感に気付かず、その強い押しにダイダスは納得しつつあった。
「…そう、だろうか。だが、万が一ということがある。あまり人に言いたくないことであるし、レイディア殿に誰か突き止めるのを手伝ってもらいたいのだが」
「勿論協力致しますが、鍛錬場は、私も気軽に立ち寄れない場所ですので…」
「…ああ、そう、だな…」
「気落ちなさらないで下さい。出来得る限りこちらでも調べてみますから」
「頼むよ」
「お茶、淹れ直しますね」
レイディアは話は終わりとばかりに微笑んだ。その裏で“彼女”への報告する内容を纏めながら。
その日の夕方、秋妃シルビアが、何故か上機嫌で鼻歌を歌いながら、拳を握りしめている姿に、使用人達が首を傾げてたことなど、ダイダスは知らない。
彼の姓は初出だと思います。