第5章:「龍也、デリバリー革命を起こす」
味変食堂が忙しくなる時間帯が過ぎ、しばらくの静けさが広がった。食堂内は、料理の匂いと、スタッフたちの軽い会話が交じり合う心地よい空間となっている。
そのとき、龍也が何やら真剣な顔つきでやってきた。
「みんな、ちょっと聞いてくれ!」
龍也は突然、みんなを集めて話し始めた。いつもの落ち着いた雰囲気とは違って、今日は何か大きな決意を込めた表情をしている。
「俺、やっぱりこのままじゃダメだと思ってるんだ。食堂の外にも、もっと広がりを持たせないと!」
菜々美が眉をひそめる。
「広がりって、どういうこと?」
「つまり、デリバリーだ!デリバリーサービスを始めるんだ!」
その一言で、全員が一斉に反応した。はるかは目を大きく見開き、菜々美は軽く口を開けて驚き、健太は少し戸惑った表情を浮かべている。
「デリバリーって……料理を外に持ち出すってことか?」
「うん、そうだよ。実は、最近の流行りを見ていて思ったんだ。どんなに美味しい料理も、店内でしか楽しめなければ、限界がある。もっと多くの人に、味変食堂の料理を届ける方法がないかって」
「でも、食堂って雰囲気も大事だし、味変食堂の“個性”を外に持っていくって、ちょっと難しくない?」
菜々美が慎重な意見を述べると、龍也はにっこりと微笑んだ。
「それが、俺の考えだ。外でも、あの“味変”をどうやって伝えるか。例えば、持ち帰り用の容器を一工夫して、見た目にも楽しさを加えるとか、配達員がちょっとしたパフォーマンスをしながら届けるとかさ」
「パフォーマンス?どういうこと?」
「例えば、配達員が玄関で『今日のスパイスは、ちょっと辛めでございます!』って言って渡すんだよ。そうすれば、ただの食事じゃなくて、ワクワクする体験になるだろ?」
はるかが勢いよく手を挙げて、興奮気味に言った。
「それ、面白い!じゃあ、私がスパイスの振りかけ方を工夫する!お皿に描けるくらいのスパイスアートを作ってみるわ!」
「いいね!それ、食べるのが楽しみになるし、見た目も楽しくなる!」
全員が一気に盛り上がる中、龍也がもう一つのアイデアを口にした。
「そして、デリバリーだけじゃなくて、街のイベントにも参加しよう。例えば、料理フェスティバルに出店して、“味変の世界”をもっと広めていけたら、食堂のブランド力もアップするだろ?」
菜々美が頷いた。
「うん、確かに。それなら、食堂の名前も知られるし、客層も広がるかもしれない」
健太が少し心配そうに言う。
「でも、そうやって外に展開することで、食堂の中の雰囲気や、スタッフの仕事に影響が出ないかな?今のままでやっていけるのかな?」
龍也はその言葉にすぐに答える。
「もちろん、俺たちの“家”の部分は大切にしたい。でも、それを外に広げていくことで、もっと多くの人が“味変食堂”に興味を持ってくれる。今までは“内向き”すぎたんだよ。もう少し外にも目を向けよう」
その言葉に、全員がしばらく黙って考え込み、やがて菜々美が決断した。
「よし、やってみましょう!まずは、デリバリーサービスのスタートから始めて、イベントにも参加してみる」
「おおっ、菜々美さん、賛成してくれるのか!ありがとう!」
はるかもノリノリで言った。
「じゃあ、私も料理の見た目をもっと面白くしなきゃ!あ、スパイスでアートってアイデア、完全に受け入れたわ!」
健太は少し不安そうにしていたが、菜々美が手を叩いて元気づける。
「大丈夫、健太。きっとみんなで協力すれば、うまくいくわよ」
龍也が改めてみんなを見回し、最後に笑顔で言った。
「みんな、ありがとう。これからもっと大きなステージに行くために、少しずつでも変化を恐れずに進んでいこう!」
その言葉に、みんなが笑顔で頷いた。龍也のデリバリー革命が始まる瞬間だった。
その後、味変食堂のデリバリーサービスは急速に人気を集め、街中でその名前を見かけるようになった。さらに、参加した料理フェスティバルで、食堂の「奇抜で楽しげな料理」が注目され、あっという間に話題となった。
味変食堂は、今まで以上に賑やかで、外向きな展開を迎えたのだった。