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第218話 魔王の教会通いは有名

 フランスは、魔王イギリスの姿で、ミディおばあちゃんの口もとに、食事をはこびながら言った。


「ミディおばあちゃん、ゆっくりね~」


 ミディおばあちゃんが、にっこりと優しい笑顔で言う。


「美男だねえ。毎日いるねえ」


「毎日いるのは、内緒ね。たまに遊びに来ているってことになっているの」


「そうなんだねえ」


 フランスのとなりには、聖女フランスの姿をしたイギリスが座り、肉をもぐもぐしている。フランスの目の前では、アミアンとダラム卿が楽しそうに喋りながら、昼食を食べていた。


 もうすっかり、おなじみのメンバーね。


 教会の食堂のはしにあるいつもの席で、ミディおばあちゃんの食事の世話をしながら、イギリスも含めて昼食をとるのがすっかり日常になっている。


 一週間に一度は、イギリスと一緒にやってくるダラム卿も、こうして一緒に食事をする。


 ダラム卿が、おかしそうに言う。


「もうすっかりミディ夫人は、我々の仲間といったところですね」


 フランスは、ミディおばあちゃんの口元をぬぐいながら言った。


「もうミディおばあちゃんは、わたしたちのこと、ぜ~んぶ知ってるもんね」


 ミディおばあちゃんが、首をかしげて言う。


「そうかい?」


 そう、すぐに忘れちゃうけど。


 だからこそ、ミディおばあちゃんの前では、フランスとイギリスのややこしい入れかわりについて隠す必要もない。


 昼食の時間は、大体フランスがミディおばあちゃんの世話をするから、この一年ほどかけてすっかりミディおばあちゃんの前では何も隠さなくなってしまった。


 なんなら、ミディおばあちゃんの目の前で入れかわって、ミディおばあちゃんに「喋り方がいれかわったねえ」としっかりバレていて笑ったこともある。


 でも、すぐ忘れちゃうけど。


 アミアンが笑いながら言う。


「教会の人間もすっかり、陛下が毎日いることに慣れちゃいましたね」


「そうよね、最初は、『もしかして、たまにいる?』みたいな感じだったけど、最近じゃもうなし崩し的に、ずっといるのを隠していないものね」


 アミアンが笑いながら言う。


「最初は怒られるかと思いましたね」


「聖下にね。手紙で、たまにイギリスが教会に飛んで遊びにきていることを報告しても、おとがめなしだったわね」


「帝国の騎士団も残るし、予想されていたのかもしれませんね」


「そうね。でも、最初は隠しておこうと思っていたのに……」


 フランスが、ひたすらお肉をもぐついているイギリスに、非難の目をむけると、イギリスが食べるのをやめて不満げに言った。


「なんだ、わたしのせいじゃない」


「あなたのせいでしょイギリス。ヴラドと竜の姿で派手に喧嘩なんかするから、おおっぴらにバレちゃったんだからね」


「ふん」


 ふん、じゃないわよ。

 まったく。


 食事を楽しんだ後、ダラム卿が言った。


「今夜、となりの町に芝居を観に行きませんか? 今はやりの恋物語をするそうです」


 となり町か。


 フランスはちょっと考えて言った。


「まあ、夜から? 帰って来られます?」


「そのまま宿屋に泊まって、次の日に、町歩きでもしてから戻るのはどうでしょう」


「ふうん、いいな」


 イギリスがそう言ったので、フランスはアミアンとダラム卿に気づかれないように、イギリスの脇腹をこづいた。


 ばかね。

 邪魔しちゃだめよ。


 フランスとイギリスは、ほとんど毎日会っているが、アミアンとダラム卿は週に一度会うかどうかだ。


 フランスは、でまかせに言った。


「今日は、ヴラドが遊びにくるかもしれないから、わたしとイギリスはやめておくわ。アミアンは、明日の仕事は気にしなくていいからね」


 あ、でも泊まりか……。

 大丈夫かな。


 いや、これはもうアミアンの判断にまかせよう。


 アミアンは、すこしの間考えてから、にっこり言った。


「それじゃあ、お芝居観に行きたいです」


 ダラム卿が嬉しそうな顔をして、アミアンに言った。


「では、あなたの仕事がはやく終わるように、わたしが全力でお手伝いいたします」


 ダラム卿は、仕事が休みの日にやってきては、アミアンのうしろにくっついてまわって、まるでアミアンの侍従みたいに、全部の仕事を手伝ってまわっている。


 それが休みにしたいことだなんて……。

 素敵なカップルね。


 ダラム卿が、二日もいられるなんて珍しいわ。


「ダラム卿は、明日も一日中ゆっくりできるんですか?」


「ええ、明日の夜に、陛下に帝国まで運んでもらいます」


 へえ、そっか。


 フランスは、アミアンに向かって言った。


「じゃあ、アミアン、あなたは明日、一日お休みね」


「お嬢様のお世話をできなくなっちゃいます」


「お嬢様は、ひとりでなんでもできるの」


 すると、ミディおばあちゃんがにこにこしながら言った。


「いいねえ。恋だねえ」


 フランスは、ミディおばあちゃんに向かって聞いた。


「ミディおばあちゃんも、恋した?」


「そりゃあ、したさ」


「リケ様に?」


「そうそう、若いころは、そりゃあ良い男だったからねえ」


「そうなんだ、じゃあ、幸せな結婚生活ね」


 ミディおばあちゃんは、さっきよりもさらににこにこした顔で言った。


「いや、結婚したらクソ旦那だったね」


「えっ」


「仕事ばっかりで、家財まで仕事のために売ってしまって、ほんと、クソ旦那だったけれど」


 そ、そうなんだ……。

 いや、たしかに、私財をなげうって教国のために尽くした人だもんね、リケ様。


 ミディおばあちゃんが、なんだか楽しそうな顔で言う。


「でも、好きだったねえ。今もね。好きだよ」



 なんだか、素敵。





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 おまけ 他意はない豆知識

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【リケ様がクソ旦那?】

フランスの世界遺産『ミディ運河』の発案者がピエール=ポール・リケ。

運河の開発は難工事続きで予算が足りず、リケは家財を売り払い、娘の持参金をも注ぎ込んだといわれています。





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