第2章:「ダンジョンパクチーと大雅の革命スムージー」
朝の陽光が差し込み、味変食堂の店内がゆっくりと目覚める。今日も何事もなかったかのように、優月が忙しなく調理台を整え、はるかが奇妙なスパイスを瓶に詰める音が響いていた。菜々美は、いつものようにメニューのビジュアルデザインを手がけ、独特のアートな盛り付けを試みている。
だが、その日の朝は、いつもと少し違った。厨房に入るなり、大雅がひときわ大きな声で宣言した。
「俺、新しいメニュー思いついた!」
大雅が持っていたのは、両手に抱えるほどの巨大な果物──ダンジョンパクチー、という名の異世界産スーパーフルーツだった。パクチーがフルーツ化したというその果物は、見た目は巨大なアボカドのようで、皮がゴツゴツしていて、まるで恐竜の卵のような形をしていた。
「大雅、それは……本当に食べられるのか?」
優月が目を細め、慎重にその果物を見つめる。
「大丈夫だって!異世界のダンジョンで採れた超有名なパクチーの果実だぜ!これで、革命的なスムージーを作るんだ!」
菜々美が横から顔を出し、興味津々でその果物を見つめる。
「それ、ちょっとエキゾチックすぎるんじゃないの?」
「いや、でも美味しいんだって!食べた人、みんなハッピーになるんだぜ。だから、俺、これを使って、みんなが笑顔になれるスムージーを作る!」
菜々美が肩をすくめる。
「ハッピーになるって……その“パクチー”って、ほんとにパクチーなんだろうね?もしかしたら、味がめちゃくちゃだったりして」
「大丈夫だって、信じてみて!」
大雅は無邪気に笑いながら、そのダンジョンパクチーを割り、果肉を取り出すと、すぐにミキサーにかける準備を始めた。周囲はそのフルーツの強烈な香りに包まれる。確かに、異世界の食材特有の、未知なる匂いが漂っていた。
「大雅、あんまり大胆にいきすぎるなよ?これはただの飲み物じゃないんだ。食べ物は心で味わわなきゃ意味がない」
優月が警告を発したが、大雅はすでにその魅力に取りつかれているようだった。
「心で味わうって?そんなんじゃなくて、これが革命なんだよ!俺が作るスムージーは、体に良いだけじゃなく、心の中まで元気にしてくれるんだ」
大雅はそのスムージーができたとき、すでにそれが特別な何かだと確信していた。スムージーが完成し、その色は奇妙に輝いていた。
「どうだ、これが革命スムージーだ!」
大雅は自信満々でそのスムージーをみんなに差し出す。色は鮮やかなエメラルドグリーン、香りは異世界的なスパイスの香りがほのかに漂う。
菜々美はしばらくそのスムージーをじっと見つめていたが、ついに一口飲んだ。
「……うん、予想外に飲みやすい!でも、何か後味が妙にスパイシーで……ん?」
その瞬間、菜々美の顔に色々な表情が浮かんだ。
「何か、すごく……身体が温かくなってきた気がする。頭も冴えてきて、なんだか考えが整理される感じ!」
「それ、言っただろ!体も心も元気にするんだ!」
大雅はにっこり笑って、その効果に自信を持つ。
「すごい!まるで、元気がチャージされているみたい!」
その後、次々にスムージーを飲んだはるか、綾奈、そして健太が次々にその効果を実感する。はるかは、過去の懐かしいレシピの記憶が蘇り、綾奈は今まで避けてきた決断をする勇気が湧いてきた。そして健太は、長い間溜め込んでいた感情を素直に表現できるようになった。
だが、問題はその後に起こった。突然、スムージーを飲んだ誰もが自分の内面に気づき、過去のトラウマや悩みを暴露し始めたのだ。
「お、おい、やめろってば!」
「うわっ、そんなに激しく言われると、やっぱり自分が間違ってたかもしれないって気づいちゃう……」
「わたしが悪いわけじゃないの!でも、もう終わりにしたいの!」
次々におかしな事態が発生する厨房。それは、一体どういう意味を持つのか。