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第244話 シャルトルのともだち

「彼は、わたしのことを手籠めにしようとしたんですよ」


「えっ」


 シャルトルのとんでもない発言に、フランスは思わず冬将軍を見た。


 あの冷たい顔で、女に興味なんか微塵もなさそうな、あの冬将軍が……?

 修道騎士代表です、みたいな様子なのに?


 フランスが、不審な目を向けると、冬将軍が、おおきなため息をついて言った。


「勘違いするな。本当のことじゃない」


 シャルトルが、いじわるそうな顔で言った。


「本当のことですよ。ずっと犬猿の仲で、いやがるわたしに何度もつっかかってきたあげく、馬鹿力でわたしのことを気絶させたんです。修道士のころです」


 修道士のころ。


 たしか中央の修道院にずっといたはずね。

 そのころからの仲なんだわ。


 冬将軍が嫌そうに言う。


「それは、男だと思っていたから……」


「で、起きたら、どうなっていたと思います?」


 シャルトルの問いに、フランスは首をかしげた。


「どうなっていたんですか?」


「脱がされていました」


「ええ……」


 フランスが、非難する目で冬将軍を見ると、彼はうんざりした顔で言った。


「それはたんに……、怪我を確認しようとして……」


「胸にきつくまいている布までとって中をあらためたんですから、言い訳のしようもないですよねえ?」


「それは、言い訳のしようもないですね」


 シャルトルとフランスが結託して非難の目を向けると、よこで見ていた助祭が苦笑しながら言った。


「まちがいない。一生、言われることになる」


 冬将軍が、うんざりと天を仰ぐようにして言った。


「だろうな……」


 そっか、三人とも、修道士時代を、一緒に過ごしていたともだちなのね。


 仲がよさそう。

 素敵ね。


 永久保存‼


 冬将軍が、シャルトルをにらむみたいにして言った。


「一生そうやって、からかっていいから、もうひとりで死のうとするな」


 シャルトルがやれやれと苦笑して言った。


「しばらく、ふたりともゆるしてくれなさそうです」


 冬将軍と助祭がそのあたりを片づけている間、フランスはシャルトルと二人で話した。


「シャルトル、あなたの側に、気を許せるひとがいて、良かったです」


「あなたも、数少ない、安らげる人です。それに、あのふたりとちがって、わたしとおなじ女ですし」


 なんとなく嬉しくなって、くっつく。


 おなじ女で良かった。

 遠慮なく、くっつけるし。


 女と知ってから、好きの気持ちは減るどころか、増した。


 もうぜったい、何があろうと砕けることがないほど、この好きは完璧よ!


「ねえ、フランス」


「はい」


「わたしたち、おともだちになれますか? 女の、ともだちです」


「なりまーーーーす‼」


「じゃあ、これからは、おともだちとして気楽にお話できますね」


「お話しまーーーす‼」


 ふたりで、さらにくっつく。


 シャルトルが、からかうような顔で言った。


「イギリス陛下の、どこが好きなんですか?」


「ええええぇぇえええ?」


 急な恋バナに困惑するが、シャルトルはなんだかわくわくした顔で待ち構えている。


 そっか……、ミディおばあちゃんが報告していたんだから、聖女フランスと皇帝イギリスがどんな様子で教会で過ごしているかも、つつぬけよね。


 イギリスのこと好きなのも、ばればれなんだ。

 なんだか恥ずかしい。


 他にも、恥ずかしいことしていなかったわよね?


 フランスは、考えながら答えた。


「うーん……、ほっとけない感じのところ?」


「ははあ、たしかに、不幸背負ってそうな雰囲気がありますよね」


「あと、かわいいところ」


「それは、想像がつかないです」


 シャルトルが、フランスの顔をのぞきこんで、楽しそうに言う。


「でも、見た目はわたしのことが一番好きですよね?」


「はい、好きです。一番、好きです。世界で一番、大好きです。愛してます」


 世界で一番、ゆるぎない、堂々一位で、一生大好きです!


 シャルトルが、フランスの背に手をまわして、引き寄せるように抱きしめながら言った。


「わたしは、あなたが一番かわいい。世界で一番」


 フランスは、シャルトルブルーの瞳を見つめて、固まった。


 だめだ……。

 このままでは、心臓がもたない気がする。


 天に……、召されそう。


 天の……御国の……門が見える……。


 シャルトルが、魅惑的なシャルトルブルーの瞳を、まっすぐフランスに向けて言う。


「男の姿ばっかりしていたら、すこし心も男のようになるんでしょうか。わたしは、フランス、あなたが本当にかわいくて。イギリス陛下に、わたしたくないほどです」


 シャルトルブルーの瞳に、にっこりと微笑まれて、そう囁かれる。


 もう、だめだッ‼

 ひ、光あれーーーーッ‼


「でも、わたしたちは、女どうし、おともだちですし、わたしのフランス、だなんて言ってはいけませんよね?」


 フランスは、真剣に、はっきりと、答えた。


「フランスは、シャルトルのものです」


「わたしのフランス」


「はい」


 ふたりで、抱き合ったまま、にっこりやる。


 もう、これで、人生に悔いはないわ。


 シャルトルが、くすくす笑いながら言う。


「おぼえていますか、ブールジュ聖女の就任式典で、あなたのことをイギリス陛下ととりあったことがあったのを」


 フランスは、思い出して笑った。


 シャルトルと、イギリスが、ふたりでフランスに向かって手を振ってきた、あの日が、はっきりと思い出された。


「ありました。あなたが、肩に怪我をして熱を出した時のことですね」


「ええ。あんまりイギリス陛下があなたにべったりなので、引き離してやろうと思ったんです。嫉妬してしまいました。あなたを、とられたくなくて」


 ちょっと、もう、鼻血出そう……。

 大丈夫かな、こんなに幸せで。


 ハレルヤ~。


「フランス」


「はい」


「大好きです」


「……」


 あまりの衝撃に息をするのも忘れた。


「フランス、あなたに、好きと言われるのが、とても嬉しくて。言ってくださいますか」


「大好きですッ‼」


「大好き、フランス」


 いやーーーーーッ‼

 だいすきーーーーーーッッ‼


 永久保存!

 永久保存!

 永久保存ッ‼


 ひえええあああああああああ‼


 フランスとシャルトルが抱き合ったまま、好き好きやっていると、そこに助祭がやってきた。彼の手には、手紙がある。


「ヴォ―ヴァン老元帥から、手紙が届きました」


 シャルトルが、それを受け取り、中身を読む。

 読みながら、すこし眉をしかめたあと、フランスを見た。


 フランスは心配になって聞いた。


「よくない内容ですか?」


「いいえ、内容としては、悪くありません。直接、話がしたいという内容です」


 フランスはほっとした。


「ですが、ヴォーバン老元帥との話に、ふたりだけで来るようにとあります」


 フランスは、首をかしげて聞いた。


「ふたり?」


「ええ。わたしと、フランス、あなたのふたりで」


「わたし⁉」



 なぜ⁉





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