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第203話 女子トークしましょ

 フランスは、赤い竜の姿が消えて見えなくなるまで見送ったあと、自分の部屋に向かって歩いた。


 なんだか、ぽっかり、胸のあたりが寂しい感じがする。


 戻る途中で、アミアンと行き会う。


「アミアン! 今もどってきたの?」


「はい。なんだか、長くて」


 フランスは、アミアンの言い方に笑ってしまった。


「ね、アミアン、ちょっとだけ付き合ってよ」


「お酒ですね!」


「そうよ。今日はちょっと、疲れたし、お酒よ」


「陛下が買って下さった、黒イチゴ酒があります」


 いつの間に、そんなの買ってくれてたの⁉


 ありがとう、イギリス。

 大好き。


「よし、食糧庫から黒イチゴ酒とつまみを、盗みましょう」


「いいですね!」


 ふたりで、こそこそと食糧庫に忍び込み、目当てのものを奪い取ってから、執務室に戻った。


 アミアンと、長椅子にだらしなく座って、乾杯する。


 あ~、この感じ、久しぶりじゃない?

 美男の前じゃ、このお行儀のわるい会はできないものね。


「アミアン、なんかお疲れさま」


「お嬢様も、なんかお疲れさまです」


 フランスは、黒イチゴ酒をぐいっと飲んでから、思いっきり吐き出すみたいに言った。


「ねえ、ほんと、疲れたかも!」


「楽しかったですけどね!」


「それは、そう!」


「美男でお金持ちがいっぱいで、毎日何事か起きていた気がします」


「ほんとよ! ほんっとに! ようやく日常が戻ってくると思うと、ほっとするわ。寂しいのもあるけど、同じくらいほっとする」


 アミアンが、笑いながら言った。


「お嬢様は、寂しくて泣くかと思いましたけど」


 フランスも笑った。


「わたしも、泣くと思っていたんだけど。なんか、今、すごく楽な気持ちもあるのよね。変よね。わたしってひどいかしら?」


「変でもないんじゃないですか? あんなに地位の高い美男が、ずっとまわりにいたら疲れます」


 アミアンの容赦のない言い方にさらに笑ってしまう。


「でも、寂しいのは、ほんと寂しい。多分、このあと、じわっときそう」


「お嬢様は、もしかしてそのまま、陛下に連れ去ってもらうのかと思っていました」


「えっ‼ そ、そんな風に見えた?」


「はい。おふたりとも、がちがちに好きあってそうに見えました」


 そ、そうだったんだ……。

 そんなに、バレバレな感じだったんだ。


 アミアンが、やれやれと、ちょっと楽しそうな顔で言う。


「陛下はもう、教国に来た初日からあやしかったです」


「うそ、それは分からなかったわ」


「お嬢様は、カヌレを買ってもらったあたりから、あやしかったですね」


 す……、すごい。

 アミアンには全部ばれていそう。


「今日の様子を見ると、お互いの気持ちは確かめ合ったに違いありません」


 すごすぎる!


 フランスは思わず叫んだ。


「なんで、わかるのよ!」


「おふたりとも、分かりやすすぎです」


 なんだか、くやしい。

 アミアンだって、ダラム卿とあやしいわよ。


 フランスは、ちょっとすねた気持ちで聞いた。


「アミアンは、どうなの?」


「キスされました」


「へ~、そうなんだ……」


 フランスは勢いよく長椅子の上に膝立ちになって叫んだ。


「エッ⁉ ……エエッ⁉」


 アミアンが、フランスの様子を見て笑いながら、しれっと黒イチゴ酒を飲んでいる。


 フランスは、わけのわからない感情の波に、黒イチゴ酒を一気飲みしてから、立ち上がり言った。


「え、え? えっと、あの、あれよ、えっ、ともだちのキス? じゃなくて?」


「はい」


「エエッ⁉ だ、だん、男女のやつ⁉」


「はい」


 なんですってーーーーーッ‼


 フランスは、にやける顔を抑えられずに、執務室の壁まで走っていて、奇声をあげながら壁をたたきまくった。


 その場で、振り向いてアミアンに向かって言う。


「いつのまに、そんな! 展開がついていけないわ!」


「お嬢様、すごい顔ですよ」


「無理よ。そんな話、ニヤつかずに話せるわけないでしょ! やだ、興奮しすぎて、鼻の穴まで大きくなっちゃうわよ!」


「実のところ、わたしも、ついていけてません」


 フランスは、アミアンの隣に走り込んで座り、聞いた。


「え、え、え。アミアンがついていけてないとは? いやそもそも、そもそもよ……、好きなの?」


「好きです」


 フランスはそのままのけぞって倒れ、そこらにあったクッションを抱きしめつつ噛んだ。



 はじけるっ!



 これまでの人生で最大に面白い恋バナが、はじけるっ‼



 フランスは、声をひっくり返しながら、荒い息で言った。


「いつのまに、ちょっと……、わたし、全然分からなさすぎるわ。全部教えて。詳細にお願い」


「ん~……、気になりはじめたのは、西方に向けての旅のはじめに、ダラム様がゲームにむきになったときです」


「ほう、ほう!」


「ムキになるわりに、負け続けても怒らずずっと楽しそうで、いいなって思って。腕相撲で負かした時の反応が、かわいいと思ったんです。ちょっと涙目なところが。その後も、飲みの勝負で負けて、二日酔いで髪のセットも、服の着こなしもままならないのに、ずっと気づかって下さるのが、もっといじめたくなる感じで」


「ほほう!」


「あと、なぜか、腕相撲での勝負以来、お嬢様と陛下がいないところで、ダラム様がずっと直球で口説いてくるので」


「なんですってーッ‼」


 あの女たらしの、直球の口説き文句‼


 気になるーッ‼

 気になりすぎるーッ‼


 フランスは、鼻息荒めで聞いた。


「アミアン、ちょっとだけ聞かせて、どんな、どんな感じだったのか」


 アミアンがにっこり言う。


「だめです。これは、わたしのですから」


 フランスはその答えに、顔のにやつきが限界を突破して、もはや完全に笑顔ではげしくうなずきつつ言った。


「うんうんうん! そうよね! そうよね! それはふたりの大事なことだもの!」


 もうそのあとは、言葉にならない奇声だった。



 あれ。



 でも、それじゃ、アミアンは帝国に連れ去られちゃうかしら。


 嬉しいけど、さみしい。



 フランスは、アミアンにぎゅっと抱きついた。





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