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第206話 お願い言ってみる♡

「すこしだけ、待ってくださいね、フランス。そちらに座っていてください」


「はい聖下」


 フランスは、笑顔で返事をして、応接用の長椅子に座った。


 シャルトル教皇の執務室には、今日はひっきりなしに人が訪れているようだった。シャルトル教皇は、あわただしく書類にサインしたり、指示を出したりしている。


 そのうち、いつもの教皇付きの助祭があらわれて、フランスの前にお茶と茶菓子を置いていった。


 まだ、しばらくかかりそうね。


 フランスは、忙しそうにしているシャルトル教皇の姿を見つめながら、今日のイギリスの手紙を思い出していた。


 最近フランスは、夜明けになると、ひとけのない豪華な城の中でひとり目覚める。

 入れかわっている間、帝国側ではフランスのそばに誰もいない。


 十分に手入れはされているが、誰もいない帝国の城。


 目覚めると、枕元に手紙と花がある。


 花は、庭園にあるものをイギリスが自分でとってきたのか、あきらかに無理にちぎってきたみたいな花で、朝に見るときにはすっかりしおれている。


 その花と一緒にあるのが、イギリスからの手紙だ。


 親愛なるともだちフランスへ、書き出しはかならずこうだ。

 最後には、愛をこめてイギリス。


 毎日、欠かさず手紙を置いてくれている。


 それは、とってもうれしい。


 中身は、午前中に教会でどんなことをしたとか、誰が何と言って来たとか、天気とか、帝国騎士団の教会の警備はこんな感じの変更があったとか……。



 まあ、なんというか、完全に、業務報告書じみていた。



 はじまりと終わりの一文にだけ、ちょっとともだちだか恋人だか、みたいな一文があるだけで、それ以外は完全に、仕事のやりとりをしているような雰囲気だった。


 会いたいとか、そういう甘ったるい内容は、まったく、一切ない。


 ダラム卿の、完璧に女たらしな手紙とプレゼントと比べてしまうと、とんでもない落差がある。


 比べるのは悪いと思いつつ、女たらしの手紙とプレゼントを知っているので、ついつい比べてしまっては、その考えを頭から振り払うようにしていた。


 イギリスの手紙としおれた花に嫌悪感はなくて、それはそれで、とっても嬉しい。なんだかその不器用な感じも、イギリスらしくて好ましいと思う。


 思うが……、本当に好きだと言い合った仲だったかな、とちょっと不安に思ってしまう。


 イギリスの手紙には、彼のどんな気持ちも見えはしなかった。


 アキテーヌであったことは、消えてしまったのかも。

 直接会って、触れ合うこともないと、こんな感じになるのね。


 なんだか、かなり寂しい。


 フランスの口から大きめのため息が出たとき、高貴な花の香りがした。


「すみません、フランス。すっかり待たせてしまいました。疲れてしまいましたか?」


 フランスのとなりにシャルトル教皇が座った。

 いつのまにか、誰もいなくなっていたようだった。


「いいえ、聖下、そんな。別のことを考えていました」


 シャルトル教皇が微笑みながら言う。


「別のことを? いつも、わたしのことをじっと見てくださるのに、今日は心ここにあらずでしたね。さみしいです」


 寂しがらせませーーーーーんッ‼


 フランスは、とりあえずイギリスの手紙のことは、完全に頭の中から消し去り、今は目の前の美しい教皇に全力で集中することにした。


「もう、いまは、聖下のことしか、考えられません。聖下のことだけ、見ます」


「それは、良かった」


「聖下、傷はどうですか?」


「まだ痛みはありますが、あなたの力のおかげで、もうずいぶん良いですよ」


 シャルトル教皇が、お茶を優雅にひとくち飲んでから言った。


「式典への参加、お疲れさまでしたね。帰りは問題ありませんでしたか?」


「はい、何事もなく。あ、騎士団をありがとうございます」


「西方であんなことがあったばかりです。しばらくは、あなたのまわりの警備を強化する必要があります。過ごしづらいかもしれませんが、どうか分かってください」


「心づかいに感謝いたします」


「それにしても、あなたのところはブールジュ聖女のところに次いで大規模な警備体制になってしまいましたね。帝国騎士団のおかげで」


「はあ、なんだか、すごい人数の騎士がいて、慣れません」


「西方で騒ぎを起こしたのは、東側の貴族たちでした。女に権威を与えることを厭う者たちです。しばらくは、やりすぎるくらいの警備で様子をみましょう」


「はい、聖下」


 シャルトル教皇が、気づかうような様子で言う。


「それはそうと、ついにイギリス陛下も帝国にもどられましたね。寂しいですか?」


「はい」


「あなたは、本当に、正直な人だ」


 嫌な顔をされるかと思ったが、シャルトル教皇は、ただくすりと困ったように笑っただけだった。


「では、あなたの心をなぐさめるものが必要ですね」


「なぐさめるもの?」


「覚えていますか? 無事にイギリス陛下が一ヶ月教会で過ごしたあかつきには、なんでもあなたが望むものを贈るという約束です」


 あ!


 忘れていた!

 完全に!


 な、なにもちゃんとじっくり考えていない!


 まずい!

 こんなチャンスを‼


 と、思ったが、すぐにひとつ思いついた。


 今の、このタイミング以外では、聞いてもらえなさそうなお願い。

 このタイミングですら、叶えてもらえるかは、分からない。


 フランスは、シャルトル教皇のひざもとにひざまずいて、言った。


「今回の西方で起こった事件で、わたくしの侍女が、教国のために身の危険を顧みず貢献いたしましたことを、覚えていらっしゃいますでしょうか」


「ええ、その侍女への贈り物も、今日あなたに相談しようと思っていたのです」


「では、ふたつの贈り物を合わせて、ひとつにして、いただきたいのです」


「ずいぶん……、大きなお願いを用意しているようですね」


「はい。むずかしいことだとは承知しております。ですが、どうしてもかなえていただきたく」


 フランスは、シャルトルブルーの瞳を見上げて、言った。



「わたくしの侍女の身分を、奴隷から一般市民階級に上げていただきたいのです」






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