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第211話 小竜公、全部許可取る

 フランスは、けっこう長い時間、ヴラドが血を飲む姿を見ながら、ヴラドの髪をなでたりして遊んでいた。


 あ……。

 なんか、今ちょっとふらっとしたかも。


 フランスはヴラドの肩をかるく叩きながら言った。


「ヴラド……、なんだか、ちょっとふらっとする……」


 ヴラドがハッとしたように血を飲むのをやめて、フランスの顔を見上げた。


 フランスが自分の腕を見ると、そこには傷跡もなく、血もなかった。


 不思議ね。

 どうやって、飲んでいるのかしら。


 ヴラドがフランスの背を支えるようにして、ベッドに横になるように促した。


「わるかった。つい、飲みすぎたかもしれない」


「うん。大丈夫。お腹いっぱいになれた?」


「ああ、すごくひさしぶりに、人間の血で腹が満ちた」


「そっか。良かった」


 ヴラドの顔色はさっきよりもずいぶん良くなったように見えたし、今は震えてもいないようだった。


「さっきは心配したわ。体調が悪いのに、コウモリの姿でわざわざ飛んできたの?」


「途中までは竜の姿で飛んできた」


 やっぱり、竜の姿にもなれるのね……。

 ヴラドが落ち着かなさそうに、まわりを見て言った。


「外に出るのは苦手だ。それに、ここは遠い」


「もしかして、こわくて震えていたの?」


「……」


「ちゃんと、帰れそう? 心配だわ」


 黙ってしまったヴラドに、余計に心配になってそう言うと、ヴラドがフランスの上に覆いかぶさるようにした。アロンの墓にあった金銀財宝の山の上でしたように。


 フランスの両手を抑えつけるようにする。


 ヴラドがなんだかこわい顔をして言った。


「人間のくせに、半妖精の心配か?」


「……」


「わたしが、こわいか?」


 フランスは、ひとつため息をついて言った。


「ヴラド。わざとそんな風にしないで。ほんとにこわくなっちゃうでしょ」


「わたしは、本気でやってる」


 やれやれよ。

 なんだってまた急に、そうやってこわがらせようとするのかしら。


 フランスは、ヴラドの赤い瞳をじっと見つめて言った。


「あなた、前にこうしたときも、わたしの腕がいたまないように、そっと扱っていたし、今だってそうしてる。それに、ヴラド、あなた結局、すべてわたしに許可をもらってから何かするし、嘘をつかないじゃない」


「……」


 ヴラドがフランスの上にのっかったまま、完全に脱力して寝転がった。


 彼の全体重が、フランスの上に乗せられたみたいだった。

 押しつぶされて、フランスの喉からうめき声みたいな声が出た。


「うぅ……重いぃ……」


 ヴラドがちょっと身体をずらしてから言った。


「いつからか、外に出るのがこわくなったんだ。ひとがいるところに行くのがこわい」


 ひとが、己を見る目が嫌になったと言っていたわね。


 たしかこう言っていた。

 まるで自分たちとは違うものを見るような目で見るから、と。


 それが原因で外に出るのもこわくなっちゃったのかしら。


 アロンの墓がある場所は、巡礼者はいるとしても、ほとんど人の気配のない場所だった。それに比べれば、この教会がある場所は、大きくなくても立派な町だ。


 とんでもなく勇気をふりしぼって、ここまで飛んできたのかもしれない。


「そう。それじゃあ、人の血じゃなくても、手に入れるのは大変ね」


「フランスは、わたしのことを……」


 ヴラドがそこまで言って、ひとつ息をはき、今までの話し方よりも、くだけた雰囲気で言った。


「おれを、おそれもしないし、馬鹿にもしないんだな」


 貴族らしい、すこし気取った物言いはなりをひそめて、なんとなく彼らしい自然さがあるような気がした。


「今まで、そういう人しかあなたのまわりにいなかったとしたら、つらいことね。でも、みんながみんな、あなたのことを変な目で見る訳じゃないわ。ちゃんと、あなたのことを見てくれる人だってきっといる。ここにもいるでしょ」


 ヴラドがすこし身体を起こして、フランスの瞳をのぞきこむようにして言った。


「なあ」


「なに?」


「触ってもいいか?」


「だめよ」


「じゃあ、匂いを嗅ぐのは?」


「まあ、それはいいわ」


 ヴラドがフランスに抱きついて、首筋に顔をうずめて息をする。


 くすぐったい。

 それに、これは結局触っているのでは……。


 でも、なんとなく拒みづらい気がした。まるで、子供が母親にぎゅっとしてほしいと近寄って来るような感じがあったからだ。


 ヴラドが、ほんとうに眠そうな声で言った。


「ねむくなってきた……」


「ここで寝ちゃだめよ」


「ちょっとだけ。ちょっとだけ寝たら帰るから」


「……」


「人の血を腹いっぱい飲むなんて、二百年ぶりくらいで……、眠くなるのもそれ以来なんだ……、しばらく……したら、起きてかえる……から」


 ヴラドはそこまで言うと、その姿をほどけるようにしてコウモリの姿に変えた。

 お腹を上にして、翼と足をほうりだして、むにゃむにゃやりはじめる。


 フランスは、その無害で愛らしい様子に、すっかり守ってあげたいような気持ちになった。


「ヴラド……。お腹ほんとにいっぱいなのね。お腹ぽこぽこよ。かわいい~」


 フランスはコウモリのふくれた腹をなでた。


 すると、ヴラドがフランスの指にだきつくみたいにする。そのまま、その状態ですやすやしはじめた。


 コウモリの子供ができた気分。


 フランスも横になって、しばらくヴラドをなでたりしながら、その姿を楽しんだ。


 ヴラドが寝ぼけてか、フランスの指を毛づくろいするみたいにぺろぺろ舐めて、甘噛みしたりする。しばらくそうやって、安心したのか、フランスの指にコウモリの小さい頭をぎゅっとくっつけて小さい寝息を立てた。


 か、かわいい~。


 うぅ。

 コウモリ、飼いたい。


 フランスも、ヴラドをなでながらうとうとしはじめたころ、ヴラドがもぞもぞっと動いてフランスの手の中から出た。


 のびをするみたいにして、翼を片方ずつのばす。小さい口をおおきくあけてあくびをし、口をにゃむにゃむした。


 そのままベッドから出て、人の姿に変わる。


 ヴラドは、まだ眠いのか、目をこすりながら言った。


「また、遊びに来てもいいか?」


「いつでも歓迎するわ。ともだちでしょ?」


「そうか」


 なんだか、もうちょっと眠っていけば、と甘やかしたくなる感じがあるわね。


「帰る」


 ヴラドはそう言って、またコウモリの姿にかわり、窓のところまで飛んだ。

 フランスは、窓をあけてやった。


 ヴラドが窓の外を見つめて、一生懸命に飛び立とうとしている。


 が、おどろくほどガックガクに震えている。


 だ、大丈夫?

 その感じで、ほんとによく外に出られたわね……。


 フランスは、両手であたためるようにヴラドをぎゅっとして、その小さなコウモリの頭にキスした。


「気をつけてね。ヴラド」


 ヴラドは視線を一度こちらに向けて、キィキィ言った後、ふらふらっと飛び立った。



 夜空に、小さな姿が消えていく。






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