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第238話 戦闘集団、聖女

 フランスは、完全にキレた顔でおらついているブールジュに向かって言った。


「ブールジュ、一体何するつもりなの?」


「今シャルトルを守っている騎士団ごと、第一番の聖女を国外に逃がすわ」


「騎士団ごと逃がすってどこに……」


 そこまで言ってから、ここにいるひとりの人物のことに思い当った。


 聖女の顔がすべて、ゆっくりとイギリスに向けられた。


 あ、それで?

 それで、イギリスのことも連れて来てほしいって言っていたの?


 フランスは、戸惑いつつ言った。


「イギリスが手出しするのは、問題外よ。帝国と教国の戦争になるわ」


 ブールジュは、あっけらかんと言う。


「そうよね」


「そ、そうよね?」


「ま、正直なところ、陛下を呼び出して、どう話をつけるのか、わたしは知らないの」


「どういうこと?」


「わたしは、そういう小難しいことを考えるのは得意じゃない。だから、小難しいことを考えるのは、得意なやつにまかせるわ」


「誰に?」


 ブールジュがしれっと言った。


「シャルトルよ」


「なんですって⁉」


「実は、処刑の日からわたし中央にいるの」


 ブールジュが、やれやれとため息をつきながら言う。


「処刑見ようと思って来たら、なんか、すごいことになったから、この倉庫買って根城にしているの。シャルトルが大聖堂に立てこもってから、こっそり手紙のやりとりしてる」


 いつのまに。

 行動力と、人を動かす能力がすさまじすぎる。


 しかも、処刑をわざわざ見に来ていたんだ。


 ブールジュが、聖女たちを見て言った。


「このまま、シャルトルが一生幽閉されるのをゆるせば、聖女は変わらず、権力者にとっての都合の良い女になる。だから、わたしがこの円卓会議で、みんなに聞きたかったのは、これよ。協力して、シャルトルを国外に逃がさない?」


 聖女たちはみな、うなずいた。


 ブールジュは、次にイギリスに顔を向けて言った。


「陛下、こちらの最終的な要望は、帝国側に、シャルトル聖女とその騎士団を亡命させてほしいということです」


「それは容認できない」


 イギリスの冷静な回答に、ブールジュはひるむことなくうなずいて微笑み、つづけて言った。


「どうか、シャルトル聖女と、直接話す時間をもっていただけないでしょうか? わたしからお願いできるのは、この一点のみです。彼女は、あなたと話がしたいと言っていました。何か、交渉材料があると思います」


 イギリスは、淡々とブールジュに向かって確認するように言った。


「第一番の聖女の力を、帝国に明け渡すことになるが、いいのか?」


「シャルトル聖女は、陛下がそう言うだろうと言っていました。それも含めて、彼女から話すとのことです」


「……いいだろう。話を聞こう」


「陛下、感謝いたします」


 ブールジュが礼を尽くしたのを見て、他の聖女もフランスも同じように、礼をつくして言った。


「感謝いたします」


 ブールジュが、明るい顔で言った。


「よおし! じゃあ、行きますかぁ」


 フランスは、冷静に言った。


「待って、でも、今の中央の大聖堂って」


「うん、東西の騎士団に包囲されているわ。にらみ合いの真っ最中よ」


「どうやって、そこまでいくの? ブールジュ騎士団はいるけれど、東西の連合と比べたら、ずいぶん少ないでしょ?」


「あんた、一言で百人倒せるでしょ?」



 あ、やっぱり、聖女の力で殴るんだ。



 フランスは、一応聞いた。


「もしかして、聖女全員で、東西の連合ぶっ倒して、大聖堂まで行くぞ、ってこと?」


 ブールジュが、こぶしを見せて、楽しそうに言った。


「そうよ、ばんばん倒して行きましょ!」


 とんでもない!

 もはや、聖女の秘密の力とか、ド無視で行くつもりなんだ。


 なんか、わくわくしてきちゃった。


 正直なところ、この力を無茶苦茶に使ってみたいなって、ちょっと思っていたのよね。いや、悪いことには使いたくないけれど。


 あ、でも……。


 フランスは、聖女たちの顔を見ながら言った。


「これは、聖女による反乱とみなされてもおかしくないわ。この罪が問われることになれば、あなたがたにも、あなたがたの大切な人にも、その罪がおよぶことになるかもしれない」


 フランスも、自分の教会の家族たちの顔を思い出した。


 自分一人なら、罪に問われたっていい。

 だが、守りたいものたちは、どうなるだろうか。


 聖女たちが、不安そうな顔になったのを、ブールジュが、堂々と言った。



「これは、反乱じゃない。女子会よ」



 聖女たちが全員、ぽかんとした顔をした。

 イギリスも、ぽかんとしている。



 フランスも、ぽかんとしながら聞いた。


「女子会?」


「そうよ。聖女子会」


「聖女子会⁉」


「そうそう。わたしたちは、仲良く女子会しているだけ。これから東西の騎士団を突破するけれど、武器なしで、相手に怪我もさせない。ちょっと夜のお散歩をするだけ。ぶつぶつ言いながらね。女子散歩よ」


「……」


「それに! 全員で散歩すればこわくない!」


 ブールジュの言葉に、みんな怪訝な表情をしながらも、耳をすませる。


「いい? ここにいるのは、家門も、後ろ盾のありどころも、全然ちがう、聖女たちよ。西に重きをおくものも、東に重きをおくものもいる。散歩しただけで全員を処罰できると思う? 東側は、西側のものだけ処罰したいでしょうね。西側は、逆に東側だけ処罰したがるでしょうよ。どちらにとっても聖女は貴重な存在よ。東西の聖女が同時に事を起こせば、うやむやになるわ」


 たしかに、ここには西側の権力者に近いものも、東側の権力者に近いものもいる。それらにまで罪がおよぶような動きは、考え難いかもしれない。


 ブールジュは西方大司教の親戚だし、東側でそれに対抗できるほどの権力を持つガルタンプ大司教の親戚もここにいるものね。


 おたがい、痛み分けで、うやむやにしそう。


 ブールジュが胸を張って言った。


「もちろん、わたしも、うやむやになるように、働きかけるわ。権力は、うまいこと使わないとね」


 なんだか、頼もしい表情だった。

 フランスも、他の聖女たちも、うなずき合う。


 一番年長の聖女が、落ち着いた声で言った。


「呪いの性質がつよい言葉の力は、聖女によって程度が違うわ。みんなどこまでできるか教えあわない? ちなみにわたしは、身体全体の動きまではしばれなかったわ。目を見えなくすることはできた」


 大体みんな似たようなものだった。


 ブールジュがフランスを見て言った。


「フランスだけ、えらく強いわね。手足を萎えさせる、なんてできたんだ?」


「うん。あと、これ、聖女教育では習わないけど、嫌なやつを痛い目に合わせるのに、あとあと見つけたの。これなら、全員使えると思う」


 フランスは『腹が痛む』をみんなに教えた。

 お互いに試してみると、全員が使えるようだった。


 ブールジュが、喜んで言った。


「これ、めっちゃいいじゃん。しかもしばらくしたら、おさまるんだ」


「そう。だから、ほっといても大丈夫」


「へ~、めちゃくちゃ良いこと聞いた~! いつのまにこんなの編み出してたのよ」


「他にもあるわよ」


 聖女たちが、きゃあきゃあと盛り上がって教えてくれというので、フランスは独自にあみだした技をおしえた。


 眠気に負ける。

 目が回る。

 吐き気をもよおす。


 あと、腹が痛むの上位は、腹を下すだが、これはとんでもないことになるので、おすすめしないことも言い添えておく。


 ブールジュが感心した様子で言った。


「フランス、あんたけっこうこの力使ってたんだ」


「えっ、みんな使ってないの? 近寄って来た嫌なやつとかに、使っていたのわたしだけ?」


 全員、使っていなかった。


 うっそ。

 言い訳させてほしい。

 本当にたまにしか使っていないと。


 イギリスが、ぼそっと「凶暴女」と言ったので、思いっきり殴っておいた。


 見習い聖女ちゃんが、首をかしげながら言った。


「でも、言葉で言ったら、相手に聖女の力の秘密がばれてしまいませんか?」


「こうやるのよ」


 フランスは、できるだけ早く、意味が通じないような謎の発音で言った。


「ハラーイタ!」


 みんなの腹が痛んだ。


 癒されたあと、ブールジュが驚いた顔で言った。


「略せるの⁉」


「そうなの。たまたま気づいちゃったのよ。嫌なやつが寄って来たときに、ばれないようにやっつける方法ないかなあって考えいてるときに、『ありがとうございます』が『あざす』になってる人を見かけたのよね。意味は通じているし、もしかして、と思って略してみたら、つかえたの」


 聖女たちがいっせいに「使える~!」と言って喜んだ。


 もっと、早くに聖女子会すれば良かったわね。


 ブールジュが、いよいよね、という感じで言った。


「じゃあ、あれしますか」


「あれ?」


「聖女教育でしか、やったことなくて、ずっとやってみたかったやつ」


 なんだろ。


「聖別の儀式!」



 聖女が全員「あ~!」と言って盛り上がった。






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