第217話 教会初期メンバー飲み会
フランスは、なみなみとぶどう酒の入った、分厚いグラスをにぎった。
暗くなった教会の食堂で、ろうそくのあかりを頼りに、こぢんまりと飲み会を開催する。机の上には、酒とすこしのつまみが並んでいた。あと、ネコが堂々と寝そべっている。
フランスとアミアンとシトー、三人でグラスを持ち上げて乾杯する。
フランスは、ひとくち飲んでから言った。
「この三人で飲むなんて、ほんと久しぶりじゃない?」
アミアンが、くすくす笑いながら言う。
「そうですね、この教会に来た最初のころは、くたくたになって夜遅くまで仕事して、飲み会と言うより、夜食のついでにお酒飲んでやりすごすってかんじでしたけど」
フランスは、アミアンに告げ口した。
「ねえ、アミアン、聞いてよ! シトーったら、あのとき、一度もお酒飲んでいなかったんだって!」
アミアンが、けろっと言う。
「知っていますよ」
「エッ⁉ わたしだけ知らなかったの⁉」
「シトー助祭は、ずっとお水飲んでいたじゃないですか」
「ええ……、そんな堂々とお水飲んでたんだ……。気づかなかった……」
シトーに目をやると、彼は無表情で「そう」と答える。
フランスは、シトーがすこしずつグラスに口をつけるのを見ながら言った。
「どう? 美味しい?」
シトーが微妙な顔をして言う。
「口の中が、ぎゅってする。あと、のどがあつい」
「うんうん、そのうち慣れるわよ」
アミアンが、わくわくした顔で言う。
「シトー助祭、酔ったらどうなるんでしょうか」
「気になる~!」
しばらく、シトーにお酒をすすめつつ、フランスとアミアンは、シトーがどんな状態になるか予想して楽しんだ。
シトーはその様子を眺めながら、すこしずつ、すこしずつ、でもしっかりとお酒を飲んでいるようだった。
フランスは、シトーのその様子を見ながら言った。
「ね、わたしたち、ずいぶん変わったかな」
アミアンが、首をかしげながら言う。
「ここに来た頃からですか?」
「うん。あの、中央の修道院でした、聖女の叙任式からよ」
「なつかしいですね!」
シトーもうなずく。
フランスは、つくづく、最近になって変わった自分のまわりの状況を考えながら言った。
「わたしは、今まですっと悪女ってうわさだったのに……、今じゃ大聖女よ。悪女のほうが似合う気がするけど」
シトーが、はっきりとした声で言った。
「大聖女のほうが似合う」
アミアンが面白がっていそうな顔をして「おお」と反応した。
フランスは、意外な答えに、前のめり気味に聞いた。
「うそ、そうかな。わたしってば、大聖女っぽい?」
シトーがうなずいて答える。
「大聖女っぽい」
「え~、やだ~。そう?」
机の上でねそべっているネコが「にゃあ」と鳴いた。
今なにか、余計なことを言われた気がする。
しっぽを強めにもにもにしておく。
「あの教会から出にくかった時期も、今となってはなつかしいわね」
フランスの言葉に、アミアンがすぐ反応する。
「変な男どもがよってきたときのやつですね! 今あんなことをしたら、帝国と教国の騎士団に串刺しにされちゃいます」
「ものものしいわよね。教会をまもる騎士団の人数が多すぎて」
「でも、いい人たちばっかりですよ」
「アミアン、騎士団とも仲良くしているのね」
「はい。乗馬も教えてもらいました」
え、流石すぎる。
流石の、アミアン。
でも、この三人の中で一番変わったのは……。
フランスは、シトーをじっと見つめて言った。
「シトーは、この一年でずいぶん変わったわよね」
アミアンもうなずく。
「ほんと、変わりました」
「とっても、良くなったわ」
「ですね!」
シトーが恥ずかしがってか、ぶどう酒をぐいっと飲んだ。
あ、大丈夫かな、その飲み方。
しばらく三人で話していると、シトーの目が眠たそうになった。
「シトー、大丈夫? あ、もしかして、顔赤くない?」
「あ、ほんとですね。けっこう赤いです。色白だから、分かりやすいですね」
すると急に、シトーがへらっと笑って言った。
「たのしい」
アミアンとふたりで、思わず固まる。
「……」
「……」
アミアンと目を見合わせる。
これは……。
かわいい!
フランスは猫なで声で言った。
「シトー、かわいい~。ね、何したい? 何でもしてあげる」
「フランスの讃美歌、ききたい」
「え」
アミアンが腹をかかえて笑った。
うそでしょ。
悪意なしで、純粋に聴きたそうにしてるところが、こわいわ。
フランスは、おそるおそる言った。
「シトー、それ以外なら、なんでも聞いてあげる」
「讃美歌がいい」
「ええ」
アミアンがさらに笑う。
ネコまで、おかしそうに「にゃあ」と鳴いて尻尾をふっている。
覚えておきなさいよ、ネコめ。
フランスは、一生懸命、みじかめの讃美歌を歌った。
壊滅的だった。
これに関しては、改善のきざしが見えないどころか、なんだったら前よりひどくなっている気もする。
シトーがどんな反応をするのか、見守っていると、彼はくすくすひかえめに笑った。
シトーが、笑ってる~‼
これなら、何度でも讃美歌を歌えるかもしれない。
シトーが、普段とはまったく様子のちがうふにゃふにゃの声で、フランスに向かって言った。
「ねむるまで、てをにぎってほしい」
「いいよ」
「こわい夢をみるから」
「どんな夢?」
「だれも……、いない夢」
フランスは、心配になって机の上にあるシトーの手をぎゅっとにぎった。
シトーが、おだやかな顔で言った。
「いまは、フランスとアミアンがいるから、こわくない」
三人で、あらためて乾杯して、すこし飲んだ後、解散した。
フランスは、シトーの部屋で、ベッドに横になって眠るシトーの短い髪をなでながら、彼の赤い顔を見つめた。
最近じゃ、教会に人が増えて、シトーの仕事の量もずいぶん減った。
その分、奉仕活動にせいをだしているから、結局、シトーは忙しくしているけれど。
シトーは、とっても頑張っている。
すこしずつ、ちゃんと前に進んでる。
えらいな。
シトーがすっかり眠ってから外に出ると、ネコが待っていた。
ネコを抱き上げて部屋にもどる。
大聖女も、頑張らないとね。




