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第201話 女たらし、諫言する

 フランスは執務室の窓から、教会の裏にある、イギリスの天幕を見下ろしていた。

 あわただしく使用人や騎士たちが、荷物を運び出したりしている。


 本当に、帰っちゃうのね。


 フランスとイギリスが、アキテーヌから教会に戻った時には、すでにアミアンとダラム卿は教会に到着していた。


 フランスは、お茶を用意してくれているアミアンを振り返って言った。


「カーヴは大丈夫だった?」


「はい。すっかり熱も下がって、今は自室で休んでいます」


「診療所には行かなかったの?」


「明日、メゾンが付き添って行くと言っていました。とりあえず今日は、オランジュの手が空いていたみたいで、診療所で薬をもらってきてくれて、今も側について世話をしてくれています」


「そう、それなら安心ね」


 オランジュは、言い方がきついだけで、子供とか、けが人とか、ご老人にはとっても優しいものね。


 フランスは、また窓の外を見た。


 なんとなく、一ヶ月という約束はもっと、ゆっくりとほどかれると思っていた。


 あっという間に、なにもかも、イギリスがいた痕跡までなくなっちゃいそうね。

 すごく、さみしい。


 ドアを叩く音がして、すぐにイギリスとダラム卿が入ってきた。


「あら、ダラム卿すぐに見つかったのね」


 フランスの言葉に、イギリスが返事をする。


「ああ、天幕にいた」


 フランスとイギリスは教会に戻ってすぐ、執務室に向かった。


 イギリスは、天幕を片付けはじめている使用人と騎士たちの姿を見て「ダラムをさがしてくる」と言いおいて、さっき出ていったばかりだった。


 フランスは、ダラム卿に聞いた。


「今日中に、すべて片付けるんですか?」


「ええ、そのつもりです」


 イギリスが、いつもの無表情でダラム卿に向かって言う。


「わたしは、まだ片付けろとは言っていない」


 ダラム卿が、イギリスに、いつもとはちがう真面目な顔を向けて言った。


「シャルトル教皇聖下と、直接に交わした約束の滞在期間は一ヶ月。まさに今日が、その一ヶ月目です」


 ダラム卿は、すこし間をおいてから、しっかりとイギリスの目を見て言った。


「滞在期間を伸ばすことは、交渉をすれば可能でしょう。しかし、陛下が長く国をおあけになるのは、よくありません。ここへ来た目的である、赤い竜の力の制御については、すでにある程度フランスに伝えたはずです」


 ダラム卿が、礼をつくすようにして言った。


「お叱りは、受けます。陛下、どうぞ、帝国にお戻りください」


 ダラム卿の言うことは、筋の通っていることのように聞こえる。それに、皇帝たる男に、諫言する姿は立派だった。


 帝国の皇帝が、長くその席を開けることは、色々な問題を生じさせるだろう。


 イギリスがどんな反応をするかと思ったが、ただいつもの無表情で「わかった」と言っただけだった。


 ダラム卿が、いつもの優しげな笑顔をフランスに向けて言った。


「フランス、長らく、陛下がお世話になりました」


 フランスは笑顔で言った。


「陛下とダラム卿がいらっしゃる時間は、本当に、とても楽しかったです。寂しくなります」


 ダラム卿も、眉をさげて言う。


「本当に、わたしも寂しくなります。あなたとアミアンと過ごす日々は、夢のように楽しくて、あっという間でした。ですが、これで二度とお会いできないわけではありません。もちろん、あなたがたに会うために、わたしが毎日努力するということを、お疑いにはなりませんよね」


 フランスは、ちゃんと復活していた女たらしぶりに笑った。


 お互いに笑顔で、手をにぎる。


「また、フランス」


「ええ、ダラム卿。また」


 ダラム卿はイギリスに顔を向けて言った。


「荷物はこちらですべて引き揚げさせます。陛下は、ゆっくりされてから、お戻りください」


「ああ」


 ダラム卿は、「さて」と明るく手を叩いてから、アミアンに向かって言った。


「ひとりで教会を出てゆくのは寂しいので、アミアン、見送ってくださいますか?」


 アミアンがフランスに向けて、うかがうように視線をやったので、フランスは「行ってあげて」と視線を返した。


 ダラム卿が淑女をエスコートするように、アミアンに腕を差し出した。アミアンが、笑顔で慣れたふうに、その腕に手を置く。ふたり、ならんで部屋を出ていった。


 あのふたりも、寂しく思ったりするのかしら。

 すっかり、仲の良い距離感に見える。


 扉が閉まった途端、イギリスが後ろからぎゅっとひっついた。


 とりあえず、腰にまわされている腕をぽんぽんとやっておく。


「アミアンがお茶をいれてくれたのよ。とりあえず、お茶しましょ」


「うん」


 まあ、ずいぶんしょんぼりした声を出すのね。


 イギリスは、うん、と言ったものの、その状態から動く気がなさそうだった。


 フランスが、イギリスの手をなでるようにすると、イギリスがさらにぎゅっとくっつくようにした。


 やれやれ。


 ほんと。



 絶対、寂しくなるわ。





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