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エピローグ−上

 ビデオカメラをテレビに接続する。そして、再生ボタンを押す。

 それだけで、彼女は再び僕の目の前に現れた。

「この映像を観ているという事は、私はもうあなたの前にはいないという事だね」

 テレビに映し出された彼女は開口一番にそう言い放った。それから少しだけ恥ずかしそうに黙りこくっていた。

「……あっ、あぁ。ここは私がよく好んで来た所」

 彼女は画面に近づき、カメラを持ち上げて周りの風景を僕に見せる。とても青く、澄んだ空。ここは学校の屋上だ。

「知ってるよね。よくここで話したんだから。変だなぁ……言いたい事がいっぱいあるのに、いざとなると何を話せばいいのか分からないや」

 画面には相変わらずの青空。そして、その風景に響く彼女の震える声。

「泣いてるのかよ」

 僕は呟く。

「あっ、そうだ。滝川君に勧められたダンテの神曲。全部読んだよ。読み終えたのは昨日。勧められてから結構経ったね。うん、でも凄いよ、滝川君は。あれを三日で読んだんでしょ?それに内容だって深く理解してたみたいだし。あははっ……私は全然理解出来なかったよ。でも……最後まで読めて良かった。うん、本当に良かった」

 そう言った彼女の声は本当に晴々しかった。もう声には震えは混じっていなかった。

「……ふぅ。結局……ううん。何でもない。……ごめん。何を言えばいいのか分からないや。もう終わるね。ただね、最後に一つだけ伝えたい事があるんだ。私ね、もしかしたら滝川君の事が――好きだったのかもしれない」

 そこで映像は終わった。青空が灰色の砂嵐に変わった。

 ――何だって?君の事が好きだったのかもしれない?そんな……自分の好意くらい、自分の口で言えよ。今更過ぎるんだよ。バカ……バカ凪!

 僕は喧しい音を立てるテレビの前から動けずにいた。ただ、ずっと座っていた。


『君の事が――好きだったのかもしれない』


 その言葉が頭の中で繰り返される。頭では足らず、遂に口にしてしまう。

「君の事が好きだったのかもしれない」

 喉が鳴った。うまく息をする事が出来ない。目の奥も何だか熱い。胸が痛い。


 ――あぁ、僕は泣いているのか。


 僕はテレビの前で泣き続けていた。


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