第195話 アロンの骨
フランスの目のまえで、イギリスとヴラドがお互いをつかんだ状態で、金銀財宝の上に倒れ込んだ。
うわぁ、やめて!
何か壊れちゃうわよ!
イギリスが、ヴラドにまたがるみたいにして殴ろうとしたとき、ヴラドが急に姿を変えた。
大きな色素の薄い虎だった。
わ。
やっぱり、ヴラドも姿を変えられるのね。
ヴラドが脅すように吼えたとき、イギリスも同じようにして虎の姿になった。
ヴラドが一瞬、驚いた様子だったが、すぐに気を取り直して、ふたりとも威嚇しあうようにした。
イギリスが飛び掛かって、ヴラドともみくちゃになって金銀財宝の上で暴れる。
いやあああ!
そこに置いてあった、驚くほど大きな水晶の塊が、ふたりが暴れたせいで倒れ、砕け散った。
フランスは、思わず「コラーッ‼」と叫びながら、ふたりに近寄った。
大股で近寄り、声にびっくりした様子のイギリスの虎の首根っこをつかまえる。そのままひっぱってヴラドのもとに行き、きょとんとした顔でこちらを見ているヴラドの虎の首根っこも同じようにつかんで、金銀財宝のある部屋から出る。
外で、ふたりの首をはなしてから、しかりつける。
「いいかげんにしなさい! おっきな水晶壊れちゃったでしょ!」
イギリスが、虎の姿のまま獣の声で、不満そうに何か言ったので、フランスはげんこつをするみたいに手をふりあげた。
イギリスが、ちょっと怖がるみたいに頭を下げる。
ヴラドが、同じく虎の姿のまま、獣の声で笑うみたいにした。フランスは、ふりあげた拳をヴラドの脳天に振り下ろした。
ヴラドが、人間の姿に戻って、叫ぶ。
「なんで、わたしだけ殴るんだ!」
「あなたが、余計な事しなければ、こんなこと起こらなかったからよ」
イギリスが人間の姿に戻って、ヴラドのことを鼻で笑うみたいにした。
「イギリス。やめなさい」
フランスが叱るように言うと、イギリスが不満そうに鼻をならして、そっぽを向いた。
まったく。
フランスがため息をつくと、ヴラドがフランスと腕を組むようにしてくっつき言った。
「フランス、きみは、人間じゃないものを連れているんだな。この男は、もしかして、きみのペットかなにかか?」
イギリスがすんごい顔をした。
こわ。
「イギリスは、わたしのともだちよ」
「ふうん」
ヴラドはちょっと考えてから、楽しそうな顔で言った。
「わたしもともだちになりたい」
え……。
赤い竜のともだちのつぎは、竜の子供のともだち?
それって……、面白いわね。
フランスは、気軽に答えた。
「いいわ、よろしくね」
「ちょっと、待て!」
イギリスが間に割って入った。
ヴラドが、バカにしたような顔をイギリスに向けて言う。
「邪魔するな。おまえも、どうせ妖精のたぐいだろ。わたしのほうが半分人間だから、フランスのともだちにふさわしい」
「わたしは人間だ。呪いでちょっと竜の力があるだけだ」
どっちもどっちね。
フランスは、イギリスの手と、ヴラドの手をとって、ふたりの手を握手するみたいにさせた。
「はい、これで、ふたりはともだちね」
イギリスとヴラドが、すごい素早さでお互いの手をはなす。
ヴラドが、またフランスと腕を組むようにして言った。
「ともだちになったから、面白いものを見せてやる」
「面白いもの?」
「アロンの骨とかどうだ?」
あ……、アロンの骨⁉
……。
「見たいわ」
「よし、こっちだ」
フランスは、ちょっと進んでから、うしろでとんでもなく不満そうな顔をしているイギリスに手を差し出して言った。
「一緒に行こう、イギリス」
イギリスが、素直に手をつなぐ。
待って……。
カリエールより、手がかかるんじゃない、このふたり。
やれやれね。
ヴラドは、フランスとイギリスが最初に階段でおりて来た場所までもどり、壁にあいている、人がひとり横になれそうな感じの穴に手を突っ込んで、まさぐるみたいにした。
「お、これっぽい」
そう言って、ヴラドが穴から手を出すと、そこに頭蓋骨が乗っていた。
うっわぁ。
アロンの骨が、こんなぞんざいな扱いを……。
ヴラドが「ほら」と気前よく差し出してきたので、フランスは断るのも悪い気がして、頭蓋骨を両手で受け取った。
これが、アロン。
ごめんなさい。
気安く触っちゃって……。
ん?
フランスは、頭蓋骨を傾けて、自分の首もかしげた。
ヴラドが、となりで同じように首をかしげながら言う。
「どうした?」
「中に、何か入っているわ。カラカラって音が」
フランスがひかえめに頭蓋骨をふると、からころと音がする。
「ほんとだな。かしてみろ」
ヴラドに渡すと、彼は容赦なく頭蓋骨を振った。
中から、カラカラカラカラ! とすごい音がする。
うわああ!
「ちょっと、やめてあげて! なんてことするのよ!」
フランスが頭蓋骨を取り返そうとしたとき、ヴラドが振りまくっている頭蓋骨から、何かが飛び出した。
飛び出したものが、イギリスの額に思いっきりあたる。
フランスは、思わず笑ってしまってから言った。
「だ、大丈夫?」
イギリスが足元に落ちていたものをひろう。
それは、石だった。
白い石だ。
白くてつるりとしたひとつの石に、ふたつの異なる輝きを宿している。不思議な石だった。
なぜか——、それがウリムとトンミムだという気がした。
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おまけ 他意はない豆知識
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【ウリムとトンミム】
「光と完全」という意味。
大祭司であったモーセの兄、アロンが神の前ではかならず胸に入れていたという謎の石。
どんな石であったかは、諸説あり、謎につつまれています。




