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駄犬の勇者と聖女の献身  作者: 矢野葉


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旅の始まり?

エドゥアール1020年、春

元は北部山岳地帯の裾野にある小さな村ミノル。その村が注目を集め出したのは、おおよそ15年前。山から吹く風に悩まされていたはずの土地の気候が安定し、土を掘れば灰が露出するほど痩せてた土地だったにも関わらず豊作が続く。


豊かな作物は、小さな村にまずは商人を呼び寄せ、村人たちが通貨と貨幣の仕組みになれた頃には、商人の噂を聞きつけて各地から娯楽と商品を積んだキャラバンが集う。移住を希望する者が増え、素朴な村人は人を雇うことを覚えた。人手が足りてなお、金貨が増えていくと人々は文化と教育を欲した。村には歌が、各地から運ばれた布地や焼き物があふれ、人々は着飾り、よく笑い、よく食べた。より広く、より発展した町を志す者も生まれはじめる。


いずれ朽ち果てていくのが自然と思われた小さな村だったが、人が集まるほどに税収は上がり、それに気付いた領主が村に目をかければ道は整備され、警備のための兵が配置され、家屋を建てる資材を運ぶインフラが整った。小さいと名付けられた「ミノル村」はいまや近隣の山村と比べられないほどに大きな街となり、数年のうちに不自然な繁栄と発展を遂げていた。


その結果、中央諸国最大の信者を抱える聖教会はミノル村に起きた奇跡と認め、ミノルの村に住む1人の男を「勇者」と認定。生まれたその日から勇者への献身を運命づけられた少女、聖女カテナが派遣されることとなった。


白銀の髪に、褐色の肌。瞳に合わせたのであろう、淡いアメジストの飾りと季節の花を編み込んだ髪型は優雅だが、これからの旅路のために用意された濃紺のドレスはシンプルなつくりをしている。教会の象徴とも言える重たい絹織の、白地に銀糸の刺繍がびっしりと刺されたローブは、まだ少女とも言える華奢な肩をもった彼女には重たそうに見えた。


大通りからは少し離れた路地に面した一軒家

ここに、教会が認定した勇者が住んでいる

カテナはこくりと唾を飲んでから扉を叩いた


コンコンッ


「聖教会からお迎えにあがりました、勇者ヴィルトゥス」


清らかな声、慎ましい微笑み

聖女を取り囲む領主の私兵と、教会から派遣された兵の鎧はピカピカに磨き上げられている。新しい娯楽に飢えた市民たちからは絶え間なく歓声があがり、新たな歴史を紡ぐに相応しい華々しい旅の始まりは――


「・・・解釈違い」


パタンッ

無礼な一言と共に、聖女の鼻先で素朴な彫刻のはいった木製のドアが、閉じられた。


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