第247話 つかのまの休憩
フランスは、痛む腰をおさえながら、そこらの草地に座り込んだ。
聖女たちが集まっている場所だ。
夜明け前だった。
もう空はうっすらと、濃い夜の闇を抜け始めている。
「うう、腰が、おわってる」
フランスが、そう言うと、他の聖女たちも、げっそりして同じような反応を返した。
一番年かさの聖女は、もう、何も感じないみたいに無表情に言った。
「間違いなく、わたしが一番、きびしいわ。もう、夜じゅう起きて本を読む、みたいな体力すらないのに。馬に乗ったのなんて、何年ぶりか……」
見習いちゃんが、年かさの聖女の腰をさすった。
ガルタンプ大司教の遠縁の聖女も、なんだか吐きそうみたいな顔をしながら言う。
「聖女みたいな、室内活動主軸派に、これは、きついわ。もう、尻が、尻がなんか、しびれているのか、なんなのか、よくわかんない。尻がぼわぼわする。尻の存在感が希薄」
どんな状態。
と、思ったけれど、ちょっと分かるかもしれない。
ずっと馬に乗ったまま振動にさらされていて、尻がびりびりする。
そこに、けろっとした顔で、ブールジュとシャルトルが合流した。
見習い聖女ちゃんが、感心した様子で言う。
「シャルトルねえさまと、ブールジュねえさまは、平気そうですね」
シャルトルねえさま!
新しい!
永久保存‼
ブールジュが元気よく言った。
「これからは、聖女だって、ばりばり武闘派よ。わたしの騎士団が、なんでブールジュ騎士団って言うんだと思う?」
フランスは、崩壊しそうな腰に両手をあてたまま言った。
「あなたが運営する騎士団だからじゃないの?」
「ちがうわ。騎士団長がわたしなの」
「ええ⁉ ブールジュが騎士団長⁉」
大きい声を出したら、腰にひびいて、フランスは、さらに腰をしっかり両手でおさえた。
ブールジュは、全然疲れていなさそうな感じで言う。
「そう。まあ、強くはないんだけどね。でも、剣も乗馬も毎日、練習しているのよ。ほら。筋肉もりもり」
フランスは、ブールジュが差し出してきた力こぶを、さわらせてもらった。
かっちかちだった。
「ええ、すごい! かちかちだあ。かっこいい、ブールジュ」
え、ということは……。
シャルトルねえさまも?
想像して、ちょっと鼻息が荒くなる。
フランスが、シャルトルの腕をじーっと見ていると、シャルトルが笑顔で言った。
「わたしも、乗馬と剣術の鍛錬は欠かさないようにしているので、それなりに筋肉はあると思います」
フランスはシャルトルの腕をさわって、完全に舞い上がった。
かちかち~!
「シャルトルねえさま、かっこいい。大好き」
シャルトルが、フランスの腕にふれて言った。
「あなたの腕は、ずいぶんかわいらしいですね」
きゃっ。
フランスは、甘えて、となりに座ったシャルトルにくっついて、ぎゅっとされ待ちした。すぐに、優しく抱きしめられる。
見習い聖女ちゃんが、きゃーっと喜びながら、こっちを見ていた。
ブールジュが、目も当てられないほど、嫌そうな顔をしている。
ちょっと、シャルトルねえさまの破壊力で、尻と腰が回復したかもしれない。
ちょっとだけ。
そこに、小さなコウモリが飛んできた。
フランスのごく近くで、コウモリの姿が、人の男の姿になる。
もう聖女たちも見慣れたのか、特にさわがれもしなかった。
フランスは、男の姿を見上げて言った。
「ヴラド、おつかれさま」
「とりあえず、まだ追手はなさそうだ」
「ありがとう。ほんと、たすかるわ、ヴラド」
するとヴラドがフランスの腕をひっぱって、シャルトルから奪い取るみたいにした。
急激な動作に、腰が死ぬかと思った。
ぎゅっとされて、首筋のあたりの匂いをかがれる。
いつものやつね。
フランスは、腰に響かないよう、ぎゅっと耐えて言った。
「ヴラド、それって、回復するの?」
「する」
「ふうん」
じゃあ、しょうがないか。
そうやって、休憩時間を過ごしていると、イギリスがもどってきた。
赤い竜が何か、大きな包みを持っている。
赤い竜は、大きな包みを地上にそうっと置いてから、姿を人に変えた。
「おかえりなさい、イギリス」
「ただいま、フランス」
「それは、なに?」
イギリスが包みをひろげると、そこには、たくさんのパンと飲み物があった。
聖女たちが、きゃーっと嬉しそうにする。
ブールジュも嬉しそうに言った。
「食べ物! 国境をこえるまでは、食べられないんじゃないかと思っていたわ!」
シャルトルも、同じように嬉しそうな声で言った。
「一応、携行食は、持ってきましたが、これはありがたいですね」
イギリスが、ブールジュとシャルトルに、パンを手渡しながら言った。
「今日は一日中、走ることになるだろう。今のうちに、食べておいたほうがいい。時間がたつほど、追手に追いつかれる可能性も高くなる」
みんなにパンと飲み物がゆきわたり、まさにフランスが口を大きく開けて、パンにかぶりつこうとしたその瞬間、目の前があやしくとけるようになった。
夜明けだ。
おしい!
もうちょっとでパン食べられたのに。
目の前に、姿が入れかわって、聖女フランスの姿をしたイギリスがいる。
イギリスが、パンを持っていた手をおろして、悲しい顔をして言った。
「尻が痛い……」
フランスは、かわいそうになって言った。
「慣れない馬に乗り続けたからね……」
イギリスが、すっかりしょげかえった様子で、次々文句を言う。
「腰も痛い」
「背中も痛い」
「肩が凝った」
「首も痛い」
「手足が冷える」
「全部、だるい」
フランスとヴラドとシャルトルの三人がかりで、イギリスの手をあたためたり、身体をさすったりすることになった。
かわいそうに。
これじゃ、パンを食べるのもつらそうね。
ヴラドが、隙あり、とばかりに、聖女フランスの姿をしたイギリスにだきついて、匂いをかぐみたいにしたが、もはやイギリスはそれにすら抵抗しなかった。
イギリスがぼやく。
「風呂に入って、ベッドで寝たい」
わかる~。




