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第250話 女性の裸に興味あり

 フランスは、動こうとしないシャルトルに向かって言った。


「あの……、シャルトル、行きましょう?」


「……」


「どうしたんですか?」


「わたしは、あとで入ります」


 あ、傷と火傷のあとが、あるからかしら。

 でも、背中に怪我をしているし、ひとりじゃ服をぬぐのもつらそう……。


 ブールジュが部屋を出がけに、こちらを振り向いて言った。


「ちょっと、行かないの?」


 フランスは、ちょっと考えてから言った。


「あー……、わたしたち、あとで入るわ」


「あとで? ふうん。まあ、いいけど。それじゃ、先に行くね」


「うん」


 シャルトルが、申し訳なさそうに言う。


「フランス、あなたも先に入ってください」


「背中の傷が痛むでしょうし、お手伝いします。それとも……、お嫌でしたか?」


 シャルトルが、なんだか、居心地悪そうな、不安そうな顔をしながら言った。


「いえ、ただ……。ずっと、男としてすごしてきたので、女性と一緒にお風呂に入るなんて……。なんだか……罪深い気がして」


「……え?」


 思わぬ答えにフランスはぽかんとした。


 シャルトルは、ばつの悪そうな顔をしている。


 たしかに、今だって、男に見える服装をしている。

 でも、女なのに。


 フランスとシャルトルは、とりあえず、暖炉の火の近くであたたまりながら、女たちが出てくるのを待つことにした。


「シャルトルは、いつから男の恰好をしているんです?」


「幼いころから、ずっとです。聖女の子が女だという記録が残っているんですよ。なので、母は隠れて住むようになってから、ずっとわたしのことを男として育てていたんです」


「そうだったんですね」


「最初は、わたしも自分のことを男だと思っていました」


 そっか、そこまで男として育つと、女性と一緒に風呂に入るのは、罪深い感じにもなるかしら。


「いつ、自分が女だと知ったんですか?」


「幼馴染の彼の、裸を見る機会があって、なんだかちがうなって」


「ああ」


 あきらかに、ちがうものね。

 お股の様子が。


「おさないころ、それを母に聞いたら、けっして自分の裸を見せてはいけないし、今疑問に思ったことを口にしてもいけないと言われました。もし約束をやぶったら、母とは一緒にいられなくなると厳しく言われて、とてもおそろしかったのを覚えています」


 シャルトルは、暖炉の火を見つめながら続けて言った。


「まるで自分が、人に知られてはいけない、怪物のようなものかもしれないと思って、なんだかこわかった」


「……」


「ある程度、物事がわかるようになったころ、母は、すべてを説明してくれました。子供のわたしに分かるように、ゆっくりと丁寧に、根気よく」


 まだおさない子供に、それを説明するのは、難しかっただろう。


 聖女の子であり、そのために、身を隠さねばならないことを、根気よく伝えた、母親の気持ちを思う。


 おそろしかったに違いない。


 子に、そうした生き方をさせることを、申し訳なく思っていたかもしれない。


 それでも、まっすぐに向き合って、シャルトルに伝えた。

 偽ることなく。


「すてきな、お母様ですね」


「ええ」


 シャルトルが、急に、くすっと笑って言った。


「修道士のときの自分に言ってやりたいです」


「なにをですか?」


「女性と一緒に、風呂に入る日が来るぞって」


 ふたりで笑う。


 シャルトルが、おかしそうな顔をフランスに向けて言う。


「だって、修道士ですよ? 禁欲のはてに、女性への憧れだけはとんでもなく強いですからね」


「そうなんですか? 修道士は、そんなのに興味は微塵もないんだと思っていました」


「まさか。知ってはいけないと言われると、余計に憧れは強くなるものです」


 意外~。


 まあ、でも、わかる。

 フランスも修道女だったが、いまだに、きれいな男の裸は、見たい。


 好奇心よね。


 でも、まさか、シャルトルが……?


「シャルトルも、そうなんですか?」


「そうですね。見るのは男の姿ばかりでしたし、自分以外の女性がどんな姿なのか、気になっていました。女性の裸に興味があります」


 なんとなく、今の。男の姿をしている状態で、そうはっきり言われると、罪深い話をしているような気になってしまう。


 でも、そうか。

 彼女は、修道士として長い時間をすごしてきたものね。


 女だと知っているのが、あの助祭と冬将軍だけなら、まわりに、おなじ女として過ごす者は、全くいなかったことになる。


 見たことないものって、見たくなるわよね。


 そうしてふたりでお喋りしていると、見習い聖女ちゃんが一番に帰ってきた。彼女は、暖炉のそばに走ってきて、なにかを暖炉の前でひろげるみたいにした。


 ヴラドだった。


 コウモリ姿の彼は、びしょぬれで、見るからにぐったりしている。


「えっ、まさか、ヴラドもお風呂に入れたの?」


 フランスが、おそるおそる聞くと、見習い聖女ちゃんが無邪気な顔で言った。


「はい。汚れていたので、しっかり洗っておりました。あとは、乾かせば完璧です」


 ヴラドが、弱弱しく消え入りそうな声でキィとひとつ鳴いた。


 これは……。


 女たちの風呂に、しらじらしくもついていったことを、しかるべきかもしれないけれど……。


 もう二度と、そんなことしたがらないくらい、打ちのめされているわね。見習い聖女ちゃんの勢い勝ちかしら。


 ヴラドが、見習い聖女ちゃんの手の中から、何度か逃げようともがくが、そのたびに見習い聖女ちゃんが、容赦なく首も身体もがっちりにぎりこむみたいにしていた。


「あら、暴れちゃダメですよ~」


 にこにこ優しそうな声で言う割に、にぎり方が容赦ない。


 ヴラドが、助けを求めるような目で、こちらを見ていた。


 女の風呂についていったむくいよ。

 しばらく、そうされてなさい。


 フランスは、にっこり言った。


「ヴラドのこと、お願いね」


「はい、フランスねえさま! 爪が伸びていますね、切ります?」


「まかせるわ」


 ヴラドが、おそれるようにキィキィ言った。


 そのうち、すべての女たちが戻って来た。

 さっぱりした様子のブールジュが言う。


「もう誰も残っていないわ。入っても大丈夫よ、おふたりさん」


 フランスは、シャルトルに向かって気楽に言った。


「では、行きましょうか」


「ええ」


 なんだか、今まで見たことのない不安な様子のシャルトルと目が合う。



 お背中、完璧に、流してみせます‼





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