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Short Short Circuit

我三つ子

作者: 境康隆

「兄さん。髪伸び過ぎだよ」

「お前こそ、ぼさぼさじゃないか」

「兄さん達は二人とも、似たようなもんだよ」

「お前もだろ?」

「お前もだよ」

「何だ。三人揃って、髪がぼさぼさってことか」

 同じ顔を突きつけ合わせた三人が、揃いも揃って伸び放題の頭を掻いた。

 顔も似ていれば、その頭を掻く仕草もよく似ている。何より伸び放題の髪が、まるで瓜二つ、いや瓜三つだった。

 そう、彼らは三兄弟。それも三つ子だった。

 三人は同じ部屋で、暇を持て余すようにだらだらと過ごしていた。

「髪を切りにいくか、また三人揃って」

 長男が切り出した。

「三人同じ雁首揃えていって、床屋の親父の驚く顔を見るか」

 次男も散髪に乗り気になった。

「それも飽きたよ。兄さん」

 三男が意見する。

「そうだな。それなら――」

 長男が何やら思いついたのか、にやりとアゴをさすって笑った。



「どうだった、兄さん」

 ぼさぼさの頭を掻きながら、次男が口を開いた。

 そこは散髪屋の前だった。ただし中からは見えないようにか、その入り口の脇で三つ子は固まって立っている。

「ああ、随分と話をして、印象づけてきたよ」

 長男は散髪したてでかゆいのか、丸刈りにした頭を掻いて応えた。

「驚くだろうな。店の親父は」

 次男がぼさぼさの頭を、こちらも掻きながら言う。髪の有る無しにかかわらず、やはりその仕草はよく似ていた。

「気づいてくれればね」

 三男がアゴに手をやり、笑いをかみ殺す。

「じゃあ、次は俺がいくよ」

 次男がそう言うと

「ああ、間違えるなよ。小太りの、ヒゲの親父だ」

 長男が応える。

「任せとけって」

 次男はそう言うと、兄と弟に手を振って散髪屋に入っていった。



「どうだった、兄さん」

 ぼさぼさの頭を掻きながら、三男が口を開いた。

 そこはやはり散髪屋の前だった。先程と同じく中からは見えないようにか、その入り口の脇で三つ子は固まって立っている。

「ああ、随分と話をして、印象づけたつもりだったんだが……」

 次男は散髪したてでかゆいのか、丸刈りにした頭を掻いて応えた。

「驚かなかったのか? 店の親父は?」

 長男が丸刈りの頭を、こちらも掻きながら言う。髪の有る無しにかかわらず、やはりその仕草はよく似ていた。

「気づいてくれなかったのかな?」

 次男がアゴに手をやり、疑問に首を捻る。

「じゃあ、次は俺がいくよ」

 三男がそう言うと

「ああ、間違えるなよ。小太りの、ヒゲの親父だ」

 次男が応える。

「任せとけって」

 三男はそう言うと、二人の兄に手を振って散髪屋に入っていった。



「どうだった」

 丸刈りの頭を掻きながら、長男が口を開いた。

 やはり散髪屋の前だ。先程と変わらず中からは見えないようにか、その入り口の脇で三つ子は固まって立っている。

「ああ、随分と話をして、印象づけようと思ったんだけど……」

 三男は散髪したてでかゆいのか、丸刈りにした頭を掻いて応えた。

「驚いただろう? 店の親父は?」

 次男が丸刈りの頭を、こちらも掻きながら言う。今や同じ坊主頭。その仕草は更によく似ていた。

「気づかれなかったのか?」

 長男が驚いたように口を開き、困ったという風にアゴを掻く。

「驚かれたよ」

「そうだろ! わざわざ知らない店に、三人順々に散髪にいった甲斐があったな」

「やったな! そりゃ、流石に驚くだろ。瓜三つの顔が切っても切っても、散髪にくるんだからな」

「兄さん達。それがね……」

「どんな風に驚いてた?」

「そうだ、聞かせろよ!」

「随分と驚いてたよ。僕達三つ子なんですって言ったら――」

 三男がそう言いながら店の中を覗く。

「奇遇ですね。うちも三つ子なんですよ。三人で休憩を回して、店を切り盛りしてるんでよって」

 店の中には小太りのヒゲの男が三人、瓜三つの顔を合わせて談笑していた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 短編小説の真髄というか、遊び心があって、 それをきちんとした文章で書かれている方は少ないので、いつも楽しみに読ませていただいてます。 仕事帰りのくたびれた頭ですいすいと読めるのでありがた…
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