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第252話 十二聖女の晩餐会

 フランスの視線の先で、一番年かさの聖女が祈りの言葉を口にした。


「親愛なる主よ。われらに、このような機会を……、聖女子会の時間を与えて下さったことを、心より感謝いたします。だれひとり欠けることなく、聖女の散歩はなしとげられました。そして、ここには温かい食事まであります。関わったすべてのかたたち、また、国をこえてわれらに良くして下さったイギリス皇帝陛下に、そしてすべてをお導きくださった主に、感謝をささげます。アーメン」


 聖女たちの声が、重なる。


「アーメン」


 大きな卓をぐるりと囲んで、十二人の聖女による晩餐会がはじまった。


 シャルトルが「聖女だけで、話したいことがあります」というと、イギリスが食事の用意を聖女たちに特別部屋をわけて用意してくれた。


 晩餐会といっても、豪華な食事があるわけではない。

 パンとチーズとすこしの肉と、ぶどう酒がある。


 丸一日、ろくなものを食べていないフランスにとっては、最高に豪華な晩餐に見えた。


 イギリスに感謝ね。


 ブールジュが、ぶどう酒を飲みながら、真っ先に言った。


「さっき、陛下に国境の様子を聞いたわ」


 フランスは、一番気になっていた情報に、身を乗り出して聞いた。


「どうだって?」


「西方の騎士団にくわえて、東方の騎士団も国境にいるらしいわ。もちろん、帝国側に武装した騎士団が入っては来られないだろうけれどね。ちなみに、西方の騎士団をひきいているのは、わたしの兄貴だったわ」


「えっ、そうなのね」


「そう! だから、とりあえず、こっちから使者をひとり送っておいたわ。明日の午後には、そっちに戻るって、伝えておいた。やきもきしすぎて、突撃でもされちゃ、国同士のもめ事になっちゃうからね」


「そうなのね……。何事もなく戻れるといいけれど」


「大丈夫でしょ。これは、聖女子会散歩だから」


「……」


 ブールジュの、本当に大丈夫と思っていそうな、どっしりとかまえた様子に、感心してしまう。


 フランスは、首をかしげて聞いた。


「朝に戻るって言わなかったのね」


「もう、こんなにへとへとで、朝早くから動きたくないわ。陛下もゆっくりしていいって言ってくれたし、午前中はだらだらしよ」


 さすが、ブールジュ。

 ずぶとさの格が違うわ。


 いつのまにイギリスとそんな話をして、教国側の追手に使者まで送って、さらには、このあつかましさ。


 ほんとに、女教皇になれそうな気がしてきた。


 ブールジュが、パンをちぎりながら、シャルトルに向かって言った。


「それよりも、聖女だけで、話したい事って、何なの?」


 見習い聖女ちゃんが「気になります!」とわくわくした顔でシャルトルを見た。


 シャルトルが落ち着いた声で言った。


「話したかったのは、聖女の力についての秘密です」


 シャルトルが、机のはしにおいていた、古い書に手をやりながら言う。


「これは、代々、教皇のみが閲覧できる聖女に関する書です」


 聖女たちの目が、古びた本にそそがれる。


 沈黙のあと、ブールジュが、言った。


「持ってきたのね」


「ええ。わたしは、教国のあり方を変えるきっかけを作りたくて教皇の座を目指しました。ですが、もうひとつ、教皇になって手に入れたいものがあった。それが、これです」


 古びた本の表紙には、ユリの紋章が描かれていた。


「本来ならば、聖女自身が知るべき内容です。だが、いつしか、これは教皇のみが知るものになった」


 シャルトルが、じっと、本の表紙を見つめながら言う。


「むかしは、聖女の力に多くの制限はかけられていませんでした。そもそも、聖女とは教国の職位のひとつでもなかった。自然的に発生し、人々を助ける存在でした。それを、いつからか、聖女と呼ぶようになり、教国の職位のひとつとするようになったのです」


 シャルトルブルーの瞳が、本の表紙から、聖女たちに向けられた。


「そして、この強すぎる力は権力争いに、悪用されるようになりました。聖女の呪いの力が、戦争に利用されることもあった。とくに、第一番の聖女の力は強大です。ひとつの軍隊を有するほどの力をもつ」


 千人を一度に癒すことも、殺すこともできる、第一番の聖女の力。

 戦争に利用すれば、強力な力となる。


 その呪いの言葉を口にする聖女の姿を想像して、フランスはぞっとした。


 聖女たちが、じっと聞き入る中、シャルトルの言葉がつづいた。


「そこで、過去の聖女たちは、教皇と結束して、聖女の力を隠すことにしたのです。ですが……、これが仇になった。代が変わると、過去の教皇は、聖女たちにも、この歴史を隠し、聖女たちを教皇が有する強力な権威の象徴とすることに成功したのです」


 シャルトルがひとつため息をつく。


「そうして、今の、いびつな聖女のありかたになった」


 シャルトルが、ふたたび古い本に目をやって、眉をしかめながら言う。


「戦争に聖女が駆り出されていたころの記録は、ほんとうに聖女と言うべきか、悩ましいほどです。癒しの力すら、拷問のために利用していました」


「拷問に、癒しの力を?」


 どうやって……。


 フランスの問いに、シャルトルが答える。


「死に至る苦しみをあたえながら、同時に癒し、長く、激しい苦しみをあたえるというものです」


 見習い聖女ちゃんが、息をのんだ。


 なんて、ひどいことを……。


 しんとした。


 聖女が持つ力は、言葉の力だ。

 それは、祝福のように人々を癒すことも、呪いのように人々を傷つけることもできる。


 悪用しようと思えば、いくらでも、悪用することはできる。

 そう考えると、おそろしい心地がした。


 シャルトルが、しずかに言った。


「この力は、ひとが扱うには、あまりに強すぎる力かもしれません。わたしも、いまだに、第一番の聖女の力について、あるべき姿を見いだせてはいない」


 この場にいる、誰にも、聖女のあるべき姿は、分からないかもしれない。


「それと、この書には、もうひとつ、聖女が知るべき内容が記されています」


 シャルトルの言葉に、聖女たちの視線が集中する。


「聖女の力がどうやって失われていくのか、過去の例がすべて書き記されているのです。——覚えていますか? 一年ほど前に、急に消えた聖女がひとりいたことを」


 フランスの記憶にもまだ新しい、フランスよりもすこし年かさの、人の良さそうな笑顔が印象的な聖女だった。


 一番年かさの聖女が言った。


「おぼえています。赴任した地域が近いので、たまに会うことがありました。おだやかで、優しい子でした」


 次にシャルトルが言った言葉に、聖女たちはざわついた。

 思ってもみない言葉だった。



「彼女は、生きています」



 なんですって!





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