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境界観測《リミナル・サイト》 ―魔王も勇者も転生者!?でも私はただの村娘です―  作者: Rasky
第0章 私の初めの物語

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22話 消えた対立

夜の冷え込みで目が覚めた。


寒いのか熱いのか分からない。体が震えているのに、右足だけが焼けるように熱い。喉が渇いている。口の中が鉄の味で苦い。頭が重い。少し動こうとしただけで吐き気がこみ上げた。


いつ寝たのかも、どれくらい眠っていたのか分からない。空は白み始めている。既に父と仲間たちは並べたまま、静かに横たわっている。


右足を目を向けると昨日よりも腫れていた。引きずり回していたせいで菌が入ったのだろう。皮膚は張りつめ、赤黒く変色し、触れなくても脈打つたびに内側がずきりと痛む。砕けた骨の破片が、まだ中で刺さっている感覚がある。痺れはあるが、動かせはする。足先の感覚もある。だが重い。熱い。明らかにおかしい。


寒気が背中を走る。なのに額から汗が流れる。


──まずい。


このまま動けなくなれば、本当に終わる。

父が命を削って繋いだ時間も、仲間たちの叫びも、何もかも無かったことになる。

自分が覚えている限り、族はまだ消えていない。

だから、ここで終わるわけにはいかない。

獣に食われて死ぬか、発熱で死ぬなんて許されない。


ミアは地面に手をつき、ゆっくりと上体を起こした。視界が揺れる。黒い点がちらつく。深呼吸を何度も繰り返す。父の装備が視界に入った。腰に巻いていた布と、折れた槍の柄。近くには誰かの水筒と崩れた柱の木片も転がっている。


固定しないといけない。


正しい位置に戻せる自信はない。だが、これ以上中で骨が動けば、肉も神経も壊れる。動かないように縛るしかない。


ミアは這って父のそばへ行き、腰から布をほどいた。手が震える。力が入らない指でどうにか父の腰から布を取る。木片と折れた槍の柄、誰かの水筒も回収した。

右足の傷口を水筒の水で洗い流した後、足に両手をかける。ずれている感触が分かる。骨が中で不自然な角度になっている。少しだけ、ほんの少しだけ引く。


その瞬間、視界が白く弾けた。


叫び声が出たのか、自分でも分からない。耳鳴りがする。吐き気がこみ上げ、胃の中のものを地面に吐いた。涙が勝手に流れる。だが足先はまだ動く。感覚もある。折れたままだが、完全に壊れてはいない。


「あとは…縛るだけ…」


木片を押し当てた瞬間、激痛が走った。喉の奥から声が漏れる。


「……っ、ぐ……」


息を止める。逃げたくなる。やめたいと思う。それでも、ここで止めるわけにはいかない。


布で強く巻く。きつく、動かないように、何重にも。縛るたびに骨片が当たり、鈍い衝撃が内側を走る。歯を食いしばり、どうにか最後まで結び切った。


終わった瞬間、全身の力が抜けた。地面に崩れ落ちる。呼吸が荒い。右足は脈打つように痛むが、さっきよりは動きが抑えられている。


だが熱は下がらない。


寒気が強くなる。指先が震える。頭がぼんやりする。遠くで風の音がしているはずなのに、木々のざわめきもうまく聞き取れない。仲間たちの顔が滲んで見える。


──1日、持ちこたえてみせる。1日休めば少しは熱も…


「…ん?」


違和感。足を固定し終わり、発熱についても覚悟が決まったからか、少し心に余裕ができた。


だからだろうか、森の空気がわずかに変わっていることに気がついた。


いつも感じていた“圧”がない。獣人族が守っていた境界の気配が、完全に消えていた。







同じ頃、森の外れでレナは立ち止まっていた。


二日前の夕方、バイルからミアが里に帰ったと聞いた。「すぐ戻る」と言っていとも。


その時は、両親を失った直後だったから泣いて、叫んで、何も考えられなかった。そんな時にミアが帰ったと聞いてさらに心細くなった。


二日経っても喪失感は当然消えていない。心の整理もなにもついてないけど涙はもう出なかった。心は重く底に沈んでいるままであるが、当日に比べれば少しは落ち着いたのだろう。

ちなみにミアからの伝言の『お前の両親は、消えない』という言葉の意味は二日経った今でも分からない。

だから戻ってきたら聞こうと思っていた。


だが、「すぐ戻る」と言ったミアが二日経ってもまだ戻ってこないのだ。


彼女は律儀だ。以前に干し肉をもらったからという理由だけで、全く関係ない助けてくれた。約束を破るような人ではない。


そんな彼女だから、もしかしたら村までは入ってこずに境界線の前で立ち尽くしているのかもしれない。


それに今朝、また線が見えた。

その数本の線が森の方へと繋がっていのだ。


「森…?またなにか…」


そう思い、とりあえず森の奥地前まできてみたが…


「あれ。ここだよね、なんか…いつもと違うような?」


いつもなら森の奥地に近づけば、どこかで獣が動く気配がある。浅瀬側とは違う雰囲気…言うならば、森の奥地はまるで外から来る者を拒むような、静かに身構えているような、そんな感じがしている。


そう、いつもなら。

今日は違う。


鳥の声が少ない。獣の気配も散らない。張りつめたものがない。ただ緑が深いだけで雰囲気は浅瀬と変わらないような、浅瀬と奥地の境界が曖昧なような…


「……境界線がない?」


対立で境界線は生まれた…と聞いている。

片方が消えれば、対立は成立しない。

となると、獣人族のヒューマン族への対立心が消えた?いや、そんなはずは無い。昔からの対立心が急に消えるなどあるはずがない。


消えるなど…消え……、え?


「………」


最悪な想像をしてしまった。そんなことがあるはずがない。そう思うのに。思いたいのに。


胸の奥が冷える。ミアが帰ってこない理由と、境界線の消失が重なる。


「──っ」


レナは森の奥地のその先へ、迷わず走り始めた。

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