第7章:「失われた調味料と異世界の扉」
味変食堂の厨房は、今や日々のように賑わい、さまざまなアイデアが交錯する場所となっていた。しかし、その日はいつもと少し違っていた。何もないはずの壁の隙間から、まるで魔法のように「ひょこっと」現れた、古びた瓶が目を引いたのだ。
「菜々美、これ見て!こんな瓶、どこから……?」
はるかが厨房の棚に埋もれていた瓶を取り出し、その蓋を開けてみた。瓶の中身は、見慣れないスパイスが詰まっているようで、全員の視線がその瓶に釘付けになった。
「……これは、どこから出てきたの?」
菜々美が目を細めて瓶を見つめる。
瓶の底には、古いラベルが貼られており、そこには「異世界・スパイスの扉」と記されていた。
「異世界……スパイス?」
健太がその言葉に反応し、やや不安そうな表情を浮かべる。
「まさか、本当に異世界から持ち込んだスパイスがあるのか?」
龍也が眉をひそめた。
「確かに、異世界の食材や調味料って、以前も聞いたことがあるわ。でも、こんな瓶、初めて見た……」
菜々美は瓶を手に取り、何かしらの考えを巡らせるようにじっと見つめた。その時、突然、瓶の中から小さな光が漏れ始め、まるで目に見えない扉が開くような感覚が全員を包み込んだ。
「わわっ!何、これ!」
はるかが驚きの声をあげると、瓶からふわりと現れたのは、透明な煙のようなものだった。煙はゆっくりと空中に漂い、やがて誰かの手のひらに落ちると、静かに消えていった。
「……何が起きたんだ?」
菜々美がその後、ゆっくりと空気を読みながら、瓶の内容物を慎重に確認し始めた。
「この瓶……何か、古代の調味料に関する“鍵”みたいなものだわ。これを使えば、“スパイスの扉”を開けられるかもしれない」
その言葉に、みんなが静まり返る。
「スパイスの扉……って、どういう意味?」
菜々美は瓶を両手で大切に持ち上げ、ゆっくりとその蓋を再び閉めた。
「“スパイスの扉”って、伝説にもあるわ。異世界の料理に使われている“失われたスパイス”を手に入れることで、異世界のレシピや料理法が解ける、という……でも、この瓶はその鍵なのかもしれない」
その言葉を聞いて、みんなの目が一斉に輝いた。
「異世界のレシピ!?それ、めっちゃ面白そう!」
「それって、もしかして……本当に異世界の料理を食べられるかも?」
「よし、早速調べてみよう!」
みんなが一斉に動き出す中、ただひとり、冷静に状況を見守っている者がいた。
「……でも、こういうのって、実際にはあまりうまくいかないことが多いよな」
それは、優月だった。いつも理論派で、料理においても絶対的な信念を持つ彼は、この異世界のスパイスが本当に役立つのか疑問を感じていた。
「確かに、理論的には面白い。でも、こういうのは慎重に進めるべきだ」
菜々美は微笑みながらも、その言葉に耳を傾けた。
「もちろん、慎重にやるわ。だけど、このチャンスを逃したくないの。新しい味を追い求めることが、私たちの目標でもあるんだから」
「……わかった。それなら、俺もサポートする。でも、最終的には味がすべてだからな」
優月が納得した様子で答え、みんなの視線が再びその瓶に注がれた。
「じゃあ、これを使って、まずはレシピを見てみよう!」
菜々美が意気込みを見せ、瓶を開けた。
すると──瓶の中から、次々に浮かび上がる古代のレシピと、異世界の料理法が描かれたカードが現れた。
「これ、何かのメニュー表みたいだ!」
はるかが手を伸ばし、そのカードを取り出すと、そこには「火焰スープ」や「月の花のスパイシーサラダ」といった、異世界らしい名前が並んでいた。
「この料理……本当に作れるのか?」
「うーん、ちょっと自信はないけど、まずは試してみる価値はありそうよ」
菜々美はレシピカードを手にし、みんなに向かって微笑んだ。
「新しい味、発見してみよう!異世界の料理を、私たちの味に変えてみせるわ」
その瞬間、食堂の空気が一変した。異世界のスパイスとレシピが、味変食堂の新たな挑戦を引き寄せ、すべてが未知の領域へと進んでいくような予感を感じさせた。
次の日──食堂には新たな異世界料理が並び、客たちの好奇心を引きつけていた。
「これが、異世界の味……」
菜々美は料理を前にして、慎重にその味を確認する。異世界のスパイスがどんな風に食材と絡み合い、食べる人にどんな影響を与えるのか──それを確かめる瞬間が訪れていた。