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第207話 聖下にしてほしいコスプレ♡

 フランスは、シャルトル教皇の顔を見上げて言った。


「わたくしの侍女の身分を、奴隷から一般市民階級に上げていただきたいのです」


 シャルトル教皇が首をかしげて、確認するように言う。


「あなたではなく、侍女のですか」


「はい。奴隷として教会に買い取られたときのまま、侍女の身分は奴隷です。どうか、この身分を奴隷から一般市民階級に上げていただきたいのです。それも……、奴隷という文言を削除する形で、完全に、書き換えていただきたいのです」


「それは……」


 フランスは、さえぎられる前にと、急いで言った。


「難しいことは、重々承知しております。それが、聖下おひとりの手でどうにかなるものでもないことも」


 このチャンスを掴めなければ、身分の回復など望めるはずもない。


 アミアンがもし、ダラム卿と一緒になりたいと願ったときに、奴隷という足かせだけでも、なくなっていてほしかった。それでも、貴族であるダラム卿と一緒になることは、想像以上に多くの障害があるに違いない。


 せめて、大好きなアミアンのために、今自分ができることの最善を尽くしたい。


 フランスは、祈るように手を組み、必死な気持ちで言った。


「ですが、どうかお願いいたします。西方での事件では、彼女は危険を顧みず教国のためにつくしました。どうか、なにとぞ」


「フランス」


 手をとられて、隣にすわるよう促される。

 美しいシャルトルブルーの瞳が、フランスの瞳をのぞき込んでいた。


「あなたの思いは、分かりました。あなたの侍女はたしかに教国のために、とても大きな働きをしました……」


 シャルトル教皇は、少しの間、考えるようにした。


 身分の完全な書き換えは、いくつもの承認を経て、ようやっと叶う。簡単に、できるものではない。


 それでも、彼の力があれば、不可能ではないようにも思える。


 フランスは、必死に祈った。


 シャルトル教皇が、フランスの手をなぐさめるようにぽんぽんと叩いて言った。


「あなたの望むよう、侍女の身分を書き換えましょう」


 フランスは、シャルトル教皇の手にすがるようにして感謝した。


「ありがとうございます、聖下。こころから、感謝いたします」


 お忙しい聖下にとって、これもひとつやっかいな仕事になるに違いない。


 それでも、引き受けて下さった。

 また、大好きなってしまう。


 シャルトル教皇が、優しく微笑んで言う。


「あなたの身分の完全な回復は、望まないのですね」


「わたくしには……、聖女という肩書きがありますから」


 たとえもとの身分が奴隷のままでも、教国においては『聖女』という肩書きさえあれば、何ら困ることはない。一応、今の身分は教国で最も身分の高い聖職者だ。ただ、奴隷という文言がしっかりと残っているだけで。


 それに、奴隷であったことを持ち上げて攻撃してくるものは、身分が完全に回復したからといって、過去に奴隷であったことを無視してはくれない。


 シャルトル教皇が、フランスにお茶をすすめながら言う。


「なるほど。あなたにとって、その侍女も大切な者なのですね」


 フランスは、お茶を飲んでほっと一息ついてから答えた。


「はい。幼いころからずっと一緒にいるので。彼女のために何かしたいと常々思っていました」


「その気持ちはよく分かります。わたしも、いつもあの助祭の彼に甘えてばかりなので、何か返したいと思っているのですが……」


 シャルトル教皇は、うーんと悩むようにちょっと天井を見上げてから、つづけて言った。


「なんでも喜びそうなうえに、べつに何も欲しがらないので……、何も思いつかなくて」


「ぎゅっとしてあげるとか」


 フランスがすかさずそう言うと、シャルトル教皇が、まるで友だちと笑うみたいに口をあけて、はははと笑った。


 そうすると、なんだか幼い顔つきになる。


 かわいい。


「今度してみます」


 するんだ。

 助祭の反応を、ぜひ見てみたい。


「しかし、侍女のためのお願いだけでは、あなたへの贈り物になりませんね。もうひとつ、お願いを言ってみてください」


「えっ」


 いいの⁉


 実のところ、シャルトル教皇に贈り物を考えておいてくださいねと言われていた当初に考えていたことがひとつあった。


 言ってもいいかしら。

 どうする。


 言っちゃう?

 言っちゃうか⁉


 フランスの様子を見て、首をかしげて微笑むシャルトル教皇に、フランスは覚悟を決めて言った。


「し、肖像画を、いただきたいです」


「肖像画?」


「はい。小さいものでいいので、聖下の肖像画を……いただき……たく」


「わたしの?」


 シャルトル教皇が、笑いながら言った。


「本当にわたしの顔を気に入って下さっているんですね」


「はい。好きです」


「いいですよ」


 エッ‼

 いいの⁉


 フランスの心に、天から一筋の光が差し込んだようだった。


 しかし、フランスはすぐに正気に戻って、さらに伝えなければならないことを言った。


「もし可能なら、して頂きたい服装がありまして……」


「服装? 何ですか?」


「あの……、枢機卿時代の恰好で……肖像画をいただきたくて……」


「枢機卿のときの?」


 シャルトル教皇は、ちょっとの間考えたあと、何か思い出したように笑って言った。


「もしかして、むかし中央の修道院にある大書庫で会った時のことを思い出しているんですか?」


 フランスは思わず大きな声で叫ぶようにして言った。


「え……、エッ⁉ なんで、ご存知なんで……、お、覚えていらっしゃったんですか⁉」


「覚えていますよ。あなたが聖女フランスだと知ったのは、もうすこし後のことでしたが……。あなたが、わたしを追いかけてきたり、派手にわたしの噂を聞いて回っていたらしいと聞きました。本当だったんですか?」


 ひえぇぇ。

 ばれている!


 フランスは、恥ずかしくなって、思わずお茶を飲み終わったカップで顔をかくすようにして言った。


「ほ、本当です」


「なるほど。もしや一目見て気に入ってくださったんですか?」


「はい」


「ふうん。わたしも、あなたのことを最初に見たときから、かわいいなと思っていました」


「……」


 シャルトル教皇が、美しい指先で、フランスの持ち上げているカップをちょいと押すようにして、フランスの顔を見ながら言った。


「いつもそつなくこなされているので意外な気もしますが、そんな風に真っ赤になることもあるんですね」


 恥ずかしいやら、嬉しいやらで、もう何も考えられそうにない。


 シャルトル教皇が、楽しそうにくすりと笑って言った。


「明日、またすこし時間がとれます。絵師は手配するとして……。フランス、あなたも肖像画を描くときに、その場に来ますか?」


「行きます」


「そうですね、服装も見ていただかないと、どれか分からないですし」


 シャルトルブルーの瞳が楽しそうに細められる。


「では、今夜は、わたしの邸宅に泊まってください」


「はい、そうします」


 ……。


 え?


 エッ⁉



 聖下の家に、お泊まり⁉






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