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第248話 教国からの追手

 荒野をわたるイスラエル人は、こんな気分だったかしら。


 フランスは、もはや、体力も気力も使い果たし、馬に乗っていた。

 何度か休憩をはさんだが、一行はほとんど休むことなく移動し続けている。


 人も、馬も限界が近づいていそう。


 正午をすぎるまでは、良かった。

 イギリスの身体で、馬の姿になって、かけるのは、相当気分が良かった。


 だが、正午に自分の姿にもどってみると、夜明け前とは比べ物にならないほど、首も背中も腰も尻も、全部痛かった。


 すごい。


 奴隷になって、檻に入れられて、国境こえたときくらい、身体がしんどい。


 いや、あのときは、まだ子供だったから、今よりもマシだった気がする。

 あのときは、尻よりも、寒さとひもじさがすごかった。


 いまは、尻が、いちばんひどい。


 お尻、どっかにいってないわよね。

 もう感覚ない。


 そのとき、上空から二羽のタカがおりてきた。上空での見張りをしてくれている、イギリスとヴラドだ。


 片方のタカが姿を馬に変えて地上を走り、もう片方のタカが姿を人に変えて馬の上に器用に乗った。


 馬を走らせるフランスとシャルトルのとなりに、その馬と人が並ぶ。

 ヴラドが馬で、イギリスがその上に乗っている。


 すごい。

 そんな連係技できたんだ。


 イギリスが、馬を走らせながら言った。


「追手が見えた。西方大領主の紋章だ。かなり、早い。このままだと、追いつかれる」


 シャルトルが、後方に向かって大きな声で言う。


「追手がかかった! 国境までは、もうすぐだ! 全速力ではしれ!」


 その号令とともに、それぞれが馬をかけさせる。


 とたんに、馬のかける音が大きくなった。

 馬をはしらせるための荒々しい声が、そこかしこにひびく。


 フランスはもう、必死に、振り落とされないように、前にいるシャルトルにくっついて耐えた。


 尻も腕も限界のところに、これ!


 きつすぎる!

 国境、はやく来て‼


 しばらく走らせていると、後ろの方から声が上がった。


「追いつかれるぞ!」


 フランスは、必死にしがみつきながら、後方を見やった。


 すごい勢いで馬を走らせている一団が、後方にちいさく見えた。


 こっちは、馬一頭にふたりで乗っている者も多いうえに、長時間の移動で疲労している。


 これじゃ、追いつかれちゃうわ。


 となりを走っていた馬の姿のヴラドが、おおきくいなないた。


 イギリスとヴラドが、フランスとシャルトルが先頭を走る一団からはなれて、街道の外側へと大きく道をはずれる。


 イギリスが、さっとネコ仮面をかぶるのが見えた。


 どこへ行くのかしら。


 そう思った瞬間、ヴラドがイギリスをのせたまま竜の姿にかわり空に飛び上がった。


 フランスは叫んだ。


「ヴラド、殺しちゃだめよ! 怪我もさせないで!」


 ヴラドの竜の鳴き声が聞こえる。


 青い竜はその背にイギリスをのせたまま、街道の先の方へ飛んで行った。


 どうするつもりかしら。


 ヴラドは道の先のほうで、街道沿いにある大きな一本の木を、街道側に向かって、竜の身体をのしかからせて、押し倒すようにした。


 木が、無理にはじけるような大きな音や、めりめりと避けるような音が、あたりにひびく。


 先頭に近い、聖女たちが乗る馬がその横を走り抜ける。


 大きな青い竜に、揺らされて落ちて来た葉が、フランスの身体にあたった。

 濃い、緑の香りと、木を削ったようなさわやかな香りがした。


 通り抜けた後も、おそろしい音がひびき、地響きのような音がしたと思うと、あたりに、どお、と衝撃まで伝わりそうな激しい音が響く。


 うしろをふりむくと、土煙があがっていた。


 木を倒したのね。

 街道がふさがれたから、追手はこれ以上進んでは来られないかしら。


 シャルトルが後ろに向かって叫んだ。


「油断するな! 国境まで、走り抜け!」


 引き離したかのように思えたが、しばらくすると、西方の騎士たちは街道の外側を大きくまわりこむようにして近づいてきた。


 まずい。

 このままじゃ、囲まれそうね。


 青い竜が威嚇するように、急降下したりするが、西方の騎士団はひるまずにどんどんと近づいてきた。


 聖女を失ってたまるか、というかんじかしら。


 イギリスとヴラドも、怪我をさせないで追い払う、というのは難しいのかもしれない。青い竜の力も、赤い竜の魔法も、使ってしまえば、相手に大きな傷を与えることになるだろう。


 これは聖女の散歩だもの。

 怪我をさせずになんとか。


 なにか……、良い方法はないかしら。


 ハライタは近づかないと効かないし、この状態で近づくのは危険だものね。


 フランスは出発する前に確認した地図を思い出した。


 そういえば、国境の手前に、大きな川があったわよね。


「イギリス! ヴラド!」


 フランスが叫んで呼ぶと、ふたりはすぐさまタカの姿になってフランスの近くを飛ぶようにした。


「この近くに川がある? イギリスの力で、わたしたちだけ川を渡るようにできない?」


 赤い竜の力は、川をせきとめ、その流れを変えることができるはずだ。


 イギリスが、一声大きく鳴いて、街道から外れるようにして飛んだ。

 フランスは、揺れる馬の上で、必死に言った。


「シャルトル! あのタカについて行きましょう!」


 すぐさま、シャルトルが後方に叫ぶ。


「全員、あのタカを目印に走れ!」


 みんな一気に街道をはずれて走る。


 うわああ。

 ひどいいい。


 整備されていない道を走るのって、こんな感じなんだ。

 馬が、ときおりはねるようにして走る。


 フランスは放り出されないよう、必死にシャルトルにしがみついた。


 林の中を、勢いよく走る。


 こわい!

 こわすぎる!


 馬だって、こんなのいつ転ぶかわかんないわよ!


 そうして、フランスの腕が、もうしがみついているのも限界くらいになったころ、突如として林をぬけた。


 目の前に、川幅の広い川がある。


 間に合って!


 一行はその勢いのまま、川の中へと突っ込んだ。


 馬のいななき。

 聖女たちの叫び声。

 馬を御する声。


 一行は、川の中に入ると、急激に、その速度を失った。


 馬の背まで、水に沈むほど、深い川に、流されそうになる。


 このままじゃ、追い付かれるわ!


 後方の林から、西方の騎士団が走り出してくるのが見えた。



 急いで渡らないと‼





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 おまけ 他意はない聖書豆知識

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【荒野をわたるイスラエル人】

旧約聖書より。

エジプトから脱出したあと、文句しかなかった。




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