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6.シルビア

『考えるよりも動きたい』




6.シルビア・ポルチェット Lv.50(乙女度)


特徴:白百合 姫 猫被り


ポルチェット子爵家の箱入り娘。地元では非の打ち所のない麗しの令嬢と評判で「リヴェラの白百合」と謳われる金髪碧眼の美姫。が、幼い頃に出会った壮年を過ぎたダイダス大将軍に惚れちゃってからは彼を影から追いかけまわすただの恋する少女に。ダイダス様今日も素敵な筋肉ですぅ。

ダイダスに下賜される事を目当てに後宮入りを果たし秋妃に。イイ子ぶりっこは年季が入っている。性格は溌剌。待つより行動が信条。物怖じしない度胸をもっているようだが、自身はいたって普通に愛情いっぱいに家で育てられた令嬢。後宮に上がってからはレイディアの良き友としてたまにお茶を一緒にしている。現在は行方知れずとなったレイディアと引きこもったダイダスを心配して王城中を走り回っている。ちなみにレイディアとは同年代。









~シルビアとベルの出会い~


「何だかな…どんなに偉いお貴族様も、人に恋をして、理性よりも感情を優先させることもあるんだって、今回でよく分かったよ」

ベルがお茶を一口啜って呟いた。

「…貴族も、人だもの」

レイディアはお茶受けの菓子を一つ取った。

「ああ、分かってるけど、身分っていう越えられない天井が張られていると、その上に在る人は俺達とは別次元の生き物の様に感じるんだ。生きる世界が違うっていうか」

「……そんなことないわ」

「ああ、分かってるよ。でも、城で働いているから知ってるだけで、貴族でなくても、王城で…王のお傍で働いているってだけで、憧れっていうのかな、遠い雲の上の存在に感じるものなんだ。そして、そんな人に、人間臭い感情があるなんて、考えもしない」

「それは…」

「別に城の人達が仙人か何かで人間じゃないだなんて思ってないけど、自然と、俺達と同じ感情があるんだって事実を忘れてしまうんだよな」

「そうかもしれないわね」

精神的に遠い場所にいる人に対して、その個人の心情を慮ることは難しい。それは分かる。ごく身近な者の気持ちを理解することさえ困難な人間の相互関係は、どうしても独りよがりになりがちとなり、自分の考慮外に対しては何の配慮も設けない。だからこそ、口さがなく人を貶める言葉を囁く者がいる。あることないこと己の憶測も交えて噂する者がいる。

エーデル公という、王の親族が起こした情けなくも大事となった不祥事に人は沸いた。横恋慕したという、公に出された“事実”を疑いもせず。


「…ところで、レイディア」

「何?」

「お前、友達が出来たのか?」

「………」

ベルの向ける視線の方向に、レイディアも自然と目を向けた。すると、物蔭に隠れきれていないが、隠れていたつもりの者がぱっと表情を明るくしてこちらに駆け寄ってきた。


「レイディア!」


つい最近後宮に上がったばかりの秋妃シルビアであった。

「………シルビア様」

「…シル…え、まさか側妃様かっ?」

レイディアは最初から気付いていたが、対応しかねて放置していたが、ベルがついに耐えきれなくなって終止符を打った。シルビアはレイディア達が自分に気づき、こちらに来ることを了承したと思ったのだろう。嬉しそうに笑っている。ベルはベルでまさかまさに今話していた事件の被害者本人がこんな後宮の端に来るとは思わなかったのだろう。目を白黒させている。

それも、使用人の良出立ちで。

ベルが椅子にしている岩から腰を上げかけたのは仕方のないことだ。

「よろしいのですよ。今はお忍びですもの。気楽になさって」

シルビアは初対面だからだろうか、淑やかな妃としてベルを椅子に戻した。

「よくここが分かりましたね」

「後宮中を走り回っちゃった」

「……今は臥せっていらっしゃるはずですが」

「そ、そうです。あの、体調はよろしいのですか?…というより何でこんな所に」

今日はエーデル公のシルビア妃誘拐を企てた咎で刑に処せられた翌々日にあたる。まだまだ噂は下火とならず、王城の者達の格好の話題となっている。

噂の渦中にあるシルビア妃は誘拐された恐怖で体調を崩した。淑やかな深窓の姫君が拐された恐怖に耐えられる筈もなく、傷心の身となった白百合の姫は寝台に臥せってしまい、心と体の傷を癒す為に暫く療養が必要である。


――と、なっている。


「体調? ええ、大丈夫よ。心配してくれてありがとう」

「あ、いいえ。そんな」

ベルはその答えにほっと肩の力を抜いたものの、本来言葉を交わすことさえあり得ない宮中奥の妃殿に対し、緊張は抜けなかったようだ。シルビアがローゼに劣らず美しい容貌をしていることも多分にあるかもしれない。

「シルビア様。彼はベルといいます。勤勉で忠誠心に厚く、後宮の門の番を任されている者です」

取りあえず、レイディアはベルを紹介した。お淑やかな態度を崩せないシルビアも、折角の休憩時間に寛げないベルも、今の状況は有り難くない。

「この間話してくれたレイディアの友達ね。こうしてよく一緒にお茶を飲んでいるの?」

「そうですね。お互いの時間が合えば」

「そう…羨ましいわ」

少し妬ましげにベルを見た後、シルビアは使用人が被るスカーフを豪快に取り去ると、二人の前の地面にそのままどっかりと座った。

それに驚いたのはベルで、慌てて懐から手拭を取り出し、彼女の尻に敷こうとした。

「いいの。私、堅苦しいのは嫌いよ。故郷にいる時はよくこうして草の上に直接座ってお菓子を食べたものよ」

「…は」

突然、シルビアの顔つきが口調と共に活発なものへと変わり戸惑ったベルはレイディアに助けを求めるように目を向けた。

「……シルビア様はとても聡明でいらっしゃり、市井の暮らしに理解のある方で」

「もうレイディア、良いって言ったでしょう。この人はレイディアが友達にするくらいなんだもん。信頼できるんでしょ。だから私も繕わない」

シルビアは悪戯っ子の様な目をベルに向けた。

「私、碌に風邪もひいたことがないの」

「…は、ぁ」

「だから、体調も悪くないのに寝台で寝てるなんて、耐えられないの」

「…え」

「あのね、お淑やかで完璧な令嬢って、自然となれるものじゃなくて、頑張って作るものよ。でね、殿方に、お姫様は皆綺麗な砂糖菓子なんだって半ば本気で信じさせるくらいの夢を見せなきゃいけないの。それが私達貴族令嬢の仕事の一つ」

「えっ…」

「でもね、そういうのってとぉっても疲れるのよね。肩が凝るし。笑顔が引き攣るし。足は痛むし」

「は………はぁ」

「で、疲れた時には休息が必要でしょ」

「そ、そうですね」

さっきから矢継ぎ早しに言葉を紡がれ、ついていけていないベルは再びレイディアを見た。

「つまり、畏まらないで一緒にお茶の仲間に入れてほしい、ということよ」

「そういうことよ」

「シルビア様。息抜きをなさるのは結構ですが…」

「分かってるわよ。侍女達には何があっても夕刻まで寝室に近づくなってちゃんと言ってから来たわ」

「そうですか…」

一人にしてくれと言ったって、時に様子見も兼ねて、気の付く侍女が水や軽食を届けに来ないとも限らない。その時、呼びかけに返事がなければ、心配して寝室の扉を開けてしまうかもしれない。そうして寝室で眠っている筈の妃がいないことが露見すると、下手をすれば衛兵が動員され、まだまだ落ち着かない中、さらに騒ぎを煽る可能性が大いにある。

シルビアの性格からして大人しくしていることが苦痛であるのは分かるが、少し、軽率だ。


…まあ、後宮の住民を出来るだけ自由に、心安らかに過ごせるよう気を配るのは自分の仕事だ。


レイディアはシルビアの分の湯飲みを用意する際、微かに後ろを振り返り、物蔭に向かって指を軽く揺らした。

そしてベルと打ち解け始めたシルビアに手際よく淹れたての茶を差し出す。


「シルビア様。お菓子をどうぞ。厨房の者が余った材料で作ったものですが」

「あら、なあに。そういうの好きよ。なんていうの? つまみ食いする気分」

「…シルビア様は、随分気さくな方なのですね」



こうして無事に、シルビアを交えて楽しい時を過ごした。




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