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第236話 ブールジュの号令

 ブールジュ騎士団の者だと言う男は、フランスからの返事を待つと言って、その場にいた。


 フランスは急いで、届けられた手紙を見た。


 となりにいたイギリスが、しばらくして言う。


「悪い内容か?」


「いいえ。三日後に、中央の町はずれのとある場所に来て欲しいと書いてあるわ。大切な話があるから必ず来て欲しいと」


「ふむ」


「あなたのことも、連れてきてほしいと書いてある。あと、聖女の力についてただしく知る者だけを連れて来るようにですって」


「……」


 イギリスとふたりで顔を見合わせる。


 ブールジュったら、帝国の皇帝まで呼び出して何をするつもりかしら。

 それも聖女の力について知る者だけを集めるなんて。


 イギリスが、ブールジュ騎士団の男に向かって言った。


「手紙の内容を、フランスとイギリスは了承したと伝えてくれ」


「かしこまりました」


 不安で落ち着かない気持ちのまま、フランスはイギリスと教会の自分の部屋に戻った。


 フランスはベッドに腰かけて、ため息をつきながら、ヴラドの蝙蝠用のちいさなベッドをのぞきこんだ。ベッドのはしにかけられた小さなカゴのベッドで、蝙蝠がすやすやと眠っている。


 さっきフランスの血を飲んで、また眠ってしまった。


 ヴラドったら、いくらでも眠れちゃうのね。

 ずいぶん長い間、たしか二百年ほど、ほとんど眠っていなかったと言っていたから、反動かしら。


 安心して眠れるのは、良いことだけれど、ちょっと心配ね。


 ヴラドが眠る姿を見ながらも、つい考えるのはシャルトル教皇のことばかりだ。


 今夜は、あたたかくして眠れているだろうか。

 ご飯は食べられただろうか。

 つらい思いは、していないだろうか。


 イギリスがとなりに座って、なぐさめるように、フランスの肩をなでた。


「フランス、あまり気を詰めすぎるな。シャルトルのことは、大きく動けばすぐに報せがあるはずだ」


「そうよね」


 第一番の聖女であることが、守りになっていてほしい。


 裁判を進めていた者たちも、処刑が失敗した今となっては、このあとをどう進めるべきか、すぐに答えは出せないのかもしれない。





 ブールジュとの約束の日まで、中央の町に大きな動きはなかった。

 強力な指導者である教皇を失って、多くの機能が停止しているようだった。


 何度か、教皇直属の騎士団ともめた者たちもいたというが、それは、大きな勢力との衝突というものではなかったらしい。


 じりじりと、不安な気持ちをかかえたまま、ブールジュとの約束の日が来た。


 フランスは、またしてもアミアンとダラム卿に教会をまかせ、イギリスと、なぜかついてきたがったヴラドも連れて、中央の町に向かった。


 イギリスとダラム卿は、仕事を調整してか、この不安な日々を、ほとんど教会で過ごしてくれている。


 それが、フランスにとっては、何よりも心強かった。


 フランスは、イギリスとふたりで並んで、中央の町を歩いた。

 夕暮れ時の町は、なんだかひっそりとしている。


 活気がない。


 状況が状況なだけに、どうやら外出を控えるよう、通達が出ているらしい。


「報告で聞いた通りね。いつもの町の様子とは、ずいぶん違うわ」


 フランスの言葉にイギリスが答える。


「大聖堂に近い場所は、かなり物騒な状況になっているらしい」


「だから、こんな外れた場所に呼び出したのね」


 フランスとイギリスは、夕暮れの町のなかを、さびれたほうへ、さびれたほうへと進んだ。


「ほんとにこっち? なんだか怖い雰囲気ね」


 イギリスがひとつの古びた建物を指さして言った。


「あの、倉庫のような建物だな」


 いよいよね。

 一体、どんな話があるのかしら。


 フランスは、あまりに静かにしているヴラドが気になって、イギリスに聞いた。


「ねえ、ヴラド、ちゃんといる?」


「ああ、きみの頭巾の中で、寝ている」


「また、寝ているの? 寝不足コウモリちゃんね」


 イギリスが、古びた倉庫の扉をたたく。

 すぐに、ブールジュ騎士団の紋章をもつ騎士が出てきた。


 まあ。

 すてき。


 女騎士ね。


 女助祭が任命されるようになって以降、いままで女がつけなかった職に、少しずつ女がつけるようになった。かなり珍しいが、女騎士もそのひとつだ。


 立派な女騎士は、丁寧にフランスとイギリスを中へと案内してくれた。


 倉庫の中は、かなり大きいようだった。天井の高い、だだっぴろい空間に、ブールジュ騎士団の騎士たちが、けっこうな数いる。


 男の騎士のほうが多いが、一割ほどは女騎士かもしれない。


 まさに、今時ってかんじだわ。


 すると、ブールジュが笑顔で走ってきた。


「フランス!」


「ブールジュ!」


 ふたりで抱き合う。


 ブールジュはしっかりとフランスをぎゅっとやったあと、イギリスに向き直って、礼儀正しく言った。


「陛下、不躾なお願いに応じてくださって、ありがとうございます」


「かまわない」


 そしてすぐに、フランスに向き直り、眉をぎゅっとよせて言った。


「フランス、契約のこと聞いたわ。帝国に行くって」


「……うん」


 もう一度、ふたりで抱き合う。


 ブールジュが、フランスを強い力で抱きしめたまま言った。


「あんたは、教国を離れた方がいい。他の聖女たちは、東西どちらかに後ろ盾がある。でもあんたは……、シャルトルだけよ。このまま教国に残れば、どんなひどい扱いをされるか分からない」


 ふたりで見つめ合う。


 今までだって、そう会えたわけじゃない。

 でも、帝国に行ってしまえば、さらに会うことは難しくなる。


 それを考えると、ブールジュの顔をよく見ておかないと、という気持ちになった。


「気持ちだけで言うなら、行って欲しくないわ」


「ブールジュ……」


 ブールジュとふたり、気持ちをおちつけるように、手を握りあって立つ。


 イギリスが、フランスの肩に、なぐさめるように触れて言った。


「きみがのぞむなら、いつでも会いに行ける」


「連れて行ってくれるの?」


「ああ」


 イギリスの優しい言葉に、フランスが笑顔を向けると、ブールジュが半目で言った。


「ねえ、イチャついてる?」


「ちがうわ」


「ちがう」


 ブールジュがちいさく舌打ちした。


 ブールジュ!

 皇帝陛下がいるところで舌打ちしないで、お願いだから。


 ブールジュ騎士団の女騎士がひとり近くに来て、ブールジュに何事か耳打ちした。


「ついに、そろったみたい」


 ブールジュの言葉に、フランスは首をかしげて聞いた。


「他にも呼んだの?」


「呼んだわ。聖女、全員」


「えっ⁉ 全員って……、十一人?」


「そうよ、十一人目の子は、まだ聖女教育中だけどね」


「……何するつもり?」


「それは、みんなで話しましょ」


 ブールジュのあとについて倉庫の奥に進むと、そこにひとつの大きな円卓があり、それをかこむように、聖女たちがあつまっていた。


 みんな、それぞれに、式典などで顔を合わせるときとは、ずいぶん様子の違う、お忍びといった恰好だった。


 こうやって会うことってないから、なんだか新鮮な感じね。


 ブールジュとフランスが加わり、十一人の聖女がたがいの姿を確認するようにした。


 ブールジュが、机に手をついて、大きな声で言う。


「よおし! それじゃあ、今から、第一回聖女円卓会議をはじめます!」



 せ、聖女……円卓……会議?





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