第197話 カヌレ、デート
フランスは思わず口もとに手をやって、固まりつつ、しっかり見た。
イギリスの裸を。
み、見ちゃった。
ぜんぶ。
そのまま、まじまじ見てしまう。
なんだか、かわいい。
奴隷のを何度か目にする機会があったけれど、男のそこらへんって、なんだか不思議に面白くてかわいい形をしているわよね。
なんで、そんなものが、ぶらさが——。
「フランス」
名前を呼ばれてはっとする。
イギリスと目が合う。
お互いに、その状態でちょっと固まってしまった。
しばらくして、イギリスが吹き出して言った。
「視線をそらすとか、できないのか」
フランスも笑って言った。
「ごめんなさい。目が勝手に。見ちゃった」
そう言ってから、イギリスに背を向けた。
今さらだけど。
「そのまま、そっちを向いていろ。虫を追い出すから」
「うん」
ん?
追い出すって、裸のままで?
……。
気になる。
まだ、お尻は見ていないし。
フランスは、ちらっと後ろをふりむいた。
ちょうど、腰に布をまいているイギリスと目が合う。
イギリスが、あきれた顔をした。
「フランス……」
「ごめんなさい」
フランスは、そっとイギリスに背を向けた。
まずい。
のぞきが、ばれたわ。
ちょっとの間、物音がして、イギリスの足音が近づく。
もう、虫は追い払ったのかしら。
ふわっと、いつものイギリスの香りがした。
耳元で、イギリスが言う。
「のぞき見したな」
「ちょっと、気になっちゃって」
「そんなに、裸に興味が?」
「まあ、ちょっと」
「ふうん」
「見せてくれるの?」
「見せるか」
けち。
イギリスが、フランスの肩越しに手をのばして、フランスの目の前のついたてにかけてあるローブを取った。
フランスは、振り向かないようにしながら言った。
「でも、これで、おあいこよね」
「なにがだ」
「あなたも、見たでしょ。わたしの裸」
「……」
「もう振り向いてもいい?」
「ああ」
イギリスが、ちょっと気まずそうな顔でこちらを見ていた。
「あなたも、着替えを手伝ってくれたときに見たでしょ」
「……ぜんぶは、みてない」
へえ。
その感じでたたかうわけ?
寝るまで、どちらの罪が深いかを言い合うことになった。
*
宿屋で朝食を終えてから、フランスとイギリスは並んで町を歩いた。
イギリスの身体って、背が高いから、町歩きするにも、なんだかまわりを見渡しやすくていいわね。
身長が低いと、道行くひとの服くらいしか見えないときもあるもの。
となりを見下ろすと、聖女フランスの姿をしたイギリスが、フランスの腕をしっかりつかんで、てくてく歩いている。甘いにおいがすると、そっちに顔を向けて、じーっと見ていた。
分かりやすいわね。
フランスも、まわりに視線をやった。
見慣れない町だった。
そういえば、アキテーヌにいるころに、町を歩いて遊ぶことなんてなかったから、この景色が昔のままなのか、すっかり変わっているのかも分からないわね。
フランスにとって、記憶にあるアキテーヌは、城の中か、父親の領地視察でついていった、町はずれの景色の良い場所か、もしくは、別邸の景色か。
あ、でも……。
フランスは、ひとつの店の前で足をとめた。
古い石造りの建物の一階で、焼き菓子を売っている。
店の名前に見覚えがあるような気がした。
イギリスがとなりで店に目をやりながら言う。
「知っている店か?」
「うーん……、記憶にはっきりとあるわけじゃないんだけれど、この店の名前にうっすら覚えがあるような、ないような」
「入ってみよう」
中に入ると、甘い香りが漂っている。
焼き菓子が、これでもかといっぱい並べられていた。
カヌレもある。
あ~……、もしかして。
「ここの、カヌレを食べたことがあるかも。昔から有名な店だったのかしら」
店の中は、まだ早い時間にもかかわらず、次々と、ひとが入ってくる。みな笑顔で、たくさんの菓子を買っていくようだった。
いかにも、人気がありそうな感じね。
フランスは、イギリスに視線を向けて言った。
「わたし、あなたにカヌレを食べてもらいたいわ」
「きみが、食べるんじゃなくてか?」
「うん。前に、カヌレを買ってきてくれたときには、昼をすぎていたから、あなたは食べられなかったでしょ?」
どうやら店の二階で食べられるらしい。イギリスは、カヌレと自分の気に入った菓子をいくつか選んで注文していた。
店の二階の、町の通りにむかって窓がある席にふたりで座る。
フランスは、花の香りがするお茶を飲みながら、イギリスがカヌレを食べる様子を見た。
「ずっと、あなたにも、カヌレを食べて欲しいなって思っていたの」
「そうなのか?」
「わたし、カヌレ好きだから。わたしの好きなもの、あなたにも食べてほしくて」
イギリスが、カヌレをひとくち食べる。
「おいしい」
ふたりで、にっこりする。
イギリスが、機嫌良さそうに言った。
「ほかは、何が好きなんだ?」
「う~ん、そうね」
「お金以外で」
「失礼ね。お金以外にもあるわよ」
ふたりでお茶しながら、好きな物を教えあう。
それだけのことが、驚くほど楽しい。
フランスはおしゃべりしながら、イギリスが美味しそうにカヌレを食べる姿を見つつ、まわりの席を見た。
みんな、美味しそうに、菓子を食べたり、お茶を飲んだりしている。
うん、いいわね。
アキテーヌのこと、あらためて、好きになっちゃいそう。
イギリスが、本当に美味しそうに、大事そうにお菓子をもぐもぐしている。
かわいい。
これって、素敵なデートね。




