第118話 ビッグなバード
フランスとイギリスは、謎の声に案内されるまま、金属でできた廊下を進んだ。
イギリスはときおり振り向くようにして、場所を確認しながら進んでいるようだった。
謎の声は、ずっと鼻歌をうたっている。
謎の声が鼻歌をやめて言った。
「あっ、そこそこ、そこ右にまがれるだろ? そっちに入ってきて! 一番奥の階段を上がった先の扉をあけて、そのまたさらに奥に進むともう一個扉があるから、そこまで来れば、ぼくにあえるよ。ぼく、ちょっとおしっこ行ってくるから、あとでね」
それを最後に、声は聞こえなくなった。
あたりがしんとする。
フランスはイギリスに向かって言った。
「なんだか、思ったより随分、接しやすそうな雰囲気でしたね。あれが、鶴か亀でしょうか」
「声と話し方だけでは判断できない。もしもの時は、すぐにわたしの後ろに隠れろ」
「はい」
声に言われた通り、奥まで進む。
奥へと進むほど、廊下は細くなり、天井が低くなる。そこら中に、なにか分からないものが、ところせましと並べられていた。大事そうに置いてあるとはいえない。ガラクタを積み上げるみたいにして、何か分からないものがたくさんあった。
物は奥に行くほど、どんどん増える。
謎の声が言っていた、最後の扉の前まで来た。
鉄製の小さめの扉だ。
イギリスが先に様子をうかがってから入る。
大丈夫そうね。
フランスがほっとした瞬間、イギリスの姿が消えた。
何かに押されるようにして。
さっき、ひびわれて聞こえていた声がする。
なめらかに、はっきりとした声で。
「やっほー! ひとだー! ひさしぶりに実物見るよ! やあやあやあやあ、こんにちわ、こんにちわあ!」
どうやら、イギリスは謎の声のいきものに、思いっきり抱きしめられるか何かされているっぽい。どうしていいか分からなさそうな、所在なさげな手だけが、ちょこっと見えていた。
あとは、謎の声のいきものの一部が、扉の向こうにみえている。
ふわふわの大きな、たぶん……、お尻。
鳥の尻っぽい?
いや、よく見る鳥の尻とちがいすぎるけれど……。見えているのはふわふわの羽毛だ。
なんだか、随分おおきくない?
フランスは、手を祈るようにしてぎゅっとした。
いったい、どういう、いきものなのかしら。
不安。
ひとしきり挨拶が終わったのか、羽毛のかたまりが扉のほうに身体をひきもどして、フランスのほうを見た。
ひえっ。
大きい。
二本足で立つ大きい鳥さんよ。
頭と胴体が鳥っぽいが、手と足はちょっとひと寄りの形をしている。イギリスより頭ふたつ分ほども背が高そうだった。
鳥さんは、いかにも陽気な感じで、両手をひろげて、フランスのところに来た。
まるで友達同士みたいに抱きしめられる。
「やあやあやあ、かわいらしいひとの女の子ちゃん、こんにちわ、こんにちわあ。来てくれて嬉しいよ。不法侵入だとしてもね。強盗じゃないなら、オッケーオッケー。あ、もしかして強盗かな。ま、いいや! さ、一緒においしいジュースでも飲もう。ぼく、喋ったら、のどかわいちゃった」
そう言って、大きくて背の高い鳥は扉の奥に入っていった。
フランスが、唖然としていると、扉のむこうにイギリスがあらわれる。
彼の体中、羽毛がそこかしこについていた。
自分の服を見下ろすと、フランスも羽毛だらけだった。
冒険しょっぱなから、変なことだらけだわ。
気をしっかり持たないと。
フランスは自分の服をはらって、目をぱちぱちやってから、イギリスのもとに行って彼の服の羽毛もはらった。
ふたりで、うなずきあって、大きな鳥が進んでいったほうについてゆく。
大きな鳥が向かった先は部屋になっていた。窓のない部屋だった。壁という壁に棚があり、色とりどりの本や、何かわからない物がたくさん置いてある。
玩具かしら?
いや、なにか呪術に使う道具とか?
複雑な形の、人形のようなものもたくさん並んでいる。
部屋の真ん中には大きな木製のテーブルと、長椅子があった。長椅子は全面が布張りで、どの面もふかふかしていそうな作りだ。
大きな鳥が、その椅子を指して言う。
「そこに座って、くつろいでて、ジュース持ってくるね」
イギリスと並んで座る。
わ、すっごい、ふっかふか。
しばらくすると、大きな鳥が盆の上に色々と乗せて戻ってくる。
なにかしら。
とってもキレイで不思議ね。
盆のうえに乗っているのは、飲み物が入っている瓶のようなものと、グラスのようなものだが、フランスが知っているものとはずいぶん様子が違う。
グラスは、薄くて透き通るような透明のガラスで出来ている。
まるで、水でできたグラスだわ。
ゆがみがなく、無機質な美しさがある。
瓶も同じく、薄いガラスだろうか?
あまり見たことのない感じの光り方をしている。
大きな鳥が三つある瓶を順番にゆびさして言った。
「これが、紅茶。こっちが、ぶどうジュース。で、これが、コーラ。どれ飲む?」
コーラ?
イギリスは紅茶を選んだ。
フランスは最も意味が分からないコーラを選んだ。
イギリスが、大丈夫か、みたいな怪訝な顔で見てくる。
何事も挑戦でしょ。
冒険よ?
大きな鳥が、瓶をもつと、瓶がへこんだ。
わ!
やわらかいガラス?
すごい、すごい。
フランスは、もうワクワクが目玉から飛び出るのでは、というくらいの気持ちで見つめた。
フランスの目の前に置かれたグラスには、おっそろしく黒い飲み物。
しかもなにか表面で強くはじけてしゅわしゅわ言っている。
これが!
コーラ!




