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第230話 頼りになるのは小竜公さま!

 フランスはあわただしく、教会にある自分の持ち物を整理していた。


 たいして物はないと思っていたが、長年過ごしてきた教会には、意外にも物がたくさんある。処分するのにも、なかなか骨がおれそうだった。


 シャルトル教皇に指示された通り、彼との関わりをしめすものは、すべて燃やした。


 あの肖像画が仕込んである聖書だけは、イギリスにたくして帝国に持ち帰ってもらった。


 厳重に保管するように頼んで。


 イギリスは、嫌な顔をせず、帝国の城に持ち帰ってくれた。


 ありがとう、イギリス。

 一生感謝ものよ。


 そうして過ごしながら、フランスはずっと考えていた。


 まだ、なにか、自分にできることがあるかもしれない。

 でも、教会ですごす家族たちに、罪がおよぶようなことはできない。


 一体、どうやって、何をすれば、自分がのぞむ道になるのか。それは、おそろしくこんがらがっていた。



 あっという間に、シャルトル教皇と会った日から、一週間がすぎた。



 ずいぶんと物が少なくなった午後の執務室の扉を、せかすように叩き、入ってくるものがあった。


 教皇直属の騎士団の男だった。


 男は、きびきびと挨拶をし、部屋にフランスだけがいることを確認してから、ひとつのことを報告した。


 フランスが、何も返せずにいる間に、男は「我々は、聖女フランス様の安全をなによりも優先して確保するよう、命を受けております。今後も、中央での動きは、こちらから逐一報告させていただきます」そう言って、執務室を出ていった。


 フランスは、窓から入る午後の陽射しが、そこらを舞うほこりをキラキラと、価値あるもののようにきらめかせている姿を、ぼんやりと見ながら、ずきずきと痛み始めた頭で、考えた。


 ……。


 そうか。


 いまの騎士は……、何と言ったかしら。


 そう……。

 聖下が、拘束されたと。


 そっか。

 もう、あのことが明るみに出たのね。

 出生の秘密が……。


 でも、信じられない。

 この前まで、民からの人気もある教皇だったのに?


 拘束されて、すぐに?


 フランスは、両手で自分を抱きしめるみたいにして、両腕をぎゅっと握りしめた。


 しっかりするのよ。

 混乱している場合じゃない。


 あの騎士は、間違いなく言った。



 シャルトル教皇は、大罪人として、拘束され、……処刑が決まったと。



 処刑……。



 フランスは握っている自分のうでに、強く爪をたてた。


 いやだ。

 聖下。

 行ってしまわないで。


 まだ、何も、考えられていない。


 何か、方法を……。

 こっそりと、聖下を盗んで、どこかに隠すみたいな……。


 そのとき、執務室の窓を、ききなれた音で、こつこつとたたくものがあった。ちいさな色素の薄いコウモリが、窓のふちから、こちらをのぞきこんでいる。


 ヴラド……。


 ヴラド?


 そうか、ヴラドなら、帝国にも、教国にも関係ない。

 聖下を盗んで、アロンの墓に持って帰ってくれないかしら。


 ヴラドなら、青い竜の姿であらわれても問題ない。

 教会の上空で、赤い竜と戦った青い竜は、教国で『青い悪魔』と呼ばれている。教会を襲いに来た青い竜を、聖女の守護竜である赤い竜が退けた、という話になっている。


 本当のところは、喧嘩に負けたヴラドが、ショックを受けてそのまま飛んでアロンの墓に帰っちゃっただけなんだけど……。


 そのあと、迎えに行くまで引きこもっちゃって、大変だったな。


 聖下のこと、ヴラドに、頼んでみる?


 いや、でも、そんな大罪人を盗むみたいなこと、頼むなんて……。




「いいぞ」


「え? いいの⁉」


「そうしたら、フランスは嬉しいんだろ?」


「嬉しいわ。一生感謝をささげるほどよ」


「じゃあ、いいぞ」


 うっそ。

 そんな簡単に?


「ヴラド、わかってる? けっこうとんでもないことよ?」


「大罪人をさらったら、おれも罪人になるからか?」


「そうよ」


「それは、教国の罪だろ。おれは適応外」


 どういう理屈よ。


 え、いいんだ。

 じゃあ……。


「じゃあ、わたしは変装して、ついていって援護するわ。聖女の力で」


 ヴラドが、疑うような顔で言った。


「そんな攻撃みたいなことできるのか?」


 ヴラドは俗世間とはまったく無関係っぽいし、言ってもいいか。


「これは内緒だけど、百人ずつくらい、戦闘不能にできるわ」


「フランスって、戦士だったんだな」


「でも、顔がばれちゃまずいから、髪を男みたいに切って、仮面をかぶっていくとかかな?」


「髪を切っちまったら、あとでバレるから、かつらがいいんじゃないか?」


「ヴラド、天才なの? そうね、かつらを手に入れて、あとは仮面……、あ、イギリスが仮面舞踏会でつかっていたネコちゃんの仮面を借りたら、謎のネコちゃん仮面になれるわね」


 ヴラドが、なんだか楽しそうに言う。


「フランスが、竜の姿のおれの背にのってかっこよく登場。百人ずつ戦闘不能にして、目当ての人間を盗んで飛び去る。以上?」


「以上!」


「簡単そうだな」


「そ……、そうね。なんだか、今の感じだと、簡単な気がしてきたわ」


 ヴラドは、上機嫌に言った。


「よーし! おれは有意義な意見も提供した! ということで、さわっていいか」


「いいわ」


 ヴラドが、ゆるしてもらえると思わなかったのか、叫んだ。


「いいのか⁉」


「いいわ。今日だけね」


「へえ……。じゃあ、胸の間で寝たい」


「どうぞ」


 ヴラドはコウモリの姿で、うれしそうにキィキィ言いながら、フランスの服の中にもぐりこんでいった。


 さわる、とか言っていた割に、ちいさいコウモリは、フランスの胸の間にはさまったら、そこで落ち着いたのか、しずかーにしている。


 しばらくして中をのぞくと、気持ちよさそうに寝ていた。


 これを見たら、またイギリスが怒るだろうけど……。


 聖下を助けるために、小竜公さまが頼りよ!

 胸ベッドくらい!

 いくらでも提供するわ!


 フリー胸ベッドよ!


 フランスは、あごに手をやって考えた。


 イギリスにも、このことについて話しておかないとね。



 聖女の、本当の力についても、説明しておいたほうがよさそう……。





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