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第246話 国境へ!

 フランスは、ヴォーバン夫人に「はい」と何かを手渡された。


 まるっこい石だった。


 なにこれ。


 フランスが、ヴォーバン夫人を見つめると、彼女は不敵に笑って言った。


「三回、はねたら、いいことがある」


 石投げね。

 なつかしい。


 あの、東側の領主が主催した舞踏会で、イギリスと三人、へたくそな石投げをしたことを思い出す。


「あなたからどうぞ」


 ヴォーバン夫人にそう言われて、フランスはおだやかな流れの川に石を放った。


 二回、はねる。


 まあ、そうよね。

 前もそうだったもの。


 フランスが、肩をおとすと、ヴォーバン夫人が横に並んで立った。


「相変わらず、へたくそね」


 ヴォーバン夫人はそう言って、フランスの隣で石をなげる。


 石が、はねた。


 一回。

 二回。

 三回。


 どんどんはねて、ぽちゃんと川に消えた。


「七回⁉ すごい!」


「練習したの」


 フランスは、得意げに言うヴォーバン夫人を、まじまじと見た。


 練習したんだ。

 かわいいわね。


 ヴォーバン夫人が、フランスに向かって言う。


「あなたがわたしに言ったのよ。『変えようと思えば、変えられる』って」


「言いましたっけ?」


「言ってたわよ! 悪いことがあっても、良いこともあるって言ったでしょ」


「それは……、言った気がします」


 ヴォーバン夫人が、ヴォーバン老元帥に視線をやりながら言う。


「悪いことがあっても、良いことはあったわ」


 その表情は、以前、舞踏会で見た、かたい表情とはうってかわって、やわらかい。

 表情だけでなく、声まで。


 ヴォーバン夫人は、やわらかな声で言った。


「それに、気持ちも、関係も、わたし自信が変われば、まわりも変わった。いまなら、あなたのおせっかいにこう言える」


 ヴォーバン夫人が、まっすぐにフランスを見て言った。


「ありがとう」


 あんまりまっすぐな気持ちに、まぶたが熱くなる。


「なんで、こんなところで泣かせるのよ」


 ヴォーバン夫人がフランスの顔を見て「ぶす」と言って笑ったあと、ヴォーバン老元帥の正面に立ち言った。


「しばらく、わたしだけを見てくださいますか?」


「いまも、きみのことしか見ていないのに?」


「ええ、聖女たちがさわがしく、夜道をゆくのも、見とがめられないほど、わたしだけを見て欲しいです」


「きみの、のぞむままに」



 月明かりの下、橋の上で、それはまるでロマンチックな一幕に見える。



 ヴォーバン老元帥が、シャルトルに向かって言った。


「街道をお行きください。わたくしは、しばらく何も見えなくなるようですので、妻以外」


「ヴォーバン、ありがとう」


「シャルトル教皇聖下、あなたは実に立派な仕事をなさいました。お元気で」


 ヴォーバン老元帥とヴォーバン夫人がそろって、最大の礼をつくした。


 そうしたあと、ヴォーバン老元帥はフランスにやさしい微笑みを向けて言った。


「フランス聖女様、我が領地はいつでもあなたを歓迎いたします。妻の、大切なともだちですから。帝国との国境は、あなたのためにいつでもひらいています」


 ヴォーバン夫人が、フランスに笑顔を向けて言う。


「帝国に行っちゃうんでしょ? 手紙、よこしなさいよ」


「もう、ぶすは卒業?」


「いや、それは、まだ」


 ふたりでわらう。


 お互いに手を振りあって、別々の道を行く。


 戻る道すがらも、ヴォーバン老元帥とヴォーバン夫人は、仲良く話しているように見えた。


 ヴォーバン夫人の道が、あたたかそうで良かった。

 とっても、嬉しい。


 フランスたちは、その後、ヴォーバン老元帥の領地にある街道を、ひたすらに帝国へ向けて進むことになった。


 イギリスが、フランスをりんごちゃんのうえにのせながら言った。


「きみの功績だな」


「五番目の娘ちゃんのこと?」


「ああ、あの日いじめていたからだろ?」


「あなたのおかげでもあるわ。あなたが石投げ頑張ったおかげかも」


 あの、楽しかった舞踏会が、なつかしいわね。


 フランスが、先にりんごちゃんに乗っていたシャルトルの背にくっつくと、イギリスが言った。


「わたしは、ひとあし先に国境へ向かう。きみたち一行が、国境を抜けられるように手配をしておく」


 シャルトルが笑顔で言った。


「感謝いたします、イギリス陛下」


 イギリスは、フランスとシャルトル両方に視線をやって言った。


「夜明けまでにはもどる」


「気をつけてね、イギリス」


 イギリスが、フランスの肩の上で、のんびりしているヴラドをひっつかんで、地面にぽいっとやった。


 ヴラドが人の姿にもどって、嫌そうな顔をイギリスに向けて言う。


「なにする、竜もどき」


「ヴラド、もう寝るなよ」


「なんだ、おれにフランスの安全をあずけるつもりか」


「頼んだぞ」


「……なんだよ。わかったよ、イギリス」


 なんだかんだ、やっぱり、仲いいわよね、このふたり。


 イギリスは赤い竜の姿で、あっというまに飛び去った。

 フランスは、その様子を見上げているヴラドに向かって言った。


「ヴラド、寝なくても大丈夫そう?」


「そんなに、ずっと寝てばっかりみたいに言うな」


 寝てばっかりじゃない。


 ヴラドが、だるそうに言う。


「二百年分の寝不足を、解消中なんだよ」


「それじゃ、しょうがないわね」


「おれが上から、追手が来ていないか確認しといてやる」


「すごい! ヴラド! 頼りになる!」


「そうだろ」


 頼りになる顔で、にやっと笑った後、ヴラドは竜の姿で空に飛び上がった。青みがかった身体は、夜の闇にとけるみたいに、よく見えなくなる。


 シャルトルが、準備の整った一行に向けて言った。


「中央の町にいた騎士たちは、朝まで目覚めないだろう。夜明けまで、一気に国境に向けて移動する」


 月明かりがあるとはいえ、夜の街道を進むのは、なかなか神経をつかうようだった。


 馬を全力でかけさせるわけにもいかない。


 それに、国境まではそれなりの距離がある。馬を、走らせつづけることもできないのだろう。一行は、追手を気にしつつも、夜道を慎重に進んでいった。


 闇の中に、馬の足音がひびく。




 長時間の移動に、段々、きつくなってくる。


 まずい。


 尻がいたい。

 腰もいたい……。


 これもしかして、夜明けにイギリスと入れかわったら、イギリスがしなしなになってしまうのでは……。


 急ぐ馬の上で、喋りづらいが、一応言っておく。


「あの、シャルトル……」


「はい」


「夜明けに、わたしとイギリスが入れかわります」


「夜明けからなんですね」


「はい。夜明けに入れかわって、正午にもとに戻ります」


「なるほど」


「イギリスがこの身体になったときに、今のわたしよりさらに……」


「さらに?」


「あの……、疲れやすかったり、動きがにぶくなったりすると思うので、気をつけてあげてほしいんです」


「わかりました。気をつけるようにします」



 追手のこわさより、今は尻と腰がどうなるかがこわいわ……。





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