第237話 第一回聖女円卓会議
ブールジュが、円卓に手をついて、大きな声で言う。
「よおし! それじゃあ、今から、第一回聖女円卓会議をはじめます!」
フランスも、うかがうような表情をブールジュに向けたが、他の聖女も全員、同じような表情でブールジュを見つめていた。
何するつもりなの、ブールジュ。
ブールジュは、迷いのない顔で言った。
「今日、ここに来てもらったのは、聖女と、信頼できるものばかりよ。信頼できるものというのは、聖女の力の秘密をすでに知っている、それに足る人物ということ。ブールジュ騎士団はすべて、聖女の力についても承知しているから、気にせずに話してちょうだい」
ブールジュが一呼吸置いてから、つづける。
「いい? これは、円卓会議よ。この円卓の前に、上も下も、西も東も、関係ない。わたしたちは、ただ、聖女として、お互いに対等に意見を交わす。今回、みんなに無理を言って来てもらったのは、ひとつ相談して、意見をもらいたかったからよ」
ブールジュが、円卓をかこむ顔をぐるりと見回してから言った。
「第一番の聖女についてね」
みんなが、お互いの表情をうかがう。
ブールジュがその様子を見て、つづけて言った。
「もう、全員知っているでしょ。第一番の聖女があらわれた。いや……、あらわれたんじゃないわね。彼女はずっといた。一番目立つ場所にね」
そう、この国で最も目立つ場所にいた。
教皇の座に。
「今、東西のおえらがたの中では、この第一番の聖女のあつかいについて、色んな話がされているわ。結局のところ、シャルトルは教皇としては民をあざむいた罪を持っている。けれど、聖女としての罪は持っていない。その力が、ただしく彼女のもとにあるかぎり、聖女を罪に問う事はできない」
ブールジュが、声を落として、残念な様子で言った。
「だから、第一番の聖女を、一生、幽閉して、必要な時に、その力だけを使おうと考えている。それが……、東西の最終的な考え方よ」
一番年配の聖女が口をひらいた。
「そうなるだろうと、思っていたわ。結局、聖女は、教国にとって都合の良い女でしかない」
「そうよ。今まではそうだった」
ブールジュのするどい瞳が、聖女たちをみまわした。
「でも、シャルトルは変えようとした。わたしたちに、次々と権限を与えて、この口から、考えを言う場をつくった。それは、みんなも実感しているんじゃない?」
聖女たちが、うなずく。
ブールジュが、ゆっくりと言葉を刻むように言った。
「わたしは、聖女として、そういった聖女の不当なあつかいをゆるさない」
強い言葉だった。
ブールジュは、勢いよく円卓を叩いて言った。
「聖女は! 教国の権力者たちにとっての都合の良い存在じゃない! 主の愛とともにある存在よ! 子が間違ったことをしたら、暴れるのをおそれて、放っておくのが愛? わたしはそうはおもわない! この国のものが、もし間違った道をゆくのなら、叱って、尻をひっぱたいてでも、正しい道に連れ戻さなければならない! 正しい道は、愛の道よ! 第一番の聖女を幽閉して、その力だけを使おうとするのは、愛のあること? いいえ、そうじゃない! それを許すのなら、わたしたちも愛とともにあるとは言えない! わたしたちも、ともに罪ある者となる!」
フランスの教会に、難癖をつけにきたガルタンプ大司教の遠縁の聖女が、口をひらいた。
「わたしは、いまも、ほとんど、幽閉されているのと変わらない。権威ある者に、ただ使われて、望むことも望まぬことも、おのれの意志とは関係なく、ただ命令されるまま、すべてを行っている。……あなたたちと、いざこざを起こしたことも、そう」
遠縁の聖女は、ブールジュとフランスを見つめてから、しずかに言った。
「ここへ、来たことが知られたら、おそろしい罰があると思う。でも、ここへ来た。わたしは、あなたがたに聞いてみたかった。今までの、聖女のあつかいを、みんながゆるしているのかどうか」
遠縁の聖女は、ぐっと強い視線で言った。
「わたしは……、ゆるしたくない」
フランスも、その言葉にうなずき、つづけて言った。
「わたしは、ずっと聖女のあり方について疑問に思っていた。聖なる力が顕現したとき、あなたがたは喜んだ? だれか、ひとりでも、聖なる力を得て、よろこび、賛美した?」
しんとした。
だれも、答えなかった。
フランスは、みんなの表情を見ながら言った。
「本来なら、この力は、与えられれば賛美するべきものだと思う。でも、今この教国においては、この力が顕現するということは……、個人の自由を奪われることと、同じ意味を持つ」
どの聖女の顔も、同じだった。
耐えるような、その顔。
聖女は、生きる場所も、生き方も、選べない。
フランスは、強い気持ちで言った。
「聖女にも、道を選ぶ自由があってほしい。自由は……、じっと黙って待っていても、わたしたちのもとに与えられるものではないのかもしれない。声をあげなければ、この思いは、どこにも届かない。第一番の聖女は、その身を男と偽ってまで、教皇の座につき、わたしたちに意見を言う機会を与えた。今度は……、わたしが、声をあげたい」
フランスは、ブールジュと同じくらい、強い声で言った。
「聖女は、教国の一部の権力者にとっての、都合の良い女じゃない」
聖女たちが、みんな、うなずくようにした。
すると、ブールジュが急に、こわい声で叫んだ。
「それとぉッッ‼」
みんな、あまりのどでかい声に、びくっと肩をゆらした。
ブールジュが、がらの悪い感じで、怒りもあらわに言った。
「わたしは、常々思っていたのよ。わたしたちって、めちゃくちゃ殴る力がつよいのに、全然殴ってないわよね」
フランスも、ほかの聖女も、ブールジュのあまりに強い調子に、かたまったまま見守るしかなかった。
ブールジュが、腹の底からはいのぼるみたいな声で言った。
「第一番の聖女なんて、一度に千人殺せるのよ?」
とどめに、舌をまいて脅しつけるみたいにして言う。
「聖女のこと、あんまりなめたら痛い目見るぞって、言ってやりたくない?」
聖女的にタブーだと思うけれど、思ったことはある。
でも……、よく、それを、おおっぴらに言えるわね。
フランスが、どう反応するべきか分からず固まっていると、他の聖女たちも同じようにしていたが、聖女見習いちゃんだけが、なんだかわくわくした顔で言った。
「かっこいい!」
待って、この流れって、もしかして……。
ぶん殴ってやろうぜ、の流れ?




