第222話 聖女の本当の力と、冷酷な聖下♡
「あなたがたの、手足は萎える!」
フランスがそう言ったあとの、騎士団の動きは早かった。
やっぱり、教皇直属の騎士団ともなると、聖女の力の秘密も知っているのね。
耳をふさいでいたものたちが、馬上にいる仲間の騎士を助けて、馬からおろす。アミアンも、走って行って同じようにした。
フランスはおろされた騎士たちに近づき、その耳元でささやくように言った。
「あなたは、癒された」
そうすると、彼らの萎えた手足は、すぐさま生気を取り戻したようになった。
そうこうしている間に、荒くれものの男たちは、自分の体を支えられず次々と馬から落ち、混乱しながらこの状況を罵倒しているようだった。
萎えた手足では、すこしも身動きはとれない。
まとめ役の騎士が、ひとりの騎士をさきに中央の町に向かって走らせた。馬がすごい速さでかけてゆく。
フランスは耳をふさげなかったすべての騎士に、癒しの言葉をあたえた。
騎士たちは、てきぱきと動いて、荒くれものの男たちをしばりあげ、一カ所にまとめていた。
事が落ち着きはじめると、急にフランスはおそろしくなって手が震えた。
アミアンがフランスをぎゅっと抱きしめて、フランスの手をあたためるようにさする。
そうして、しばらく、フランスが落ち着きを取り戻しはじめたころ、すごい数の騎士たちが、中央の町から馬を走らせてきた。
すべて、教皇直属の紋章を身につけている。
ものものしい数ね。
ひとり、見たことのある顔の騎士がいた。
教皇直属の騎士団のなかでも、最高位の位置にいる騎士団長の男だ。あまりに冷たい雰囲気から、冬将軍と呼ばれている。
わ、えらく大物が出てきちゃったのね。
冬将軍は、フランスに向かって、気づかう言葉もなにもなく、無表情に言った。
「聖女フランス様、聖下がお待ちです。お急ぎください」
「はい」
フランスはアミアンと馬車にのりこみ、これまでとは比べようもない数の護衛にかこまれて、中央の大聖堂に向かった。
大聖堂について馬車から降りても、フランスの側には冬将軍と何人もの護衛騎士がぴったりと守るようにして、シャルトル教皇の執務室までついてきた。
執務室に入ると、シャルトル教皇と、いつもの教皇付きの助祭がいた。
シャルトル教皇が、フランスに手を差し出し、険しい顔で言う。
「フランス、心配しました」
「聖下」
フランスはかけよって、シャルトル教皇の手を取った。
「怪我など、していないでしょうね?」
「はい。ございません」
シャルトル教皇が、おそろしい雰囲気の声で、冬将軍に向かって言った。
「とらえたのか?」
「はい。全員とらえて、地下に」
フランスは、手をぐいと引かれて、シャルトル教皇の瞳を見つめた。
「フランス、おそろしい思いをさせましたが、あなたも確認してください」
フランスは、シャルトル教皇に導かれるまま、執務室を出て見慣れない階段をおりた。冬将軍と何人かの護衛騎士も前後を守るようについてくる。
アミアンと聖下の幼馴染の助祭だけが、執務室に残された。
あんなことがあった後だから、アミアンと離れると、なんだか不安になっちゃうわ。
くらい階段をおりて、先に進むと、そこは牢屋だった。
大聖堂の地下ね。
はじめて入る。
さっき、フランスをさらいにきた男たちが、牢の中にころがっていた。みな手足が萎えて使えないから、起き上がることもできないようだった。口も塞がれていて、静かだった。
シャルトル教皇が、牢の前に立ち言う。
「フランス。この中に、どこかで見た顔がないか、よく確認してください」
フランスは、ひとりひとり、よく見てから言った。
「いいえ、知った顔はありません」
「そうですか」
シャルトル教皇は、奥にある牢に、フランスを導いた。
奥の牢にはひとりだけ、椅子にしばりつけられている男がいた。
荒くれものの男の中で、フランスに向かって話をしていた男だった。
シャルトル教皇が、冬将軍に向かって言う。
「この男が、頭か?」
「はい、この者が、まとめていたようです」
「では、この男以外は、すぐに殺せ」
「はっ」
すぐに、何人かの騎士たちが牢の扉をあけて中に入り、手足を動かせないものたちに、剣をつきたてた。
フランスは、ぞっとして目をそらした。
口を布で塞がれているから、男たちのくぐもったようなうめき声があたりに聞こえるだけで、しばらくすると、しんとした。
シャルトル教皇が、フランスにいつもと同じような微笑を向けて言った。
「では、フランス、この頭の男に癒しの力を」
「え」
「今の状態のまま、手足が萎えていては、痛みを与えられる部分が少ないですからね。拷問にかけるために、手足を癒してやってください」
フランスは、震える声で答えた。
「はい、聖下」
「あまり近寄りすぎないほうがいいでしょう。拘束されているとはいえ、おそろしいでしょうから。ここからでかまいません」
フランスはシャルトル教皇に手をにぎられたまま言った。
「あなたは……、癒された」
光が、むなしく心の内をなでる。
男の手足はみるみるうちに、生気をとりもどしたようだった。
シャルトル教皇が、フランスを抱き寄せて、なぐさめるように額にキスをした。
冬将軍が、冷たい声で言った。
「聖下、侍女と御者も、聖女フランス様の力を見ています。いかがいたしましょう」
フランスはぞっとした心もちで、シャルトルブルーの瞳を見つめた。
「そうですね。聖女の力の秘密を知る者を、多く残してはおけませんが……」
「あの、聖下……」
アミアンは、と言おうとするフランスの頬に、シャルトル教皇が手をそえて微笑み言った。
「あなたの侍女は、もともと知っていたのでしょう? 聖女教育のときにも側にいたものですね?」
フランスはさっきよりも震える声で、必死に言った。
「はい、姉妹同然の者です。けっして、聖女の力の秘密を、軽々しくも口にすることはありません」
シャルトル教皇は、すこし考えてから、にっこりとして言った。
「いいでしょう」
にっこりとしたまま、冬将軍に向かって言う。
「御者の男は、どういった男だ?」
「犯罪歴はありません。真面目な男のようです」
「では、口止め料をわたし、よく言い聞かせて帰らせろ。しばらく監視をつけておけ。もし他言するようなら殺せ」
フランスがおそろしい心地でいると、シャルトル教皇はいつものようにやさしげに、フランスを気づかうような表情で言った。
「今回は、帝国の騎士団があなたについていなくて、良かった」
始末しなければならないから——、そう聞こえた。
フランスは、ちらりと、手足が癒された男を見て言った。
「あの男は、どうなるのですか?」
「そうですね、とりあえずは、口をわらせたいところですが。ああいう手合いを使う者は、バレないために大金をはらって、自分とは全く関係のない者を使うのです。あの男が、黒幕を知っているとは到底思えませんが。一通り、聞いておくのもいいでしょう。なにか、飛び出ることもありますし」
シャルトル教皇は、声を落とさず、その男に聞こえるような声で言った。
「どうせ、ここから生きては出られません。早めに話して楽になるか、長い苦しみを味わうかです。聖女の力の秘密を知るよこしまな者は、生かしてはおけない」
シャルトルブルーの瞳が、残酷な微笑を浮かべて言う。
「聖女がもつ呪いの力を、身をもって知る者は、とくに」




