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第214話 そして、月日は流れ……

 フランスはさっぱりした身体で、天幕を出た。


「あ~、さっぱり~。お風呂、最高!」


 となりでアミアンが笑いながら言う。


「天幕風呂が便利すぎて、もうなかった頃には戻れませんね」


「ね~、ほんとよね。帝国の皇帝が成し遂げたことのなかで、最も偉大だわ」


 ふたりで笑う。


 イギリスがそのままにしてくれた立派な天幕は、教会の共同風呂として毎日使われている。


 女湯、男湯、介護湯、帝国騎士団湯、教皇直属騎士団湯、子ども遊び湯、と日や時間によって使い分けていて、望むものはだれでも使える共同湯になっている。


 これが、すこぶる評判が良い。


「まさか、イギリスがもともと三つあった天幕のうちのひとつを、お風呂のためだけに使っていたなんてね」


「陛下、お風呂大好きみたいですから。天幕に用意したものでも、あんまり満足していなかったみたいですけど」


「帝国には、そりゃあ立派なのがあるんでしょうねえ」


「ですね」


 フランスは、イギリスに天幕の使い道を相談したときのことを思い出しながら言った。


「だから、あんなにすぐに、天幕の使い道をお風呂にするって思いついたのね」


 アミアンが、明るい声で言う。


「お風呂への改造の費用も全部出してくださって、ふとっぱらです!」


「ほんとね。持つべきものは、お金持ちでお風呂好きの後ろ盾ね」


 私室へとむかう廊下にさしかかったところで、アミアンが聞いた。


「このあとは食堂に行かれますか?」


「あ~、今日は、夕食はいいや。お菓子いっぱい食べちゃったし、それに今日は珍しくもう仕事もさばき終わったし、部屋に戻るわ」


「明日の準備ですか?」


「うん。明日は結婚式だからね! ちょっと張り切って、良い感じの聖句でも選んでおこうかな~。アミアンも、あとはゆっくりして!」


「はい、お嬢様」


 食堂に向かうアミアンと別れて、自分の部屋に向かう。


 部屋に入ると、ベッドの上に毛並みつやつやのネコがだらしない恰好で寝ていた。

 フランスは、ネコにむかって声をかけた。


「あら、イギリス、今日は早かったのね」


「にゃ」


 フランスは、腹をてっぺんにむけて、リラックスしている様子のネコをなでた。お腹をなでても、嫌がらずにそのまま、だらっとしている。


「今日もお仕事いっぱい頑張ったの?」


「にゃあん」


「そっか~、えらいね~。よ~しよしよし」


 フランスがそう言いながら、猫の顔をもみくちゃになでると、ネコがのどをならす。


 フランスはネコを抱き上げて、ベッドに腰かけ、ネコをひざの上に置き、読まずにとっておいた手紙をあけた。


 イギリスが前脚で手紙をちょいちょいする。


「これ、領主さまの五番目の娘ちゃんからの手紙よ。もうすっかり、仲良しなんだから、わたしたち。見てて、ぜったい、仲良しよ」


 フランスが手紙の中身をあけて一枚目をひらいてみると、そこには、無駄に大きな文字でこう書いてあった。


『どぶす』


 フランスは思わず叫んだ


「相変わらず腹の立つッ‼」


 フランスは、一枚目の紙をネコにも見える位置に置いてから言った。


「もう一年近く文通しているのに、毎回絶対、一枚目に『ぶす』って書いてくるのよ。今回は、シンプルに『どぶす』だったわね。毎回ちょっとずつ違う『ぶす』になるのよね。そんなところを工夫しないでほしいわ」


 ネコがフランスのひざからおりて、フランスのうしろに回る。


「毎回、その手紙を読むのが楽しそうだな」


 うしろからイギリスの声。


「まあね。だって、この手紙面白いのよ——」


 イギリスがフランスの腰と腕をひっぱって、となりに寝かせようとする。


「ちょっと、イギリス、手紙が読めないわ」


「横になっても読めるだろ」


 フランスはあきらめてイギリスのとなりに横になって、手紙を読んだ。イギリスがとなりに寝ころび、フランスの腹をつまみながら言う。


「なにがそんなに面白いことが書いてあるんだ?」


「五番目の娘ちゃんって、望まない結婚だったけど、どうやら相手が素敵な方だったらしいのよ。毎回、恋バナみたいな、のろけ話みたいなのが送られてくるの。そういうのって、最高に読むの楽し——、イギリス、最近そのお腹のお肉をつまむのやめてくれない?」


「きみも、さっき、わたしのを触っただろ」


 ああ、なるほど、そういえばネコの腹を思いっきり触ったかも。


「でも、そうつままれると、もしかして腹の肉が増えたんじゃないかと不安になるわ」


「もっとふやしてもいいとおもう」


「だめよ」


「フランス」


 イギリスが、フランスの名を呼んで、頬を差し出すみたいにする。


「はいはい」


 フランスが手紙を読みながら適当にイギリスの頬にキスすると、イギリスが手紙をひょいと取り上げるようにした。


「ああ、もう、イギリス、やめてよ。明日の結婚式の用意もあるから、はやく読みたいのに」


「ちゃんとキスしてくれたら返す」


 フランスは横になったまま、ちゃんとイギリスに向き合って、彼の首に手をまわし、しっかり頬にキスした。


「したわ」


「もっと」


「もう、やめてよ、しつこいわよ」


 ふたりで笑いながら手紙を取り合う。


 わたしたち、ほんと、健全なおともだちよね。



 ちょっと仲良しがすぎるけど。





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