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境界観測《リミナル・サイト》 ―魔王も勇者も転生者!?でも私はただの村娘です―  作者: Rasky
第1章 都市ラグナス

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31話 はじめての依頼

「これで登録は完了です」


受付嬢が顔を上げ、柔らかく微笑む。


「ようこそ、都市ラグナス冒険者ギルドへ。レナさん、ミアさん」


受付嬢はそう言うと、カウンターの後ろで何かをカタカタと打って、そこから何か二つ取り出した。


「こちらが、お二人のギルドプレートになります」


そう言った受付嬢の手のひらに乗っていたのは、金属製の札だった。首から下げられるように穴が開いていて、革紐が通してある。形は細長い板状で、いわゆるドッグタグ型だ。


私は受け取って、まじまじと見る。


表面には、交差した剣と盾の紋章。その下に刻まれた文字。


──レナ

──Fランク


「ちゃんと書いてある……」


ミアも自分のを見ている。


裏返すと、細かい文字が彫られていた。


──発行:都市ラグナス冒険者ギルド

──出身:都市ラグナス領・辺境部


「表面には名前と現在のランク。裏面には発行支部名と登録出身地が刻印されています。このプレートは魔力認証式になっておりますので、魔力を軽く通していただければ本人確認が可能です。他人が使用することはできません。登録者本人が魔力を通すと紋章が淡く光ります」


「魔力を通すって、さっきみたいに触れるだけでいいんですか?」


「はい。強く流す必要はありません。触れて意識するだけで反応します」


私は試しに指先で触れてみる。すると、受付嬢の言う通り、剣と盾の紋章が淡く光った。


「紛失した場合は再発行できますが、手数料がかかりますのでご注意ください。また、ランク昇格時には新しいプレートに交換されます」


受付嬢は続ける。


「現在はFランクですので銅プレートです。Eランクまでは同じ銅製、Dになると鉄、Cは銀、Bは金、Aはプラチナ(白金)、そしてSランクはミスリル製となります」


また、Sランク冒険者はほとんど存在せず、現在は世界規模で見ても十人程だけらしい。名前を聞けば誰でも知っているような存在らしい。私は聞いたことがないけど。


私は自分の銅プレートを見下ろす。


「銅かぁ」


「最初はみんなそこからです」


受付嬢は穏やかに言った。


私はミアを見る。


「このまま、依頼受けてみる?」


「うん。登録したばかりで帰るのも変」


「では、初依頼ですね」


受付嬢が掲示板のほうに視線を向ける。


「Fランク向けですと、薬草採取、街道周辺の清掃、簡易運搬補助、小型魔物の討伐などがございます」


「魔物討伐……」


「いきなりはやめとこう」


ミアが即答する。


受付嬢も小さくうなずく。


「初回でしたら薬草採取がおすすめです。ラグナス西の森に自生している回復用の基礎薬草で、危険度は低めです。ただし、稀にスライムなどの低級魔物が出ることがあります」


「スライムって、あの、ぶよぶよしてるやつですよね?」


「はい。打撃や斬撃などで核を破壊することで対処可能です。ただし、体液が衣服につくと匂いが取れにくいのでお気をつけください」


その言葉を聞いて、ミアは私を見る。


「それ、重要」


「身をもって知ってるよ!」


受付嬢が笑う。


「では、こちらの依頼でよろしいですか?」


スライム…まぁ、たまに出てくる程度だから大丈夫だよね。もし出てきてもあの液体に気をつければいいんだし。よし、


「薬草採取でお願いします。最初なので、ちゃんとこなせるやつからやります」


「かしこまりました。必要数は二十束。根ごと抜かず、葉と茎の上部のみ採取してください。群生地を枯らさないための規則です」


「ちゃんと理由あるんだね」


「ギルドは長く続いていますので」


依頼書を受け取り、私たちはギルドを出た。


都市の外へ向かい、西の森へ入る。街道から少し外れた場所だが、人の出入りはあるらしく、踏み分けられた道が続いている。


「この辺だと思う」


依頼書の簡易地図を見ながら、私は周囲を探す。


薬草はすぐに見つかった。葉の形、匂い、色。村にいたときに、時々バイルの薬草集めを手伝っていたからどんな薬草かは覚えていた。村での知識が役に立ったことが何となく嬉しく感じる。


「これだね」


「うん、間違いない」


私たちはしゃがみ込み、丁寧に上部だけを摘み取っていく。


「二十束って言っても、意外と時間かかるね」


「選別しないといけないから」


質の悪いものは納品できない。途中で枯れかけのものを除きながら、黙々と集める。


一時間ほど経った頃、ようやく二十束が揃った。


「これで終わりだね」


「うん、帰ろう」


立ち上がったそのとき、背後でぬちゃ、と嫌な音がした。


振り向く。


半透明の塊が五つ、ぽよんぽよんとゆっくりとこちらに近づいてくる。


「………スライム」


「しかも五匹」


私はすぐに短剣を抜いた。


「また臭くなるのは嫌だからね!今回は絶対つけない!」


「そこ最優先?」


「当たり前!」


最初の一匹が跳ねるように迫る。私は横に避け、核に狙いを定めて斬りつける。ぶよ、とした感触とともに体が裂け、どろりと崩れ落ちた液がかかりそうになった。


「うわっ」


私は距離を取りながら、二匹目に踏み込む。足元に気をつけながら、できるだけ低く切る。


三匹目はミアが短剣で正確に突いた。無駄がない。


「左!」


「分かってる!」


四匹目を斬り払い、最後の一匹を同時に挟み込む。


数分後、五匹は動かなくなった。


私は大きく息を吐く。


「……よし。今回は液、ついてない」


服、スカートの裾、靴、問題なし。


「ふふん!完璧!ね、ミア!今回はあの臭いのつかなかったよ!」


そう言いながら液が付かなかったことを自慢するように、クルクルとその場で回ってみせる。


──ぐにゃ。


「…え」


さっき倒したスライムの体液を、思いきり踏み抜いた。


「……」


ぬちゃ、と嫌な感触。


ミアが一瞬黙って、それから吹き出した。


「ふふっ…レナ、何してるの?」


「い、いや別に大した量じゃないし! ちょっとだから! 本当にちょっとだから!」


「ちょっとって、ふふっ…油断したね。レナ臭い」


「言わないで!」


結局、靴の裏と裾に少し付いた。前よりはましだけど、ミアの言う通り臭い。


「……はぁ…早く帰ろう」


「うん、くふふっ」


夕方近く、私たちはギルドに戻った。


中は朝より人が増えている。依頼帰りらしい冒険者たちが、報告や報酬受け取りで並んでいた。


他の人に当たらないよう、避けながら受付に進む。


「お帰りなさい。初依頼はいかがでしたか?」


「薬草、ちゃんと二十束あります。あと……スライム五匹、遭遇して倒しました」


受付嬢が目を丸くする。


「怪我は?」


「ありません。ちょっと臭いだけです」


ミアが横でまたくすくす笑っていることを私は見逃していない。今日の夜はくすぐりの刑に処そうと思う。


受付嬢は納品された薬草を確認し、丁寧に数える。


「質も問題ありません。こちらが報酬です。それと、スライム討伐の件も簡易報告として記録しておきますね。討伐部位を持ち帰ってきていただければ評価に加算されます。次からは、魔物を倒した際は討伐部位を持ち帰ってきてくださいね」


「え、持ってきたら加算されるんですか?」


「はい。依頼外であっても、街道周辺の魔物排除は評価対象です」


小さな袋を受け取る。中で硬貨が鳴る。


「初依頼、無事完了ですね。初依頼なのに薬草の摘み方がとても綺麗でしたね。これからもその調子でお願いしますね」


「ありがとうございます!まぁ、スライムはちょっと予定外でしたけど……」


「体液、踏んだんですもんね」


「それは言わなくていいですから!」


受付の向こうで、彼女は小さく肩を揺らした。


「あら、ごめんなさい。でも、お二人とも怪我がなくて本当によかったです」


そこで私は、ふと気づく。


「あ、そういえば……」


「はい?」


「私たち、まだあなたの名前聞いてなかったなって。いつまでも“受付の人”って呼ぶのも変だし」


ミアも頷く。


「確かに。これから、何度も来ることになる。名前で、ちゃんと呼びたい」


受付嬢は一瞬きょとんとしたあと、少し嬉しそうに微笑んだ。


「まあ。気にしてくださっていたんですね。申し遅れました、私はエリシアと申します。ラグナス支部の受付を担当しております」


「エリシアさん」


私は口に出して確認する。


「はい。エリシアです」


「じゃあ、エリシアさん。今日はありがとうございました。ちゃんと説明してくれたおかげで、迷わずできました」


「いえいえ、それが仕事ですから。でも、そう言っていただけると嬉しいです」


ミアが横から静かに言う。


「エリシアさん、また依頼、受けに来る。そのときは、よろしく」


「もちろんです。お二人のような真面目な新人さんは歓迎しますよ」


受付嬢が笑う。


「今日はゆっくり休んでください。また明日もお待ちしていますよ、レナさん、ミアさん」


冒険者としての一日目が、レナの服以外無事に終わった。

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