第194話 アロンの墓で大喧嘩
フランスのとなりで、イギリスがぶつぶつ文句を言いながらも、丁寧にウリムとトンミムをさがしている。
よっぽど、ヴラドに気持ちよくされたのが、嫌だったらしい。
フランスとイギリスは、あちこちに置いてある物をどけたり、蓋を開けてみたり、裏をのぞいてみたりして、ウリムとトンミムをさがしまわった。
だが、それっぽい石は見つからない。
フランスは、足元に転がっている、いかにも普通の石ころを持ち上げて、言った。
「まさか、こんな感じじゃないわよね。こんな感じだったら、絶望的よ」
「さすがに、もっと磨いてあったりするんじゃないか?」
「う~ん、そうよね。こんな普通の石っぽかったら、ここらじゃ無限回収できちゃうわよ」
フランスが石をぽいっとやった瞬間、目の前があやしく溶けるようになった。
何度かまばたきをする。
女の手が目の前にある。姿がもとに戻った。
「もう、正午なのね」
「地下だから、すっかり分からないな」
「こんな調子じゃ、急がないとすぐ夕暮れになっちゃいそう。わたし、となりの部屋を見て来るわ」
イギリスが、大丈夫か、みたいな顔をした。
「何かあったら叫ぶし、そこからすぐのぞける場所よ」
となりの部屋は、みじかい横穴でつながっている。
イギリスがうなずいたのを見届けて、フランスは横にのびている道を進んだ。
すぐそこに簡単な扉のようなものが取り付けてある。
フランスは、その扉をあけて、中を見た。
中を見た瞬間、思わずその中に飛び込んだ。
いやーっ!
金ぴかすぎるっ‼
最高‼
そこにあったのは、金銀財宝の山だった。
足元を見ると、大きな金貨や、大きな宝石がゴロゴロ転がっている。
フランスは、金色のゴブレットをひとつ持ち上げてみた。
重い!
うわあ、素敵、素敵、素敵~。
ここに、住みたい。
ヴラドの、あの貴族らしい服装や、いかにも高級な家具の類は、どうやって集めているのかと思っていたが、とんでもない財産持ちだったのね。
お金持ちだわ。
金ぴかの、お金持ち。
すると、耳元で急に声がした。
「気に入ったか? フランス」
おどろいて振り向くと、ヴラドがにやにやしながら立っていた。
「びっくりしたわ。いつのまに」
足音も聞こえなかった。
そういえば、階段を降りて来た時も、急にうしろにいたわね。
どうやって?
もしや、イギリスと同じように、人以外に姿を変えられるのかしら。
フランスは、ふと不思議に思って言った。
「あら、なぜ、フランスだと?」
「正午をすぎただろ」
あ、そっか。
そこも説明していたっけ。
ヴラドがからかうように言う。
「ウリムとトンミムをさがしに来たと言いながら、本当は、小竜公の財宝目当てか?」
「いいえ、そんな。あなたの財宝を奪おうなんて考えてないわ。……あ、でも、ちょっとだけしてみたいことが……」
ヴラドがどうぞ、という仕草をしたので、フランスは金銀財宝の山になっているところに、寝ころんでみた。
「そんなことして、楽しいか?」
「金銀財宝と一緒に眠るのって、どんな気分かなと思って」
「だいぶ、変わっているな」
聞かなかったことにする。
フランスは、耳元で金貨をちゃりちゃりやりながら言った。
「寝心地は悪いけれど、気分はすこぶるいいかもしれない」
「金貨を、まぶたの上にのせて眠ると、金銀財宝の夢が見られるぞ」
えっ。
フランスは、そこらにある、金貨をふたつとってまぶたに乗せた。
「……」
ヴラドがおかしそうに笑っている声が聞こえる。
「ぜったい、うそついたでしょ、今の」
そこまで言って、フランスは首をふってまぶたの金貨を落とした。
すぐ目の前に、ヴラドの顔がある。
「ヴラド、どいて」
「いやだ」
フランスは両腕に力をこめて身体をひねろうとしたが、びくともしなかった。ヴラドがフランスの両腕をしっかりと掴んで、覆いかぶさるようにしているせいだ。
ヴラドが、フランスの首筋に顔をうずめるようにして、深く息を吸った。
ひぃぃ。
「ああ、ほんといい匂いだな。処女の乙女ってだけじゃない、もっと格別な香りがする」
聖女だからかしら。
全然、うれしくない。
ヴラドが、フランスの目をのぞき込むみたいにして言った。
「なあ、もうすこし、血をくれないか?」
「……」
フランスはちょっと考えてから言った。
「あの、気持ち良くなる、という状態にならずに、あなたに血をあげることはできないの?」
「……できない」
今の間はあやしい。
「ヴラド、あるんでしょ?」
ヴラドが、面白くなさそうな顔をして言った。
「まあ、ある」
「それは、どうやって?」
「それは」
そこまで言った後、ヴラドが横ざまに吹っ飛んでいった。
びっくりして見ると、イギリスが怒りの形相で立っていた。
ヴラドは、イギリスに容赦なく蹴り上げられたのか、悪態をつきながらわき腹をおさえている。
さらにイギリスが、ヴラドに向かって行こうとしたので、フランスはあわててイギリスを止めた。
「まって、イギリス。乱暴しないで!」
「なぜ、かばうんだ。まさか、喜んで、あんな状態になっていたんじゃないだろうな」
「失礼ね、そんなはずないで……あ、ちょっと!」
イギリスは、フランスが止める間もなく、ヴラドに向かっていって、もう一度思いきり蹴りつけるみたいにした。
ヴラドも怒ったのか、イギリスにつかみかかった。
いやぁぁ、喧嘩。
金銀財宝を壊さないでよ!




