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第192話 ドラキュラに血を捧げよ

 フランスは、目の前に突然現れた、あやしげな雰囲気のヴラドに、挨拶を返そうとした。


 すると、ヴラドがイギリスの両腕をつかんでひきよせた。


 彼は、ぐっとひきよせた聖女フランスの姿をしたイギリスの首筋に顔をうずめ、深く息をすった。


 ひえ。

 気持ちわる。


 ヴラドが、恍惚とした表情で言う。


「ああ、最高級品の香りがする。おまえ、処女だな。しかも、ただの処女でもなさそうだ」


 ヴラドがさらに、よくかいでやろうとしてか、イギリスに顔を近づけた。とたんに、イギリスが、ヴラドの髪を思いっきりつかんで、容赦なくひっぱった。


 ヴラドが、さっきまでの、冷たい雰囲気と打って変わって、雑に叫んだ。


「痛い! 痛い! おい、やめろ! とんでもなく雰囲気のない女だな! はなせ!」


 イギリスが容赦なく髪をつかんで、引っ張り続けたままでいると、ヴラドは態度をかえて言った。


「わるかった。謝るから、髪をはなせ」


 イギリスが、手を離すとヴラドは、距離をとるようにして離れて、舌打ちした。


「まったく、なんて女だ。そんな感じだから、売れ残って処女のまんまなのか。凶暴すぎるぞ」


 ちょっと……。

 失礼ね。


 今はそっちの中身が男だからであって、もとは、そんなに凶暴じゃないわよ。


 イギリスが、汚物でも見るような目でヴラドを見ながら、かなり嫌味なかんじで言った。


「小竜公殿は、ずいぶん立派な邸宅にお住まいだな。ほこりひとつ見当たらない、居心地の良い素晴らしい家のようだ」


 フランスは、まわりを見た。


 いや、もう、ほこり、とかいう感じではない。砂だらけの上に、岩肌そのままの様子だし、どう考えても居心地がよさそうには見えない。


 ひさしぶりに、皮肉全開ね。


 ヴラドが、最高に嫌そうな顔をしながら言った。


「おまえ、嫌なやつだって、よく言われないか? 凶暴な上に、可愛げまでないんだな」


 やめてよ。

 もう。


 ほんと、言ってやりたい。

 その女の中身は、こっちの可愛げのないサイズ感の男よ。


 フランスは、間に割って入って言った。


「あの、わたしたち、探し物をしているんです。このアロンの墓にあるはずのものを」


「探し物?」


 ヴラドが、ふーん、となにやら考えるようにしてから言った。


「あるものをくれるなら、わたしの家を、好きにさがしてもいいぞ?」


「あるもの?」


 ヴラドがイギリスを指さす。


「とんでもなく凶暴で、性格にかわいげがないのが残念過ぎるが、顔はかわいいし、香りは最高だ。その女の血が欲しい」


 フランスは、思わず眉をぎゅっとして言った。


「血? 血なんてどうするんです?」


「飲むんだ」


 イギリスが、汚物を嫌そうに見る顔をした。

 フランスも、ぞっとして、ちょっと引き気味にヴラドを見た。


 だいぶ……、こわいわね。


 フランスは、おそるおそる訊いた。


「血なんて、飲んだら、彼女が良くない状態になるのでは?」


「安心しろ、倒れるまで飲んだりしない。まあ、ちょっとフラッとすることは、あるかもしれないが、しばらくすれば回復する程度だ。それ以外の危険はない」


「本当ですか?」


「ほんと、ほんと。絶対、安全!」


 ほんとかしら……。

 なんだか、かなり怪しいけれど。


 でも、突然家に侵入してきた者に対して、意外にひらけた態度で接してくれているし……。



 大丈夫か。



 フランスは、うなずきながら言った。


「それじゃあ……」


「ことわる」


 フランスが言い終わる前に、イギリスが、断固とした口調で重ねてきた。


 フランスは、イギリスの表情を見てから、ヴラドに向かって言った。


「嫌がっているので、他の何かじゃ、だめです?」


「他の何かはいらない。わたしは、処女の美味しい血が飲みたい。それ以外なら、お断りだ。居心地よく家で過ごしているところに、押し入っておきながら、ずうずうしくないか?」


 まあ、そう言われると、そうかもしれない。

 でも、ここって、アロンのお墓だけど。


 うーん……。


 一応、どんな感じか聞いておこう、とフランスは質問した。


「でも、どうやって飲むんです? 切りつけたりとか……?」


「大丈夫だ。跡も残らない。首筋に、ちょっと牙をつきたてて、飲むだけだ。飲み終われば、すぐに傷はふさがるから、安心しろ。痛みもない」


「他に、何も、ないですよね?」


 すると、ヴラドがちょっと、弱腰に回答した。


「あ~……、まあ、ちょっと」


「ちょっと……?」


「ちょっとだけ、気持ち良くなる」


 気持ち良くなる?


 なんだ、気持ち良くなるなら、いいじゃない。

 背中をもみほぐしてもらうくらい?


 フランスは、イギリスに笑顔を向けて言った。


「じゃあ、さくっと血を飲んでもらって——」


 イギリスが、大きい声で言った。


「ことわる!」


「わがまま言わないで。ちょっと血を飲ませたら、探していいって言ってくれているんだから。いいじゃない」


「いやだ!」


 なんで、そんなに必死なのよ。


 フランスはイギリスの必死な様子に、かわいそうになって言った。


「じゃあ、入れかわってからにする?」


 ヴラドが、首を傾げて口をはさんだ。


「入れかわってから?」


 あ~……。


 ヴラドは、ずいぶん遠い国に住んでいる、関わりのない人だし、言ってもいいか。


「わたしたち、午前中だけ中身が入れかわっているんです。呪いみたいなもので。わたしがフランス、本来はそっちの女の姿をしています。で、今、嫌がっているのはイギリス。本来は、こっちの男の姿」


 ヴラドが、きょとんとした顔で言った。


「え……? そっちが、こっちで、ん? どっちなんだ?」


 フランスは、イギリスと自分を指し示しながら、ゆっくり言った。


「正午になったら、正しい状態に戻りますが、今は中身が入れかわっているんです」


「ややこしいな」


「そう、ややこしい感じなんです」


 ヴラドが、なんだか上機嫌になって、フランスに言った。


「ふうん、じゃあ、入れかわってからがいいな! ちゃんと、かわいいっぽいし」


 あら、悪い人じゃないかもしれないわ。

 フランスはにっこりしておいた。


 なぜか、イギリスが急に意見をひるがえした。


「今飲め」


 どうしちゃったのよ。

 大丈夫?


 フランスが、イギリスを心配してのぞきこんでいると、ヴラドは、気にしていなさそうに言った。


「まあ、どちらでもいい。それでは、いただくとしよう」


 ヴラドが、両手でイギリスを引き寄せるようにする。


 とんでもなく嫌そうな顔をしているイギリスの首筋に、ヴラドはためらいなく噛みついた。


 ヴラドの喉が、少しずつ血を飲むたびに、上下する。


 イギリスが途中から、足に力がはいらないのか、ヴラドの服にしがみつくみたいにした。ヴラドがイギリスの腰に腕をまわして支えながら、強く抱きよせるようにした。


 イギリスは耐えるようにしていたが、荒い息を吐いたあと、ちいさく声をあげた。



 その様子が、あまりに……。



 なんだかわからないが……、とてつもない破壊力で……、フランスの下半身を襲った。



 えっ。



 これ、まずいやつかもしれない。

 完全に、お股が膨らんじゃった……。


 またしてもお股がきつい。


 よくない!

 興奮してる気がする!


 また、イギリスが小さく声をあげたあと、叫ぶようにした。


「いやだ! フランス!」


 フランスは、あわててヴラドから、イギリスを引きはがすようにした。



 いや、でも、今は、こっちも危険かもしれない‼






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