表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

245/265

第245話 ヴォーバン夫人

 フランスは、りんごちゃんの背にシャルトルとふたりでまたがり、ヴォーバン老元帥の指定した場所に向かった。


 フランスたちがいる丘と、ヴォーバン老元帥の居城がある星型要塞の間にある、橋が指定の場所だった。ふるくて美しい石造りの立派な橋が、川にかかっている。


 フランスとシャルトルがそこに向かうと、すでに橋の上に、二頭の馬がいた。


 それぞれに人が乗っている。


 ひとりは男で、もう一人はかなり小柄だった。

 女かもしれない。


 フランスとシャルトルが橋に近づくと、頭巾を目深にかぶったふたりの人物は馬からおりた。


 フランスとシャルトルも馬をおりる。


 石造りの橋の上を、お互いに近づく。

 川のせせらぎの音がした。


 お互いに、剣は届かないだろうという距離感で、立ち止まった。


 背の高い男のほうが、頭巾をおろす。


 わ。


 えっ。

 うそうそ。


 これが、もしかして……。


 シャルトルがにっこりと言う。


「こんばんわ、ヴォーバン」


「シャルトル聖下に、ご挨拶申し上げます。いや、シャルトル聖女様と言うべきでしょうか」


「いいえ、もはや、わたしにはどちらの職位もふさわしくはありません。ただの、シャルトルです」


「ふむ」


 まってえ。

 やっぱり、この方がヴォーバン老元帥様なのね。


 老元帥と呼ばれるほどだ。たしかに、お年を召している。


 いるけれど、これは……。


 あまりに美男!

 超絶美男‼


 すごい。

 すごすぎる。

 今まで、年若い美男はいくらか見てきたけれど、これは迫力が違うわ。


 人って、こんなに年を重ねても、美男でいられるんだ。


 やだ、なんか、目覚めちゃいそう。


 フランスは、ヴォーバン老元帥に視線を向けられ、はっとして挨拶をした。


「ヴォーバン様、聖女をつとめております、フランスと申します」


「そう……、あなたが聖女フランス様ですか」


 にっこりと微笑まれて、ちょっとくらくらする。


 かっこいい。


 ヴォーバン老元帥が、シャルトルに目を向けて言った。


「わたくしは、この教国自体に、忠誠を誓っております」


「ええ、あなたは、ずっとそうでした」


「いかなるときも中立をたもつのが、わたくしの信念。ですが、今回のことは、中立をたもつなかでも、非常に難しい問題です」


「……」


「シャルトル聖下、今夜だけは、まだそう呼ばせていただきましょう。あなたは、教国のために尽くされました。心情としては、あなたに協力したくもある。だが、あなたを国外へ逃がすことは、この教国にとって良いことなのかどうか……」


 大罪人を逃し、聖女の力をひとつ失わせる行為だものね。


 教国を思えばこそ、納得できない行為かもしれない。


 フランスは礼を尽くして言った。


「ヴォーバン様、どうか、お願いいたします。シャルトルを……、シャルトル聖女をこの教国から逃がしたいというのは、すべての聖女の願いでもあります。わたくしたちは、第一番の聖女を幽閉し、一部の権力者の道具とすることを、のぞみません」


 ヴォーバン老元帥が、うなずいて言う。


「まあ、そうなれば、聖女のあり方は、いままで以上にこの教国でゆがんだものとなるでしょうな」


「では」


「それでは、妻の意見を聞いてみましょう」


 妻?


 ヴォーバン老元帥のとなりにいる小柄な人物が、一歩前に出た。


 ヴォーバン様の奥様だったのね。


 小柄なヴォーバン夫人が、フランスの目の前に立つ。

 彼女は優雅な所作で、そっと頭巾をおろした。


 フランスは思わず叫んだ。


「あッ‼」


 ヴォーバン夫人が、不敵な笑顔をフランスに向けて言った。


「ひさしぶりね、ぶす」


 東側の領主の、五番目の娘ちゃん⁉


 ヴォーバンって、そっか、どこかで聞いたことあると思ったのよね!

 五番目の娘ちゃんの、嫁ぎ先じゃない!


 フランスは、久しぶりの再会に嬉しくなって、笑顔で言った。


「ぶすっていうほうが、ぶす」


 おたがいに「うるさいわね」と言い合って、笑う。


 五番目の娘ちゃんが両手をひろげたので、フランスは勢いよく抱きついて、ぎゅっとやった。


「本当に、お久しぶりです! 手紙ではやりとりしていましたけど!」


「あなたってば、相変わらず、お騒がせ聖女しているのね。こんな夜遅くに、馬でかけてくるなんて」


 ふたりで笑い合う。


 五番目の娘ちゃん、いや、ヴォーバン夫人は、以前よりもぐっと大人びていた。

 それに……。


「なんだか……、綺麗になりましたね」


 フランスがそう言うと、ヴォーバン夫人が、いたずらっぽく愛らしい笑顔を、ちらりとヴォーバン老元帥に向けて言った。


「素敵な、旦那様がいるから」


 ヴォーバン老元帥が、嬉しそうな、優しそうな微笑みを、ヴォーバン夫人に向ける。


 うわあ。

 手紙で知っているけれど、ラブラブなんだ。


 のろけ手紙の内容も、この様子じゃ想像がつくわ。


 最高ね。


 フランスがふたりを交互に見やると、ヴォーバン老元帥がちょっと困ったように笑って言った。


「お互いに望んだ婚姻ではありませんでしたが、お恥ずかしいことに、この年で妻に恋してしまいまして」


 きゃー!

 素敵!


 フランスが、おさえきれないニヤつきをヴォーバン夫人に向けると、夫人はちょっと恥ずかしそうに、でも嬉しそうにした。


 ヴォーバン老元帥が、ヴォーバン夫人に向かって言う。


「きみは、どうするのが良いと思う?」


「そうね……」


 お願い!

 ヴォーバン夫人様‼



 なんとか、国境まで通してください!






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ