第219話 竜もどきと、竜もどき
フランスは教会の裏の空地で、馬に乗っていた。
よしよし、だいぶコツが分かってきた気がする。
足でぎゅっとはさめば結構安定するのね。
「イギリス、つかまるからちょっと走ってみてよ」
フランスは馬のたてがみをぎゅっと両手でにぎって、身を低くした。
馬がすこしずつ速くかける。
空地をぐるりと、ちょっとの間まわってから、馬がとまる。
やっぱり鞍がないほうが乗りやすいのよね。
なぜかしら。
竜の姿も、鞍をつくったけれど、結局ないほうが乗りやすいし。
不思議。
なにか不思議な力でも働いているのか、馬や竜の姿のイギリスの背にのるとき、鞍がない状態でのると、ぴったりとくっついて守られているような感覚があるし、風もさほど強くはかんじない。
赤い竜の不思議な力によるものなのだろうか。
「ね、次は竜の姿で、ちょっと飛んでみない?」
するとイギリスがすぐに馬の姿から、赤い竜の姿にかわる。
教会の上にとびあがると、教会の前の広場に大きな馬車がとまっているのが見えた。
美しい令嬢がエスコートされて、馬車に乗ろうとしている。
令嬢が、赤い竜のかげに気づいてか、こちらを見上げた。
アミアン、ステキなドレスで舞台をみにいくのね。
素敵に着飾っている令嬢は、アミアンだった。
アミアンが美しい笑顔をこちらにむけて、手をふった。エスコートしていた、立派な装いのダラム卿も、笑顔でこちらに手をふってくる。
フランスも竜の背から手をふり返した。
お泊まりデート、行ってらっしゃい!
フランスはたっぷりと竜騎士ごっこを楽しんだのち、食堂で夕食を食べてから部屋にもどった。
もうすっかり日も暮れてしまった。
今ごろは、アミアンとダラム卿は、お芝居を観ているかしら?
フランスと一緒に、ネコの姿で部屋にもどってきたイギリスは、そそくさと自分のネコ用のカゴベッドに入って、まるまった。どうやらこの小さなカゴベッドをそうとう気に入っているらしい。
フランスの着古した服を再利用して作ったクッションがしいてあるだけの、粗末なベッドなのだけれど。
すっかり、ネコ生活が板についているわよね。
イギリスは、教会ですごすとき、ほとんどネコの姿で生活している。
そのとき、窓に何かが当たる音がした。
フランスはすぐに窓をあけた。小さなコウモリがフランスを見上げている。
「ヴラド、そろそろ来ると思っていたわ。まさかほんとに今日来るとは思わなかったけれど」
アミアンに、ヴラドが来るかも、と言ったのは、とっさの思いつきだった。
アミアンとダラム卿にも、ふたりきりの時間が必要だもの。
フランスは、思わぬ都合の良い出来ごとに満足して言った。
「おかげで、わたしは嘘をつかなかったことになるわ」
ヴラドが、コウモリの姿のまま、フランスの胸元にとんできて、ぴとっとくっついた。胸の上にのっかるみたいにして、甘えたかんじでキィキィ言う。
相変わらず、かわいい子コウモリちゃんね。
すると、イギリスがネコから人の姿にかわって、かわいい子コウモリちゃんをわしづかみにして、床にたたきつけるみたいにほうった。
「あ、イギリス、乱暴しないで」
すると、ヴラドが人の姿になり、うしろからフランスに抱きついて言う。
「そうだぞ、乱暴するな、竜もどき」
「フランスにくっつくな、竜もどきはそっちだろ」
イギリスとヴラドが、お互いの胸倉をつかむみたいにする。
もう、また喧嘩ね。
フランスは、うんざりして言った。
「ちょっと、喧嘩するなら、コウモリの姿でして。そのおおきな男の姿で喧嘩して色々壊されちゃたまんないわ!」
イギリスとヴラドがコウモリの姿になって、キィキィ言いながら、床の上を転げまわって喧嘩する。
フランスはベッドに座って、その様子をやれやれと眺めた。
もういっそ、このふたりは喧嘩を楽しんでいそうよね。
毎回、ほんとよく飽きもせずに取っ組みあいの喧嘩して……。
なんなら、このふたりの喧嘩の理由に使われている気すらする。
ヴラドはフランスとふたりでいるときは、人の姿でフランスに抱きついたり触れたりはしない。コウモリの姿で甘えることはあっても、フランスが嫌がるようなことは決してしなかった。
ただ、イギリスが目の前にいると、人の姿でフランスにくっついてきたり、触れたりする。
イギリスも本気で怒っている様子でもないので、そのことを分かっていて、ヴラドの誘いにのっている感じだった。
お互いに全力で向かい合えるからかしら。
どちらも竜だものね。
しかも、どうやらほとんど同じくらい生きているらしい。ヴラドの話をよくよく聞くと、大体三百年ほど生きているという話だった。
同世代のおともだちね。
ただ、ヴラドが一度、コウモリの姿でフランスの服の中にもぐりこみ、寝ようとしたことがあった。
胸の上にのっかって、ちょこんと寝ているだけなので、フランスとしては別にどうでもよかったが、イギリスが盛大に怒って、そのあと竜の姿での喧嘩になった。
なんて、しょうもないことで……。
結局その派手な喧嘩のせいで、教会にあった『もしかして、たまに帝国の皇帝いるっぽくない?』といううわさが、『あ、やっぱり、いるな』という確信のうわさにかわってしまった。
その結果、聖下にも知られるところになった。
教会の上空で巻き起こった竜の戦いに、あたりが騒然となったのも、今となっては、まあ、笑えるか。
ヴラドの竜の姿は白いのかと思っていたが、青い竜の姿だった。青みをおびた灰色のような、鉛のような、金属質にも見える色と鱗だった。
二匹のコウモリが喧嘩に全力をつくしたのか、荒い息で腹を上下させながら、のびて床に転がっている。
今日も、引き分けね。
ヴラドがふらふらっと飛んで、フランスの膝の上にのっかり、ちいさいコウモリの瞳になみだをためて、ちいさな手を差し出すみたいにする。
どうやら怪我をしたらしい。
「あらら、ヴラド怪我しちゃったの? かわいそうに。いたいのいたいの、飛んでけ~」
そうやってヴラドを甘やかしていると、コウモリ姿でイギリスが飛んできて、ヴラドの両耳をつかんでひっぱる。
も~、やめて。
喧嘩ばっかり!




