表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

215/232

第215話 聖女、悪女じゃなくなる

 フランスは、いつもより綺麗な格好の、カーヴの服装を入念にチェックしながら言った。


「うんうん、素敵ね。とっても立派だわ」


 となりでメゾンがすでに泣きはじめている。


 フランスはメゾンのほうを振り向いて言った。


「ねえ、メゾン、泣くの早すぎよ。式はこれからよ?」


「だって、こんな……、カーヴぅぅぅ、かっこいいよおぉぉ」


 やれやれ。


 フランスは微笑ましい様子に、ちょっと笑ってから、カーヴに向き直って言った。


「ねえ、カーヴ。本当に、わたし嬉しいし、誇らしいわ」


 カーヴも嬉しそうにうなずく。


「わたしずっと、カーヴ、あなたとメゾンのこと、会った時から弟みたいに可愛くて……。ふたりとも一生懸命に頑張っているの、知っているから」


 メゾンがまた、うわっと泣く。

 フランスは、メゾンにハンカチをわたしてから、カーヴに向かって言った。


「あなたは、立派に勉強して、話せるように努力も絶えずして、今や立派に助祭をつとめている。メゾンも、最近ようやく助祭になれたし」


 次は、もしかして、メゾンとアリアンスの結婚式かもね。


「もう結婚もするし……、だから……、あなたももう立派に一人前だわ。弟みたいなんて、思っちゃわるいかもね」


 すると、カーヴがフランスの両手をとり、しっかりと握りしめながら言った。


「わ、わたしに、とっては、一生大事な、姉さんです」


 フランスは、一気に涙が飛び出るみたいになって、たまらない気持ちで言った。


「うわぁぁぁ、カーヴぅぅぅ、それは泣いちゃうぅぅぅ!」


 メゾンも隣で、「姉さんぅぅぅうう」と叫びながら泣いた。

 三人で、ぎゅっとやる。


 アミアンが部屋に入ってきて、苦笑しながら言う。


「わあ、すごいことになっていますね。これで、式のりきれますか?」


 フランスは、メゾンの手からハンカチをもぎりとって、自分のめもとをおさえてから言った。


「今のうちに、泣いておいたら、耐えられるかなあってぇ」


「もう女性陣は準備できていますよ」


「そう、じゃあ、いこっか」


 礼拝堂に向かうまで、教会のあちこちに、騎士たちが目をひからせている。フランスは、もう慣れっこになったその様子を横目に歩いた。


 さて、礼拝堂はどんな様子かしらね。


 さほど大きくない礼拝堂の中は人でいっぱいだった。もうそこらじゅう、ぎゅうぎゅうづめで、座りきれずに立っている人間のほうが多い。


 入り口の近くからその様子を見て、フランスは言った。


「正面から入るのは無理ね。裏から入りましょ」


 普段滅多につかわない、地味でちいさい裏口から入る。


 倉庫みたいに不用品がおかれている場所を抜けて、礼拝堂に出る。


 ちょうど、オランジュとアリアンスがいる場所の近くに出た。幕をはって、礼拝堂に来た人々からは見えないようになっている小さな一角だった。


 フランスは、カーヴと同じように、いつもより綺麗に着飾ったオランジュを見て、言った。


「オランジュ! 綺麗よ!」


 オランジュが、情けない顔で言う。


「聖女様、どうしましょう、こんなに人が……」


 あらら。


 フランスが「大丈夫よ」となぐさめると、オランジュが、さらに情けない感じで言う。


「かつらがとれたらどうしよう」


「とれても、問題ないくらい、もう生えそろっているでしょ。大丈夫よ。それに、そんな簡単にいつもとれたりしないでしょ」


「でも、風がふくかも」


「屋内でそんなふかないわよ」


「誰かがひっぱったり」


「誰も花嫁にそんな無茶なことはしないわ。それに、カーヴがちゃんと守るわよ。ね?」


 カーヴがしっかりとうなずいて、笑顔でオランジュに向かって言った。


「きれいだ」


 オランジュが恥ずかしそうに、でも嬉しそうにした。


 フランスは、礼拝堂の中をちらっとのぞいた。

 知り合いは、前の方に座っている一部だけだ。あとは……。


 アミアンが、やれやれと言う。


「聖女フランス見たさの人がつめかけていそうですね」


「午前の礼拝に入れなかった人たちかしら」


 アリアンスがにっこり言う。


「にぎやかで、お祝いにぴったりですね」


 一番、肝が据わっているのはアリアンスかもね。


 オランジュが神経質そうにするのを、アリアンスがふんわり笑って「大丈夫、大丈夫」と落ち着かせている。


 オランジュが、アリアンスに泣きついて言う。


「ねえ、やっぱり、こんなにいっぱいの人の前に出ていくのこわい。アリアンスもとなりにいてよお」


 フランスは、その様子を見て言った。


「まあ、いいんじゃない? カーヴと誓いを言うところまでは、そばにいてもらっても」


 それを聞いて、オランジュが絶対に逃がさないというふうに、アリアンスの腕にすがりつくみたいにした。


 フランスは、あらためて、オランジュに向かって言った。


「オランジュ、本当に綺麗。ね、式のあと、もしかして会えないかもしれないから、先に言っておくわね。ほんとうに、おめでとう」


 オランジュがアリアンスにびったりと、くっついたまま涙目で、フランスの言葉にうなずいた。



 今日は、カーヴとオランジュの結婚式。



 一年ほど前に、カーヴがブールジュの就任式典で怪我をしてから、世話をしたオランジュと、いい感じになった。カーヴから、めちゃくちゃ積極的にアピールしたらしいと聞いた時は、本当にびっくりした。


 あのカーヴが、女性に対しては、かなりぐいぐい行くらしい。


 びっくりよ。

 分からないものね。


 今日は、メゾンが進行役をつとめて、フランスが司祭役だ。


 カーヴとオランジュが出ていって、人々から祝福の言葉を受ける。そのあとに、フランスが壇上に上がると、歓声が上がった。


 うう。

 今日は結婚式なのに。


 これじゃ、どっちが主役かわかんないわ。

 聖女フランスの人気がすさまじすぎる。


 なんだか熱気につつまれた会場のなか、式はとどこおりなく進んだ。


 式がおわると、聖女フランスの祝福をもらいたい人々が、口々にフランスの名をよぶ。いつもの礼拝よりも高揚した雰囲気を危険と判断したのか、教皇直属の騎士団がフランスを護衛して裏口から運び出すというありさまになった。


 やれやれね。


 この一年近くで、聖女フランスのうわさは、真逆に変わった。


 悪女フランスのうわさはどこへやら……。


 今や、聖女フランスと言えば、教国の教皇からも認められ、帝国の皇帝からも認められ、最も力の強い聖なる女。


 ちまたじゃ、大聖女フランスと呼ばれているとか。


 正直……、献金が増えたのは最高だけど、大聖女フランスはやめてほしい……。



 献金は最高だけどね!






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ